距離のつかみ方 少年は他者との関わりが薄い。
一人行動が多く、かつそれが彼にとって好ましい空間であった。――それで、よかったのだが。
「……」
手に持つ本に視線を落としつつ、少年は幾度も隣に座るアオガミに視線を向けていた。越水から待機を命じられ、ソファに座るふたりの距離は15cm程度。少年が今まで気にしてこなかった他者との距離。
(遠いな)
それを少年は"遠い"と思っていた。手を伸ばせば直ぐに届く距離だというのに。
「……少年」
「!」
突然呼ばれ、少年はびくっと肩を震わせた。反射的に彼の視線は、ソファに置かれていたアオガミの白銀の手から黄金の双眸へと向けられる。
「少年」
不躾な視線をどう説明しようかと少年が視線を泳がせると、再び静かな声が彼を呼ぶ。
「君が、望むならば」
そして、少年へと差し出されたのは――赤色の輝きを纏う、白銀の手であった。
アオガミとの出会いを彷彿とさせる手。しかし、その指先の塗装は剥がれていない。あの時とは全く違う景色であった。
手にしていた本を膝の上に置き、少年は改めて隣に座るアオガミの顔を見上げる。
(遠い、なんて俺は勝手に思っちゃってさ)
――アオガミは、自分のことをしっかりと見てくれているのにと。
「アオガミ」
「何だろうか、少年」
「ありがとう」
しっかりと、白銀の手を握りしめながら少年は微笑むのであった。