『砂漠の止まり木(仮)』それはゲーム終了から二年後の話。
セッツァーさんは賭博場を備えたBJ号からファルコン号に乗り換えになったのもあって、ギャンブラーという肩書を一部変更し物資の運び屋として世界を駆けまわっていた。
さすが世界最速の飛空艇ファルコン。肌に触れる風の強さに当時の情熱を思い出しつつ世界復興のためセッツァーは日々を過ごしていた。(そこら辺は平和な世界にならねーと本来の仕事※富裕層からの賭け事やヘタすりゃ命をかけた勝負、ができねーから仕方ないって感じかな。決して慈善事業してるんじゃないんだからねっ…的なツンデレ的感覚になってそう・笑)
そんな日々世界を飛び回っていたある日のこと。フィガロの国王であるエドガーから呼び出しがかかる。大体は仕事の依頼として会っていたが、たまに元戦友兼身体の関係を結んだ間柄でもあり、友人としての付き合いも続けていた。少なくともセッツァーの中ではエドガーは旅メンバーの中では大分気の置けない存在になっていた。(※ただしこの時点ではそういう大人な関係は解消してます)
そして、
「よお、久し振りだな陛下」
「やあ、久し振りだねセッツァー。元気にしてたかい?」
「まあまあってとこか」
「それは良かった。日々忙しそうにしてるらしいから痩せてしまってないか心配してたよ。ちゃんと食べてるみたいだね」
「立ち寄る先で結構料理を振舞ってくれるからな。…あいつら、オレが運んだの全部自分達で使えばいいのに、『世界のために尽くしてくれる方に最低限でもおもてなししたいんですっ』って必死になってよ。断るのも後味悪りぃしな」
「確かに君の働きのおかげで飢えに苦しむ者や寒さに震える者が減り、世界の情勢も大分落着きを取り戻してきている。大分助かっているよ。皆を代表として私からも礼を言わせてもらう。ありがとう」
「そりゃドーモ。お褒めにいただき光栄です…ってか」
「皮肉屋は相変わらずだなぁ。もっと素直に受け取っていいんだよ?」
「うるせーよ」
そっぽ向くセッツァーさんを微笑ましげに見る陛下。
「最後に会ってからどれだけ経つかな」
「確かモブリズへの物資運搬を頼んだ時だったから、……大体四ヶ月ぶりってところだろうか」
「へえ、もうそんなに経っていたのか」
「忙しいのは仕方ないがたまにはフィガロにプライベートで来てもいいんだよ。城内諸手をあげて歓迎しよう」
「そんな仰々しい歓待ごめんだぜ」
そんなこんなで楽しく談笑していたら
「久し振りにゲームをしないか?」
陛下からゲームのお誘いがありました。
「へえ…、おもしれーじゃねえか。そういや勝負もご無沙汰だったな。それで?なにをするんだ?確かチェスの戦績は21章19敗、だったか。勝ち逃げなんて許さねーぞ」
「ふふ、あの時はたまたまさ。……でも今回はポーカーをしたい」
「ぷっ。お前、オレにカードで挑むなんて無謀にも程があるだろ」
「天下のギャンブラー殿にもつけいるスキはあるだろう…?」
「なかなか強気なこと言い出すじゃねえか」
紫水晶の瞳を細めて笑うセッツァーさん。こんな小競り合いも久しぶりで実際楽しかったのだ。
これで極上の酒が用意されてたらなお最高だと飾りの豪奢なソファへと腰を下ろす。
「せっかくだ、互いの望みを賭けて勝負しようじゃないか」
「望み……って、随分まどろっこしい言い方をするんだな」
「ああ、どうしても叶えたいことができてしまったからね」
「へぇ、おもしれぇこと言うんだな。今じゃ王族のなかでもトップの王様が何を望むんだ?」
「うん、私の望みはだね……、とその前にセッツァー」
「なんだよ?」
「私がどんな望みを言ってもこの勝負、引き受けてくれるかい?」
「……お前、随分な自信だな。絶対自分が勝つって決まってんのかよ」
「それだけ叶えたいことができたってことだよ。……それで、セッツァー、この勝負受けてくれるかい?」
「ま、楽しそうだし。いいぜ。その勝負、受けて立つ」
セッツァーさんの肯の返事にとてもいい笑顔のエドガー陛下。その顔を見た瞬間セッツァーさんはものすごい嫌な予感を覚えます。
「嬉しいよ。じゃあ私の望みを伝えよう。私がポーカーで勝ったらセッツァー、
この城の后になってほしい」
「………………、は?」
「ああ、少しわかりづらい言い方だったかな。すまないね」
「いやお前めちゃくちゃおかしなこと言ってなかったか?」
「私としては至極真面目に告げたつもりなのだけど?」
「あー……、理解したくねー言葉なのかも」
「そうだねすまなかった。もっとシンプルに伝るよ」
「ああ、いややっぱいい。もういい。だから黙れ。口を閉じろ」
「俺と結婚してくれ」
「黙れっつっただろーがっ!!!」
マジ叫びするセッツァーさん。
「……オレは性質の悪い冗談は嫌いなんだが?」
「それは前から知っているよ。俺は本気だからね」
「それが一番性質の悪い冗談だろーがっ!!!」
いつになく感情的に怒鳴るセッツァーさん。それに対してエドガー陛下は飄々とどこ吹く風で。
「(は~…)てめーがそんな馬鹿な奴だとは思わなかったぜ……」
「おや酷い言いようだね」
「……責任の重圧、身分の足枷。あの旅の最中漏らしてた台詞はなんだったなだよ」
「確かにあの当時私は随分君に弱音を吐いてしまった。それも酷く猥雑な言い方で」
「……………」
「そんな私に君は軽蔑しなかった。同情もしなかった。ただあるがまま聞いてくれていた」
「……………」
「それがどれほどの救いになったことか。今でも心から思うよ。俺を救ってくれてありがとうと。感謝していると」
「……そりゃドーモ」
妙なシリアスモードを打ち払うかのようにセッツァーさんは話を戻します。
「そもそもオレ等はそういう関係じゃねーだろうが」
「おや、あれだけ愛を語り合った仲じゃないか。ひどいなセッツァー。あの日々を忘れたのかい…?」
「ぬかせ。あれは割り切った関係だっただろーが」
「まあ俺は君の身体に溺れていたのは確かだね」
「~~~っ。あーーっ、くそっ!マジきめぇこと言ってんじゃねえよっ!!!」
いつになく感情的に怒鳴るry。でもやはりエドガー陛下ニコニコ読めない顔をしてます。
「………てめえは国のために後継ぎを残す必要があるんじゃなかったのか…?」
「おや、変わらず痛いところをついてくるなあ」
「事実だろーが」
「確かに周りからやたらせっつかれてるんだよ。それもここ最近は激化の一途でね。いやー説教の嵐で俺のストレスがたまるたまる」
「……それをオレで晴らそうって?」
「おっとバレてしまっ……冗談だよ冗談。だからその手にあるダーツの矢を下ろそうか」
「ふざけたことを抜かすてめえが悪い」
手入れの行き届いた白い指股には鋭いダーツの矢が三本挟まっていました。
「それともなんだ、帝国云々も片付いたし、今度は自分が自由になって片割れであるマッシュがフィガロを継ぐのか?」
「それはないね。先にも言ったけど君にはこの城の后になってほしい。私はフィガロ(自分の国)を愛しているし、その王であることに誇りを持っているよ。そしてマッシュは私の片腕として国のため国民のため、そして世界のため手をつくしてくれてる」
「問題ねえじゃねえか」
「そうだろう。あいつも王族としての自覚と誇りを持ってくれて頼もしい限りだよ。そしてあいつは確かにカリスマ性もあるんだが……」
「あるんだが……?」
「人を動かす……ではなく、自分で動いてしまうんだ」
「……そりゃ致命的だな」
マッシュの変わらない真っすぐな性質に逆に安堵するセッツァーさん。
「じゃあなんだ、正妃をオレに置いて側室にガキ作ってもらおうって…?マジ趣味悪りぃ」
「そんな不誠実なことしないよ。私は一途だからね。妻となるのはただ一人…そう決めているんだ」
「よく言うぜ。あちこちで女口説いてる奴がよ」
「おや妬いてくれるのかい?それは嬉しいね」
「んなわけあるか」
「つれないなぁ」
「世継ぎが必要な王族の癖して自分の感情を優先して男を后にするなんて前代未聞だぜ」
「厳しい意見だね」
「実際そうだろう。男であるオレはガキなんか産むなんて……
「産めるだろう」
「………… 」
「君は
『産める側の人間』……そうだろう?」
「てめえ……『どこまで』知ってやがる……っ」
「…………そうだね。私が知っているのは
十二年ほど前の君のことと…………『彼女』のことだよ」
紫水晶がギラリと燃えるように輝いた。