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    A_wa_K

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    ハロウィンの主人公とアオガミさんの小噺。

    ハロウィンのはじまり「アオガミ、トリック・オア・トリート!」
     長引く夏の気配が漸く去り、冬の気配を強く感じるようになった秋の日の朝。
     朝食を終えたばかりの少年は毛布を軽く被るだけという非常に簡素な"仮装"をし、しかし両手は絵本で赤ずきんを襲う狼のように構えて、勢いよく半身へと向き直るのであった。
     本家とは全く異なる文化として根付きつつある秋のお祭り、ハロウィン当日。
     少年はしっかりと衣装を用意していた。無論、アオガミの分もだ。他にも頭に装着する、被るなど簡易的なアイテムも多数用意していた。少年は仲魔達と祭りに興じる気で満々なのである。
     だが、同時に彼はアオガミの一番は貰いたいと欲を抱いていた。故に、彼は朝の時間を狙ったのである。朝食後であれば、アオガミに渡す菓子はデザートにもなるからと。
    (アオガミ、どんな顔でお菓子を選ぶのかな)
     一番見慣れた表情でも、祭りには早すぎないかと指摘する回答でも、ハロウィンの概要を把握仕切っていない故に悩む姿でも、どれでも少年は良かった。いずれでなくとも良かった。どんな表情や反応であったとしても、アオガミの一番を独り占め出来るのだから。
     頬を僅かに紅潮させつつ、ベッドの下に隠したカボチャのカップケーキを思い浮かべながらそわそわする少年であったが、問いかけられたアオガミはというと。
    「トリック……トリート……」
     小さく呟きを繰り返しつつ、眉間に皺を寄せていた。
     少年が想定した悩む姿とは異なる気配であった。何故なら、彼の指先がこめかみに当てられていない。つまり、アオガミは少年の発言の意味を理解しているということだ。
     それなのに、アオガミは悩んでいる。
     彼の悩みの理由が分からず、少年は「アオガミ?」と声を掛けながら毛布越しにアオガミの腕を突いた。はっとした表情を見せたアオガミの黄金の双眸が真っ直ぐに少年を捉える。
    「すまない、少年。直ぐに回答が出来なかった」
    「別に良いよ。それより、どうして悩んでるの?」
     半身であれ、アオガミは少年とは別の存在である。探りも入れずに少年が直球で尋ねると、アオガミは半身に倣うかの如く直球に回答を提示したのであった。
    「トリック・オア・トリート、片方しか選べない問いかけだ。だが、私は君からの甘味も悪戯も、どちらも必要だと……いや、得たいと思ってしまった」
     ――故に、悩んでいる。
     寮室内に差し込む陽の光の中、輝く黄金は真摯に悩んでいる彼の心情を少年へと伝える。
    「ハロウィンが2日間あれば、どちらも選べたのだが」
     もう少し悩ませて欲しい、という"願い"は彼自身の望みに依るものであり。
    「……」
    「少年?」
    「どっちもあげるよ!」
     そう言いながらも、悪戯を考慮してなかった少年は半身へと勢いよく抱きつくのであった。悪戯に慣れてない少年にとっては、精一杯の"初めて"の悪戯だ。
    「悪戯はちょっと苦手だけど」
    「君らしい」
    「でも、沢山あげるから」
    「そうか」
    「要らないって思うくらいに」
    「それは、きっと発生しない出来事だ」
    「だったら、何時までもあげるよ」
     毛布から覗かせる緑灰色の双眸を埋め尽くすのは、アオガミの顔だ。手を伸ばし、己より冷たい半身の頬を両手で包みながら、少年ははっきりと告げるのであった。
    「ハロウィンが終わっても、アオガミが欲しいモノを」
     アオガミはそんな毛布のお化けが愛おしく思えて、両腕で確りと腕の中にいる彼を抱きしめる。
    「ありがとう、少年」

     祭りの1日は、そんな光景から始まったのであった。
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