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    chisaorito

    @chisaorito ヴェランをかきます💛💙

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    chisaorito

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    今日がキスの日かと…笑

    2024/5/24up

    #ヴェラン
    veranda

    【ヴェラン】甘い約束 午前零時。日付を跨ぐ前に帰宅したかったけど、大通りでいきつけのレストランのおじちゃんに掴まって、無理だった。
     色々夜食を持たせてくれたから、滅茶苦茶ありがたいけど!
     恋人のランちゃんと愛猫のムートが待つ家に、俺はいつでも、一刻も早く帰りたいからな~。
     駆け足で帰宅すると、ムートが軽い足取りで玄関へ出迎えに来てくれた。ピンと伸ばした尻尾をぷるぷる細かく震わせて、熱烈歓迎してくれる。
    「わはは! ただいまー、ムート! いい子にしてたか? って、いつも仕事熱心でいい子かー!」
    「ニャー」
     玄関でしゃがみ込み、両手でムートの頬を撫でくりまわした。気持ちよさそうに目を細め、喉をゴロゴロ鳴らしている。
     城内パトロールがムートに与えられた仕事だ。特に書庫は熱心に。
     一仕事終えたムートは、今夜はランちゃんに連れられて帰宅したんだ。いつも帰宅の早い方がムートを連れ帰る。
     出迎えがムートひとりってことは、ランスロットは眠ってるんだな。先に帰宅した日は、ムートを抱っこして玄関まで出迎えに来てくれるから。
     ベッドで寝てくれているといいんだけど。きっとベッドにはいないだろうなあ。
     そう思いながら、ムートを抱き上げて居間へ向かうと、やっぱりランちゃんはソファーに横たわって眠っていた。
     腕がぶらんと下がって、床に本が落ちている。
     大方、腹の上にムートを乗せて本を読んでいるうちに、寝落ちしてしまったんだろう。猫の体温って眠気を誘うよなあ。
     テーブルの上には、冷めた珈琲の入ったカップが置かれていた。眠気覚ましまで用意して起きているつもりだったのか~!
    「先に寝てくれって言ったのになあ」
     朝から視察に出ていた俺の帰宅が遅くなるのは分かっていたし、ランちゃんが寝ずに俺の帰宅を待つのも分かっていた。
     でもさ、ランちゃんはここ最近忙しくしていたから、休める時には休んで欲しいんだ。
     だから先に寝ててくれって言ったのに、やっぱり俺の帰宅を待ってくれていた。
    「寝落ちするくらい疲れてるのに」
    「にゃあ」
    「うんうん、ムートがランちゃんを眠らせてくれたんだな」
     俺の頬に顔を摺り寄せて、ムートが鳴く。床に下ろし、一緒にキッチンへ向かった。
    「ご褒美にミルクやるぞー」
     ミルクはムートの好物だ。お腹がゆるくなる猫も多いけど、ムートは平気なんだよな。俺に似て頑丈! 少し温めたミルクをウマそうに飲むと、満足したのか、リビングに置いてあるムート専用ベッドで丸くなる。今夜は自分のベッドで寝るのかな。
     俺は持たされた夜食を温めて、ソファーで眠るランちゃんを起こしに行った。

     ――『帰りは夜分になると思うし、ランちゃんは寝ててくれよな!』
    『んー、読みたい本があるんだよ』
    『それは休みの日に読んで!』
    『じゃあ、帰宅したら起こしてくれよ。俺はお前におかえりを言いたい』

     そう、甘い約束をしているから。
    「ランスロットさん~? ヴェインくんが帰って来たぜ~?」
     しゃがんで、ランちゃんの耳元へ囁く。
     小さな声で、起こしてみる。
     こんなのバレたら『起こしたうちに入るか!』って怒られそうだけど。
    『起こした』っていう事実が必要だぜ。
     ランちゃんには、このまま眠っていてもらいたい。後でベッドへ運ぶけどさ。
    「俺は起こしたからな~」
     唇を薄く開いたあどけない顔で、規則正しい寝息を立てている綺麗な顔へ声を掛けた。
     意志の強い瞳が閉じられ、騎士団長としての緊張感が解けたランちゃんは、少しだけ幼く見える。
     こんな無防備な姿は、きっと俺しか知らないんだ。
     癖の強い黒髪が頬に掛かっているのを、そっと耳に掛けた。くすぐったそうだから――っていうのも言い訳だ。
     ちょっとだけランちゃんに触れたかった。
     眠っているランちゃんに触れられるのも、俺だけだ。すっげえ贅沢で、幸せだよなあ。
    「へへ……、ランちゃんの眠りも、俺がまもーる! ……なーんてな」
     微かな声で呟いて、飯を食うかと立ち上がった時、「ん……」という甘えた声がして、動きを止めた。慌てて気配を消す。
     ヤバい。起こしちまう。
     よく眠ってると油断した。ランちゃんは他人の気配には敏感だけど、俺の気配では起きない。
     俺には気を許しているから。
     息を殺していると、再び穏やかな寝息がして、胸を撫で下ろした。
     ふー……、あぶねー。
    「……と、思っただろ」
    「ふえっ」
     ハッキリと意識の覚醒した声がして、シャツの裾を掴まれた。
     寝たふり
     振り返ると、ソファーに横たわったまま、ぱっちりと開かれた碧い瞳が俺を見上げていた。
    「いつから」
    「『なーんてな』か?」
     あー 俺のバカ―!
     ランちゃん、俺の声には敏感だったかー!
    「油断だぞ、ヴェイン」
     楽しそうに微笑んでいる顔は、夢うつつに見えるけど、もしかして、俺に逢えたのが嬉しいだけかも。
     俺、滅茶苦茶愛されてるっ!
     腕を伸ばされて、俺も腕を伸ばした。そのまま背中へ手を回すと、ランちゃんは俺の首に腕を回す。俺よりずっと細い身体を抱きしめるようにして起こした。
     ――ああ。ランちゃんにゆっくり眠っていてもらおうと思ったのに。もう、眠らせてあげられないかも。ランちゃん次第だけどさ。
     ソファーへ腰掛けても、ランちゃんは首に回した腕を解かなかった。
    「ふふっ、一応約束通り、俺を起こしたってことか?」
    「うう……、一応、約束は守ったぜ」
    「ん、じゃあ、約束通り『おかえり』」
     鼻先が触れそうな距離で、囁く声。
     ランちゃんにゆっくり眠っていてもらおうと思っていたけど、その気持ちは本当だけど、やっぱり『おかえり』って言われるのは、特別だった。
     ランちゃんがいつも出迎えて『おかえり』と言ってくれるたびに、幸せで心が震えるんだ。
     今も。
    『お前の帰る場所は、ここだ』って伝えてくれているみたい。身内をみんな失った時、帰る場所が無くなったって思った。
     それを感じているから、ランちゃんはいつも俺を出迎えてくれるのかな。
     ランちゃんを抱きしめている腕に力が入ってしまう。
    「うん、ただいま、ランちゃん」
    「ふふっ、おかえり」
     もう一度、言いながら、ランちゃんの唇が俺の唇に押し付けられた。普段の『おかえりのキス』とは違うキス。
     吸いつくような唇を、つい追いかけたくなった。もっと触れ合いたい。
     ランちゃんも名残惜しそうに離れるから、堪らないぜ!
    「うおー! ただいまっ、ランちゃん!」
    「あははは! 急に全開だな」
     唇を追いかけたくて、ソファーに押し倒した身体が少し弾んで、ランちゃんの声も弾んでいた。
    「さて、ヴェイン。俺は少し眠ったから元気だし、明日は休みだ」
     頬を両手で挟んで、俺の鼻の頭に何度もキスをしてくる。なんで鼻かな!
     でもランちゃんも休みになったのかー!
    「よっし!」
    「うわっ、ちょ……っ」
     押し倒した時よりも、勢いよくランちゃんを抱き上げて、ソファーの上に立ち上がった。慌てたランちゃんが俺にしがみつく。
    「いくぜ!」
     飛び降りて、そのまま走り出した。もちろん、行き先は寝室だ。視界の端に、ムートが欠伸をして体勢を変える姿が映る。キッチンのテーブルに並んだ夜食も。
     飯も、入浴も後回しになっちまうけど、ランちゃんにいっぱいキスしたい! キス以外もいっぱいしたい!
     ランちゃんは、「お前は力持ちだな」と笑いながら、俺の刈り上げを撫でた。
     知ってる。俺を『可愛いやつだな』と思っている時に、撫でるんだ。
     年下扱いされてるなあと思うけど、同時に愛しいという想いも伝わってくるから、ランちゃんに撫でられるのは、好きだぜ!
     まあ、ランちゃんにされることなら、何でも好きだけどな!
     刈り上げを撫でていた指先を髪に忍ばせると、力を入れて引き寄せられた。瞬間、唇に柔らかなものが触れる。
     わはは、ランちゃんも待ちきれないんだ。
     ベッドの上に到着するまで、イタズラなランちゃんのキスは続いた。
     勢いのまま、シーツの上にランちゃんの黒髪を散らす。真上から、碧い瞳を見下ろして、「明日は俺も休みだし! ランちゃん、読書する休日は諦めてくれ!」と告げると、すっと瞳が細められた。
     秘密を打ち明けるように唇がゆっくり動く。
     薄くて艶やかな唇に、キスを誘われていると思った。
    「お前と過ごす休日の為に、読書は前日に終わらせておくんだよ」
     甘やかなランちゃんの言葉の後半は音にならず、俺の口内でくぐもって、熱い吐息に変わっていった。
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