見て書いてみた!エドセツ篇その①世界がケフカによって引き裂かれて一年。
力を得た狂人はまるで破壊の神のように『裁きの光』で人の運命を断罪する。そんな許されざることを阻止(と)めるため、帝国の元将軍であるセリスが奔走し、これまで帝国と相対していた反乱軍(リターナー)や様々な境遇を抱えた仲間達を捜し出した。これ以上の犠牲を出させないために。世界に再び希望の光を灯すために。14人の戦士たちは強い信念のもと集った。
仲間達を乗せた飛空艇ファルコン号。長年地の底に眠っており、再び産声を上げたそれの乗り心地は正直あまりよろしくない。言い方が悪くなってしまうのは、前に搭乗していたブラックジャック号が快適すぎたせいだろう。貴族やお忍びの王族等、要人を招く秘密の賭博場だ。あらゆる贅沢をこらした調度品やくつろぐための家具は一級品。もてなしは最高級だったものだ。
たまにガラの悪いゴロツキもまぎれていただろうが、その流れる金銭の額に、すごすごと逃げていっただろう。
しかし、今は最速を目指すため、不要なものを取り除いたファルコンは意気揚々と空を駆ける。名の通り猛禽の力強さ、俊敏な翼を広げどこまでも。
搭乗している仲間たちは各々時間を過ごしていた。急ぐ旅ではあるが、急いてはことを仕損じるの言葉通り機をうかがっていた。万全の態勢で臨まないといけないのは自明の理。何せ相手は神の力を得た狂人だ。下手を打って仲間を失うわけにはいかないのだ。
現在はサマサの村からコーリンゲン地域にできたコロシアムを目指して出発を始めたばかりである。仲間達の力試しもあるが、貴重な武具を手に入れることが今回の目的である。
目的地はまだまだ先だった。
快適な空路を辿っていたその最中。整備が行き届いた通路をフィガロの国王が堂々とした足並みで歩く。目的はただ一つ。この船のオーナーに用事があるのだ。
「リルム、セッツァーはどこにいるか知っているかい?」
「傷男なら甲板にいるよ。ちょっと小休憩だって」
リルムがスケッチの手を止めて答えた。彼女は彼女で自分なりの気晴らしをしているようで、模写した調度品が彼女の魔力を得て具現化し、ふよふよ浮き出ている。しばらくすると消えると言うが、相変わらずすごい能力である。
「そうか。ありがとう、リトルレディ」
にこりと慇懃に礼を告げ、彼女に背を向け甲板へと足を運ぼうとすると、
「ごゆっくり~」
背後からの台詞に思わず振り向くと、にんまりと童話の中の狡猾な猫のように得体の知れない笑みを浮かべ、ふりふりと小さな手が振る少女の姿が。さすが幼いながら稀代の画匠である。洞察力は元より、人の心情などまるっとお見通しのようだ。
まったく、末恐ろしいリトルレディだ。額に浮かびそうになった冷や汗を抑えつつ、嘆息を溢したエドガーは甲板への階段へと足を運んだ。
足を踏み入れると、冷たく渇いた風が吹き荒んでいた。ちらりと見渡すと目当ての人物の後姿が。ゆったりと手すり壁に頬杖ついて、流れる風景を眺めているようだった。風にプラチナブランドを靡かせ、黒く長いクラシカルなコートの裾がはためいている。どうやら本当に小休憩をしているのだろう、彼の愛飲している煙草の匂いが鼻を掠めた。
「……隣、いいかい?」
ゆっくり近づき、声をかけると最初から気づいてただろうに、セッツァーは緩慢な動作で振り返りエドガーを見やった。
「私も一ついただいてもいいかな?」
「あー…?自分の煙草でも吸ってろよ」
「前にフィガロで秘蔵のワインをご馳走したじゃないか。それのかわりに、でどうだい」
「…チッ、しゃーねえな」
白く長い指が懐を探る。セッツァーの愛飲している甘い葉巻。受け取り、慣れた動作で火を点けた。
吸い込むと肺に広がる独特な甘美な香り。じんわり味わい、ふー……、と、ため息とともに白い息が吐き出した。
しばらく言葉なく流れる景色を見ていた。この霞んだ空をどこまでも進むファルコン号。十数年のブランクを感じさせない堂々とした飛行に、世界最速は伊達ではないないと、エドガーは関心してしまった。
いつの間にか残り少なくなった煙草を懐にあった携帯灰皿へとしまっていると、
「…なにかオレに用でもあるんじゃないのか?」
不意に声をかけられた。隣を見るとこちらも吸殻を豪奢な飾りがついた携帯灰皿におさめたセッツァーが紫水晶の瞳で静かに真っ直ぐとこちらを見つめていた。彼自身が身に着けている装飾品など目ではないほど貴重で、己を魅了する澄んだ瞳。コーリンゲンの場末の酒場で再会した際の絶望にくすんだ光は取り払い、希望を取り戻そうとする強い光へと。ああ、美しいな、とエドガーは素直にそう思った。
「用事…、そう用事ね。大丈夫だよ、もう叶っているから」
「はあ?」
「君の傍にいたい。それが今私が一番したかったことなんだ」
「………お前、言う相手間違ってないか?」
「そんなことないよ。君に伝えたかったんだ」
エドガーの言葉に嫌そう眉を顰め、胡乱な目つきで睨め付ける。てめえの真意が読めねえ、まざまざと伝わってきた。
そんな姿にエドガーは意を解さずにっこりと微笑んだ。そしてすぐ横に引いた口唇を戻し、真剣な声で言った。
「君を、君たちをこのようなことに巻き込んだことにすまないと思っている。」
「…………」
「私は一国の王として自分の国と民を守るため帝国と同盟を結んでいた。…裏ではリターナーとして活動をしつつね」
「…………」
「帝国を討つ、…そのために様々な境遇の者達を協力という名の苛烈な戦争に巻き込んでしまった。戦うのに慣れていない、いくら魔力を有するとはいえ幼い少女(リルム)と力を封した老齢の魔導士(ストラゴス)、出自がはっきりしない、しかし敵に対抗する術を持つ不思議な少年(ガウ)、そして炭鉱都市で静かに暮らしていた神秘の生物(モグ)達。……君には不本意な形で付いて来てもらったね.。海の向こうの大陸にある帝国。隠密で進入するため必要になった飛空艇(ブラックジャック号)――正直なところね、最初は手段が必要であって君自身にはさして興味がなかったんだ。こちらの邪魔をしない限りね。」
「……バカ正直すぎる言葉はどうかと思うぜ、王様よ」
「気を悪くさせてすまない。君には誠意を見せたくてね。」
照れ隠しのように笑うエドガー。ズルい男の典型だな、とセッツァーは思った。
「だが君は協力してくれた。あまりある財も共有してくれたし、君自身も襲ってくる魔物や帝国の兵士や刺客達を薙ぎ払ってくれた。」
「オレはオレ自身に降りかかる火の粉を払っただけにすぎねーぜ」
「ふふっ、謙遜なんてしなくてもいいよ。…以前マッシュが『さっきモンスターと戦っていたら、横からきた攻撃を防ぎそこなって、しまった!と思ったら、そいつの顔に鋭いカードが刺さっていたぜ!!セッツァー、ダーツもすげえけど、カード投げもすごいんだな!』って楽しそうに言っていたよ」
「…チッ」
バツが悪そうに舌打ちをし、そっぽを向いたセッツァーにエドガーは更に笑みを深めた。
そして再び真剣な顔になり言葉を続けた。
「魔大陸でのことは本当にすまないと思っている。君が命と同じように大事にしていた飛空艇を失くしてしまった」
「……………」
互いに眉を顰めてしまったのはあの日の辛さ、痛み、口惜しさがずっと胸の奥底で燻り続けているからだ。
あの独裁者と狂った魔導士の野望を止めるために向かった魔大陸。そこで巨大な力に打ちのめされ、世界は引き裂かれ、仲間たちは離れ離れになり、絶望に打ちのめされた。その無念の感情は記憶の底にしまっておくには日が浅すぎる。
「あの日以降、一人(孤独)になり恐ろしいほどの絶望を感じた。これから私はどうすればいい?そう、破壊を続けるあの男を止めなければならない。だが、神の力を得たあの男に止める事ができるのか?立ち向かえることができるのか…?私『だけ』で?……心底ゾッとしたよ」
ふうと漏れ出るエドガーのため息は暗澹で濡れていた。
魔大陸から墜ちた後、どういった奇跡がおこったのかわからないが自分は一人生き残った。だが、周りには今まで共に戦ってきた仲間(戦友)はおらず、だが世界をどうにかせねばと、情報を集めるため一人放浪していると、自分の国(フィガロ)が地中を潜ったまま見失ったという恐ろしい事実を知ってしまった。世界も大事だが、自分の国もまた大事だった。ただ救いたかった。自分の国を。どうすればいいか…、算段をつけている最中にセリス達と合流できたのは信じてもいない神が授けてくれた奇跡だと思った。
「私達は生きている。生きてみんな集結できた。それが今一番幸運で奇跡で、だが必然だと感じているよ。絶対にあの男を止める。」
「……そーかよ」
素っ気なく呟いたセッツァー。だがエドガーもわかっていた。彼もまた孤独に藻掻き、だが捨てられない希望にすがり、だがどうしようもない無力感に苛まれていたことを。あのコーリンゲンの酒場でたった一人で絶望感と戦っていたことを。
「この壊れかけた世界を私は救いたいと願っている。だが実際はどうなっていくかわからない。無論全力を尽くすつもりだ。その前に一つ、今伝えたかったことがあるんだ。……君が生きていてくれて良かったよ」
エドガーの心からの言葉に、セッツァーは思わず目を見開いた。己を魅きつける稀有な紫水晶の瞳。
それをふいと視線を反らし、
「……ただ単にくたばり損なっただけだがな」
卑屈な言葉で返した。その彼の耳先が仄かに赤く染まっている姿にエドガーはふふっと笑いを漏らした。その姿に半目で睨むセッツァー。
「そんな卑屈なこと言わないでくれ。そう言ったら私だってそうだ」
「お前が死んだらそれこそ一大事だな」
「そうとも。世界中のレディを涙で溢れさせるわけにはいかない」
「抜かせ」
エドガーの演技がかった科白にくすっと笑い合い、ふっと肩の力が抜けたのがわかった。仲間を取り戻すまでずっと張り詰めていたのだ。それが解れて良かった。
エドガーの自然に左手が動いた。するりと、手馴れた動きでコート越しの細腰へと手を回し、エドガーの逞しい腕に囲い込む。
先ほどまでの煙草の残り香、彼自身の高級な香水、豊かなプラチナブロンドからのシャンプーの香りが鼻腔を擽る。
確かな生への証だった。
生きていて良かった。傍にいてくれて嬉しい。君の少し低い、だけど温かな体温が愛しい。腕に伝わる重さを堪能していた。
「オレは」
「うん?」
「オレはオレ自身の意思でお前等に賭けた。それに後悔はない。確かに当初はとんでもねーことに巻き込まれたと思った。だが、それも自分の意思でしたこと。今更とやかく言うつもりはない」
「…………」
「…ブラックジャック(翼)を失くした時はさすがに絶望した。地に堕ちたオレはもう二度と空へと帰れないないのかと。仲間を取り溢したオレはただ腐っていくだけになるのかと。だがお前等がまた目を覚まさせてくれた。そしてずっとこだわっていたファルコンを目覚めさせることもできた。――なあフィガロの王様よ、もうこれ以上オレを失望させないでくれよ…?」
「君が、私の隣でずっと戦っている限りそれは叶えられるよ」
堂々とした台詞のエドガーに意表をつかれたセッツァーはくしゃりと相貌を和らげ、
「……ほんとお前って、どこまでも傲慢で人を使うのにためらいない、とんでもねーたらしな名君だよな」
「お褒めにいただき光栄だね」
相変わらず芝居がかったエドガーの台詞にセッツァーはふっと笑い、瞳を閉じてそのままエドガーの腕に寄り掛かった。まるで悠久の時を飛び続けた孤高な渡り鳥が、安らげる止まり木に身体を休めるように。気高い彼が気を許してくれる。そんなセッツァーの姿に、エドガーは打ち震える感動を抑えつつ、しっかり力を加えた。
するとセッツァーはふいと血色の良くなった顔をエドガーへと近づけ、
「……またお前等にオレの全てを賭けるぜ。だから――死ぬなよ、エドガー」
薄い口唇が日に焼けた頬へと寄せられた。
それは何にも変え難い、セッツァー最大の親愛の印。
エドガーは溢れそうになる思いを抑えながら、
「――ああ。君に期待以上の結果を出すと誓うよ」
冷たく渇ききった風がふき荒ぶ中。寄り添い合う二人の温度は確かなものだった。
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あのー……俺ずっとここ(操舵輪)のとこにいるんですけど…/^p^\
[本日のファルコン号操縦手・ロック・コールさん]
後から神イラストの概要文確認したら、テーマは『夜明け前』だったらしい。しまったぁああああっ!!と頭抱えたけど、ま、いっか、と開き直った所存でございます←
ちなみに、この二人はデキていません←
セッツァーさんはあくまで親愛の意味ですし。でも陛下に至っては、です^^
やはり私のエドセツデフォルトはエド→→→→→→→→|←セツですね!