砂漠の止まり木(仮)2※今更注意なのですが、この話の陛下は賭博師さんにガチ惚れです。
※エドセツ以外の第三者がやたらでてきます。
※オレ設定なキャラがでてきます
※今回直接的セッツァーさんでてきません。
陛下モノローグ編
「現在、フィガロ周囲ではモンスターの被害は落ち着いてきてます」
「モブリズの村は家屋等の倒壊被害が甚大で、継続的支援は必要でしょう。」
「ドマ地方の大陸は未だ地震等の自然災害が発生し、復旧が難航しているようです」
「ナルシェには徐々に人の戻りが始まっているようです」
「ジドールの富裕層の方々から多数の寄付がよせられています」
世界各所の情勢の報告に、この場を統べる主は鷹揚に頷いた。
「ふむ…。現段階の情勢はこうなっているわけだな。なるほど…。まだまだ事態が落ち着くには時間がかかる。今後の皆の働きに期待している。何か異変を感じた際は順次報告するように。
ではこれにて会議は終了する。各自仕事に戻ってくれ」
本編終了後、世界を統治できる王族はフィガロのみ(裏設定を使えばもっと貴族とか王族くらいいそうですが)ということでフィガロのトップであるエドガーが世界復興への指示を率先して行い、多忙な日々を送っていた。
会議がひと段落し、各々動き出した臣下達を見送り、ふう、と疲れを見せないように小さくため息をつくエドガー。そこに、
「お疲れ!兄貴!!」
と元気良い声が。振り向くと玉座横に立っていたマッシュがニカッと快活に笑っていた。
「ああ、マッシュもお疲れ。……今日も難しい話が飛び交って大変だったろう?」
「おいおい兄貴それはバカにしすぎだぞ!オレだってモブリズやドマが大変だってわかったんだぞ!そしてナルシェに人が戻りつつあるのはオレの師匠のお陰でもあるんだって!」
「そうなのか?」
「ああ。前に師匠に会いに行ったら炭鉱奥に居ついていた怪物を一掃してたんだ。本当に強いお師匠様だぜ!!」
「あの方も結構な歳な筈だが……。本当にお強い方だな」
エドガーも知らなかった細部を語る片腕の存在に頼もしい限りと絶賛した。(兄は相変わらずブラコンでもあります)
あれからマッシュはフィガロに戻り、兄の片腕的存在になっていた。十年以上留守にしていたフィガロ国の弟殿下の帰還は、当初周りの臣下たちに警戒をされていたが(そこらへんは先代であり、エドガーマッシュの実父であるスチュアートと二人の叔父的存在であるフランシスの謀反があったからです。※父王と叔父の名前は公式です。裏設定で存在してます)マッシュの生来の快活さとさっぱりと太陽みたいに辺りを明るく照らす性質に周りの心をがっちりと掴んだのだ。
何より兄であるエドガーととても仲良い姿に疑惑の氷は瞬く間に溶けていった。
まだまだ力不足な面もあるが本人自身が素直に出来る事を率先として動く姿に、周りの信頼を勝ち取っている。
今は政(まつりごと)云々はわからないが、そこはこれからでも勉強していこう、ということになった。
ひと段落着いたということで休憩をしようかと、プライベートルームへ赴き、給仕に茶の用意をお願いしようと足を運ぼうとすると、
「陛下、少々お話があります」
堅苦しい低音の声音。引き止めるしわがれた声に、エドガーはなんだ、と心中で顔を顰めた。何故なら次に彼の発する話題がわかりきっていたからだ。だが無視するわけにもいかず、
「どうした、ガイゼフ(大臣名・非公式です)」
「ははっ。陛下の貴重な休息のお時間を奪うことになることをお許しください」
「堅苦しいことは無用だ。用件を言え」
「はっ、では僭越ながら。……これまで仕事仕事と大変お忙しく身を削る程お働きになっているのは、私重々承知しております。そして我らを叱咤激励し、導いてくださることにこの国の大臣として大変喜ばしいことだと思っております。先代の王であるスチュアート様もきっと喜んでいることでしょう」
「大分褒めてくれてんだな、ガイゼフよ」
「もちろんでございます。あの危害を運んだ帝国を打ち倒し、世界を破滅に追いやろうとした狂人を退治し、私どもが住むこの国だけではなくこの世界全土を復旧なさろうと身を粉にしてお働きになる姿、実に感服いたします。我等一同を導いてくださるのもエドガー様の采配のおかげでございます。そして帰って来てくださったマッシュ様もエドガー様を支え、なんとも頼もしい限りでございます。ますますのフィガロの繁栄も確実でしょう。」
一見して褒めているのだがその裏にあるのを嗅ぎ取ってしまい、エドガーはもとより、マッシュも微かに眉を顰める。
「ですが、少々働きすぎのきらいがあると、私は思うのです。仕事仕事と貴婦人方との交流を疎かにしているのではありませんか」
「そんなことはないと思うが」
「いえいえ陛下が御心お優しいというのは重々承知しております。分け隔てなく接する、それも素晴らしいこと。しかし淑女達に恥をかかせてはいけないと、私は思うのです」
聞く限り、女性がらみの話題になっているのは明白だった。それにこの老齢の側近の言い方には身に覚えがある。ある日城に現れた美しい女性達。あの大災害を経験してなお気品を損なわない彼女等はこぞって自分に『おもてなし』をしてくれた。その意図に気づかない訳がない。美しいレディ達の歓談は楽しく、勿論丁重に扱い、相手を褒めて、可能の限り棘が刺さらぬよう、やんわりとだがしっかりと帰路につくように促した。
そんなやりとりを華麗にすり抜け、今に至る。
「………何が言いたい。はっきり言え」
「では単刀直入に申し上げます。陛下、そろそろ奥方様を娶られてはいかがでしょうか。」
この言葉に、やっぱりか、と心の中で盛大にため息についた。
実は国に戻ってからほぼ間を置かずにこの『話題』がのぼることはあったのだ。………そう、『結婚』の話題を。
確かによい年齢、むしろ適齢期を大分超えているといっても差し支えない程の月日がたってしまった。それには帝国とのいざこざがあったからに他ならないが、今その問題が取り払われたということで、城の配下や側近たちはこぞって縁談を迫ってくる。
自分を心配しているのもあるが一番はやはり国のことだろう。
それに対して、これまでは世界情勢が~、とか、そこまで手が回らない~とか、私が一人の女性だけのものになったら、世界のレディ達が嘆き悲しむだろうとか色々言ってて、のらりくらりとその話題からかわしていた(レディ~のくだりでガチ怒りされたりもした)
むしろ今までのフェミニストっぷりはどうした、と言わんばかりである。
で、今回ついに痺れをきらしたのだろう。自分を労っているように聞こえるが明らかな小言だった。
また長々説教でも始まるのかと、内心うんざりとしていると、
「このままではフィガロの存続が……」
この一言に、先に反応する人物が現れた。
「またかよ…」
「マッシュ…?」
今まで黙っていたマッシュが険しい顔で口を開いた。
「またオレ達を王位だけの存在として見てねぇんだろ!」
「マッシュ様!私はそのようなことを言いたいのではないありません!」
「じゃあなんなんだよ!いつも兄貴にだけ重たい責任押し付けて………っ!!国のため、世界のため頑張ってんのにこんな言い方しやがってっ…!!」
「ですから……」
「大臣はそういう意味だけで仰ったわけではありませんよ、マッシュ様」
凛とした声が広間に広がった。
「神官長殿…」
「ばあや」
「じゃあっ…」
「私供フィガロの民として、エドガー様に仕える側近として、そしてなによりお二人を幼きころより見守っていた者として、エドガー様、貴方には幸せになってほしいと願っておるのです」
「……………」
「私たちができない、隣で支えになられるご伴侶がいてほしい……、勝手ながら願っております。」
「兄貴やオレも結婚してもおかしくない年齢だけど、本人の意思を無視するなんて酷いと思うぜ」
「確かにエドガー様の意見を聞かなかったのには私、礼を欠いてしまいました。申し訳ございません。ただ神官長、という立場じゃない言い方させてもらうとするならば、どうかエドガー様、このばあやにひ孫を見せてはくださいませんか?」
「…………ズルイ言い方だなぁ、ばあや」
こんな言い方されてはこっちが折れなきゃとんだ人非人じゃないか。
苦笑いに似たため息をつくと、
「あ、神官長様!こちらにいらしたのですか」
しんみりとした雰囲気に似つかわしくない明るい声が広間に響いた。皆の視線がその声の主に集中する。そこには、
高さ50cmはあるかというくらいの何かの書類の束を持ったメイドの姿があった。彼女はこちらの状況にまったく気づく様子もなく、
「先日命じられていた釣書がやっと届きましたよー。世界各地から取り寄せていたので時間が掛かりましたが、これだけあれば陛下が満足できる相手が見つかる、か、と…… 」
「「「「「」」」」」
その致命的な台詞にビシリッと場が凍りついた。
その異様な空気の中、渦中の話題の主であり、自分達の主であるエドガーの存在に気づいた彼女は自分の失態にようやく気づいたようだった。
「……あー……、えーっと……。………わたくし今は御用がありませんよね…!しっ、失礼致しましたーーっっ!!!」
器用にも彼女はかなりの高さのある紙束を崩さずに脱兎のごとく逃げ出していった。
凍りついた空間だったが、すぐにゴゴゴッ…!と、まるで地響き起たんばかりの威圧感が。ギクリと身を震わせる二人の老齢の臣下。その原因(もと)は明白で。
「やっぱり兄貴のことガン無視してお見合いさせようとする気満々じゃねーかっっ!!!」
フィガロの弟殿下が室内の調度品を揺らす勢いで全力で吠えた。
「そ、それは…!」
「マッシュ様……!どうかどうか我等の気持ち、願い……。お聞き入れてくださいませんか」
「~~~~ッッ。もう行こうぜ兄貴ッ!!」
尚も言い縋る老齢の臣下を振り切り、城の広間から去る二人だった。
・ ・ ・
外へ続く廊下を荒い足音をたてるマッシュといつもの歩調のエドガー。
「まったくあいつらっ!昔からそうだった……!!」
「マッシュ…、一先ず落ち着け」
「オレ達の為、だなんて言いながら結局は国のためじゃないかッ!!」
「仕方ないことではあるんだ。皆国のことを憂いてのことなんだよ…」
ふう、と諦めに似たため息をつくエドガー。この国を愛しているが故の心配。それは重々承知している。
「じゃあなんでだよ」
「マッシュ…?」
「じゃあなんで兄貴、すぐにでも嫁さん貰わないんだよ!」
「……………」
「兄貴のことだ、本当に納得してんならすぐにでも行動するだろ。それこそ国との結びつきのためによりいい力をもつ貴族やどこかの金持ちとか!そこから綺麗な人を嫁さんに迎え入れるだろうさ」
「……マッシュよ」
「そんな世界の女性が恋人……なんて屁理屈をこねないでさ」
「屁理屈だなんて、ひどいなぁ。俺は差別なんてせず分け隔てなくレディ達に接するだけだぞ」
「…………兄貴、そんなこと言ったらオレはばあやと大臣と一緒に文句言うぞ」
「ええっ、マッシュもか!?味方がいなくなってしまったなぁ。寂しいなぁ」
「兄貴っ!!」
「すまんすまん。あんまり大きな声出すなよ、マッシュ」
窘められて、ぐぬぬと歯噛みするマッシュ。それに困ったように笑うエドガー。そんな兄の姿にマッシュはふと真面目な顔つきになった。そんな弟の姿におやっ、と思う間もなく、
「兄貴はもっと自由になっていいんだ」
「…………」
重々しくはないが深い声。
「もちろん自由になって全てを捨てろって言ってるんじゃない。だって兄貴はこのフィガロを本当に大事にしているって隣にいてわかった。子供の頃みたいにわがままで王位を捨てたい、なんてバカなことを言ってたあの時とは全然違う。国民のため自分のため国を治めているのは痛いほどわかった。ただ、兄貴の本当の望みが何か、それを知りたいんだ」
「…………」
「もうあの頃の、兄貴を置いていくオレじゃない。もっとオレに頼ってほしい。だから……!」
「そうか、マッシュ!!」
「へっ…?」
「俺に自由になっていいって言ったな!ちょうど良かった!!」
「え……」
「息抜きしたかったんだよ俺は。………じゃ、後はよろしく頼む」
「はっ?…兄貴?」
今までのシリアスモードが一転、兄はにっこりと人好きのする笑顔をした。
バッ!とエドガーがマントを翻すと、あの当時身分を隠すために身につけていた薄汚れた一張羅であって。
「あ、兄貴…?」
「はっはっはっ、俺はジェフだぜ、マッシュ」
ってことで、じゃあな、ちょっと行ってくる、とばかりにいつの間にか作ったのか、秘密通路(本編中のミミズの穴に通じている)へと消えていった兄の姿に、弟は呆気に取るしかなかった。
ここらへんはⅤの某海賊のお頭兼姫様をリスペクトしたかった(笑)