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    Jeff

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    Jeff

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    お題:「嫉妬」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/03/04

    #LH1dr1wr
    #ラーハルト
    rahalto.
    #ヒュンケル
    hewlett-packard

    Abyss 四秒かけて、肺を清涼な夜気で満たす。
     静かに、四秒待つ。
     四秒かけて、溜めた空気を全て吐く。
     そして、四秒待つ。

     規則正しい呼吸を数分ほど繰り返していると、精神のノイズがまばらになってきた。
     夜の森の更に奥、漆黒に視線を固定したまま、ヒュンケルはゆっくりと数度瞬きした。
     テラスに出したロッキングチェアに背中を預け、両手をだらりと垂らしたまま。

     自らを鍛え強くなること
        それができるものは皆
     
      尊敬に値した
     
                ……羨ましかった

     脳髄を埋め尽くしていた声なき声が、末梢神経を伝って皮膚を貫く。
     肌を這い、無軌道に白い胸をまさぐり、癇癪を起こしたように跳ねる。
     もうそこには無い、閉ざされた扉に、今も執着するかのように。
     だがやがて、運命を思い出したかのように勢いを失い、淡い糸になる。
     追い求めた肉体を離れ、小川から滲み出た冷たい霧に溶けていく。

     もうそろそろ、いいだろう。
     指を握っては開いて、手足の痺れがなくなったのを確認していると、背後から低い声が響いた。
    「何をしている」
     居丈高な声音に、少しだけ不安が混じっている。
     ――優しい奴。
     ヒュンケルは首だけ動かして、呼ばわった男の方を見上げた。
    「ラーハルト。帰っていたのか。早かったな」
     半魔の戦士は苛々とヒュンケルを抱き起こそうとして、手を止めた。
     あまりに蒼白な額に、そっと手を添える。
    「熱がある」
    「いつものことだ。もう治まった」
     体内に闇の師を受け入れ、最奥で抱きしめたその時から。
     絶望のかけらは魂に織り込まれ、もはや分離不可能になっていた。
     魔界に湧き出ては潰える戦いの残滓が。
     幾星霜の孤独が、形なきものの悲しみが。
     その集合体である彼が決して認めようとしなかった、全ての生命への怒りが。
     時には抑制を越えてヒュンケルを苛む。
     解放が必要だった。
    「……どうにかならんのか。その声。鬱陶しい」
     と、ラーハルトが苦虫を嚙み潰したような顔で言う。
    「声?」
    「何か、人間のくせに、とか、怠惰な生き物め、とか。意味もない、ガキくさい金切り声だ。聞こえなかったのか」
     ああ、とヒュンケルは星空を仰ぐ。
    「ミストは――。子供の俺を教える時、と言うか、手酷く叩きのめす時に、そんな言葉を漏らしていたな。奴は己を鍛えることのできる生物をすべからく尊敬すると言っておきながら、俺に対してはそうではなかった」
     少なくとも、とてもそうは思えなかったな。と呑気に呟いて、くるりと目玉を回す。
     ラーハルトは黙ったまま、なんとなくヒュンケルの椅子を前後に揺らしてやる。
     ゆりかごのように。
    「決して無駄に力をひけらかす事などなかったのに、時々、おかしくなった。延々と俺を打ち据えながら、狂ったように叫ぶんだ」
     暗い木々の合間で、何かが鳴いた。
     ラーハルトは目を凝らしたが、そこには深淵たる闇が横たわるだけだった。
    「……最初は、何か意味があるのだろうと思った。恐怖や憎悪は、暗黒闘気の増幅に有用だ。だが、だんだんと、分からなくなった」
     こてん、と頭を傾けて、ラーハルトの腰のあたりに押し当てる。
    「優雅で冷静で強大なあの師が、なぜこんなことをするのか。なぜ、俺だけに」
     ラーハルトは銀色の髪に指を差し入れ、熱っぽい頭皮を緩く撫でた。
    「なぜだと?」
     と、平坦に聞き返す。
    「お前は笑うだろうが、俺は」
     ヒュンケルは心地よさそうに目を細め、ぽつりと言った。
    「嬉しかったんだ」
     感情の篭らない告白が、数十秒ほど空中を漂った。
     ヒュンケルは少し俯いて、消え入るように付け加えた。
    「もしかすると、……なのではないかと、思って」
     きい、と椅子が鳴った。
     しばしの沈黙が続く。
    「違うな」
     ラーハルトはしゃがれた声で言い放つ。
    「それはただの、嫉妬だ」
     両手で友の頭を抱え込み、そのまま強く胸に抱き込んだ。
    「尊敬という言葉で覆い隠した嫉妬を、弟子であるお前だけにはぶちまけた。踏み躙り、支配することで、己を癒しただけだ」
     ヒュンケルは否定も肯定もせず、じっとなすがままになっている。
    「そんな『愛』があるか。そんなもの、知らなくていい」
     小動物のように熱いヒュンケルの息が、裸の胸に染み渡っていく。
     それは、愛情などではない。
     違う。違うはずだ。
     言い聞かせながら、ラーハルトは苦い焦燥を噛んで飲み込む。
     ヒュンケルの中に、触れようもない何かが居座っている。
     そして事もあろうにこの男は、それを慈しむかのように抱いたままだ。
     ラーハルトが見たことのない、歪な少年の顔をして。
     ……興味がない、気にもしていないようなふりをしたまま、俺はいつまでやり過ごせるだろうか。
     ラーハルトは重たい友の頭蓋を撫でながら、優しい三日月を睨み上げた。
     自分自身をちりちりと蝕み始めたその感情には、あえて名前を付けないままで。

     
     


     
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    dosukoi_hanami

    Deep Desireヒュンケル、仕事を納める。
    (アポロさんとヒュンケル、ほんのりラーヒュン)

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    挙動不審にも関わらず、温かい声をかけてくださったり、仲良くしてくださって、本当に本当にありがとうございました。
    感謝しかありません。
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    平生は穏やかでありながら行き来する人々の活気を感じられる城内も、この数日ばかりはシンと空気が落ち着く。
    大戦前の不安定な世の頃は年の瀬といえど城の警備を手薄にするなどありようもなく、城内で変わらず職務をこなしながら、見知った仲間とただ時の流れとともに志を新たにしたものだった。

    勇者が平和をもたらしてくれたから。
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    姫の執務室の扉の前。
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