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    しいたけ

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    しいたけ

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    参将の日おめでとうございました
    参謀さんの自由を願う将校さんの話

    #類司
    Ruikasa
    #参将
    generalissimo

    Wish your liberty 一緒に働いている部下たちにささやかな誕生日とクリスマスのプレゼントを渡すことは、初めて部下ができた頃からの私の恒例行事だった。

    4歳の頃、とある辺境の貧しい村から、全村人が一生豊かに暮らしていけるような金額で大臣に買われ手足として教育された子供。政治と悪事の教養だけは人一倍詰め込まれ、手駒としての生き方しか知らなかった、ただ周りよりもほんの少しだけ頭が良かっただけの子供。その子供を売った金を巡って起きた争いにより彼の出身の村はたった一人の生存者もなく血と炎の海に沈んでいった。大臣の部屋から押収された資料の中にはその争いを起こさせたことすらも大臣の策略だったという記録が残されており、その他余罪も併せて大臣は速やかに死刑が執行された。大臣は黒い油は我が国の発展に必要なものだ、これまでも全て正当な政策だと主張していたが、いくつもの大量虐殺を陰で指示していた罪はあまりにも大きすぎたのだ。
    大臣の腹心だった彼は黒い油を巡る森の一連の事件の実行犯ではあるものの大臣の被害者として、3年間の監視期間という条件付きで釈放となった。

    ・監視期間中は監視役の直属の部下として軍の仕事に従事すること 
    ・半年間は監視役と居住地を同じにすること
    ・給金は同階級の3/4、休暇は同日数の付与とすること
    ・その他条件は監視役に一任すること

     10も年下のその青年が私の部下兼同居人となり、一か月は生活に慣れさせることを目的として最低限以上の日常会話と一週間に一度は朝晩食事を共にすることを心掛けた。距離感を図りかねているさまを見た部下からは、上司と部下というよりは反抗期の息子を持った父親と言ったほうが近いのではとからかわれることもあったが、しばらく生活を続けていくうちに彼からの自発的な挨拶や食事の席を共にするタイミングが増えていき、多少のぎこちなさはあれど問題なくコミュニケーションをとれるようになっていた。
    参謀の誕生日はそんな同居を開始した間もなくのことで、恒例であることを説明しつつプレゼントのリクエストはないかと聞きに行く。「わからない、何もいらないから放っておいてくれないか」という参謀が街の駄菓子屋で買えるラムネを好んで食べていることだけは知っていたので森の民の少女たちに相談をして、二人きりでささやかな駄菓子パーティを催し、シンプルなデザインの万年筆を贈った。気に入らなかったのか、使っている様子はいまだに見たことはない。

    試用期間が終わった翌日、前の日とは比にならない量の書類仕事が参謀の机に山積みになっていた。一瞬目を見開いて固まったのち、それらがすべて自分がしでかしたことの始末をつけるための書類だと気が付き静かに机に向かった。時間も忘れてただペンを動かし続けるので食事と休憩の時間は声をかけてやらないと気が付かない。「将校さんも、参謀殿が来る前は食事も終業時間も気づかないで仕事してましたからね」とは部下の言葉だ。参謀に声をかけるためだけに、私自身も今まで気にも留めなかった時計を気にして作業がするようになったからいい変化でもあるのかもしれない。
    事件関係の書類も落ち着き、参謀も通常業務に携わるようになってからは逆に参謀が私にコーヒーブレイクを促すようになっていた。

     参謀を引き取ってからあっという間に半年が過ぎた。その年のクリスマスプレゼント、私と同じ職場兼自宅に暮らしているのは窮屈でないか、新しい家に住まないか、と聞いたら、この屋敷が良いのだと即答された。お前の望む土地と間取りで一軒家を用意できると言っても、ここから出ていく気はないという返答だった。「それなら、ここに住み続ける権利をプレゼントしてください」というので、「そんなものいくらでもやる」と、なんだかんだ気に入っている様子の駄菓子パーティの最中に言ってやった。

     その次の誕生日では「ものはいらないから、友人になってほしい」だった。上司として公私混同はできないから、と一度は断ったが、「はじめての友人はあなたがいい」なんて言われてしまえばこれ以上の反論をする意欲も起きず、休日だけの制限付きで友人になることを応じた。友人のくせして「将校殿」と呼ぶから、仕事中以外は司と呼ぶようにと言ったのもこの時からだ。気に入っているいつもの駄菓子と、この年に成人を迎えた類に度数の低くて飲みやすい酒をいくつか見繕って飲ませてやったら、グラス一杯飲み干す前に真っ赤な顔で私にべったりくっついて離れなくなってしまった。私に引っ付いたまま様々な話をした。演劇の趣味の合う、いい友人になれそうだと思った。翌朝、記憶は残るタイプなようでぶすくれた顔で文句を垂れるのを遮るように頭を撫でてやった。
     友人になる前にも休日にはよくふらっと出かけているのを見かけたが、その日からはお土産と言って私の好みそうな茶葉やフルーツを渡してくれるようになった。

    クリスマス、その年も新居の提案は言い切る前にきっぱりと断られてしまったので防寒着を仕立ててやった。これは冬の間ずっと着ているのを見た。恒例になった2人きりのパーティで、また私にべったり引っ付きながら粉に水を入れるだけでふわふわになる駄菓子の仕組みについて説明されたが、あまりよくわからなかった。

     王都の警備を重視する大幅な配置換えの影響で参謀と私を除いた部下たちが皆、この辺境の森を去りこの地に常駐する正規の軍人は私と参謀のみとする命が下った。森の治安維持を建前に、あの事件をきっかけに処刑された大臣から甘い汁を啜っていた人間たちの私と参謀の始末を望む声と、国王派閥の人間たちの国賊である参謀を国政に関わらせるなという声が無視できないほどに大きかった。そのような事情と共に、左遷という名目と王都での暗殺や戦闘を避けるためにも二人でここに残ってほしいと、国王直筆の手紙を伝書鳩より受け取ったのだった。
     その後は森の治安維持に加え、今までよりもずっと少ない書類仕事と試験的な傭兵として森の民たちへの格闘術を教える仕事をしている。王都からのこのこと私たちを暗殺しに来た者たちは警備として正式に雇った森の民たちにあっけなく倒されていた。

     次の年の参謀の誕生日、「恋人になってほしい」とねだられた。部下として、友人として、同居人として、懐かれている自覚はあったが、それが恋に変わっていることに気が付かなかった。と正直に言葉にしたら、もとからあった想いが恋に変わったのではなく、これまでの想いはそのままに、あなたに向けている想いが増えたのだ、と熱弁された。その日は「考えさせてくれ」と猶予をもらったが、自分の想いと3日向き合って出した答えは何度否定しようとも、少なからず参謀を愛おしいと思っているだろうというもので。「話がある」と自室に呼び出し、何を言われるのか不安そうに顔を青ざめさせた類にそう伝えれば、初めて素面で抱きしめられたのだった。

    類がふらりと出て行って土産を持ち帰ってくる癖は頻度が増えていて休日に顔を合わせる機会がめっきり減った。私にできることは、朝に疲れた顔で帰ってくる恋人をおかえりと、始業ギリギリになって駆け込んでくる部下にお小言をいうだけだった。未だ類は、本当の愛も自由も知らないから。街で女性を抱いていようが、ほかに恋人がいようが、それが類にとって必要なものなら構わなかった。以前はあった土産もいつの間にか無くなっていた。
     二度目から先のキスはその年のクリスマスだった。とっくに心など捧げていたつもりだったのに、真剣な顔で一夜だけ身も心も僕に預けてくれないか、なんて言うから私がどれほど恋人を愛しているかを体力が果てるまで伝え続けてやった。ここはお前の居場所で、帰る家だから、何があってもただいまと帰ってきてくれればいい。お前が自由でいてくれるなら、私はなにもいらない。

     その数日後、癖は治っていた。治してしまった。治らなければよかったのに、と言うことはできなかった。ベッドの上で一日中、類の腕の中にいることがこんなにも幸せだということを知ってしまったから。

     そんなこともあったな、と庭先のベンチで独り言ちた。二月の半ば、うっすら雪の積もった夜の花壇は鮮やかな色が隠されて寂しげな雰囲気を纏っている。
     類は、自由を愛していた。私は、自由を愛する類を愛していた。

     今朝、同じベッドで目が覚めるなりプロポーズされた。またあのときと同じく「考えさせてくれ」と答えると、「次は待たないと決めていたんです」なんて言って、私が頷くまで懸念事項を解消するための説得、と奴は言っていたが実質10時間の軟禁(食事・トイレ休憩あり)の末、それでも、すぐに決めることはできないと押し切った。同性の婚姻は王国では認められていないし、軍でも同性は配偶者の制度などが使えるわけでもない。私との間に何か証が欲しいのだという。それが本当に類のためになるのだろうか。類が長年かけてこの場所でやっと手に入れることができた自由を。

    「……オレが、類の自由を奪う勇気がないだけだ」
    「──ッあなたなんかに奪えるわけないでしょう‼」

     ぽつりと溢れた言葉に、頭上から聞いたことのないほどの叫び声がした。

    「うおっ⁉」
    「庭ですか⁉ 庭ですね! そこから一歩も動かないでくださいよ!」

     古い洋館は荒い足音にぎしぎしと悲鳴をあげながら類が近付いてくることを私に知らせてくる。逃げはしない、この冷え切った足ではすぐに追いつかれてしまうから。

    「……司さん‼」
    「類、……ッ」

     そんなに叫ばなくても聞こえると言い切る前に腕を強く掴まれた。その手はひどく震えている。

    「……類」
    「あなたです‼」
    「は、」
    「あなたが、“私“が自由ではなくなることを気にしていたのはずっとわかっていました。でも、あなたにだけは私の自由など絶対に奪えない。籠の鳥だった私に初めて自由を与えてくれたのはあなたなのですから」
    「そんなこと」
    「無いなんて言わせません。この紛れもない私が言っているのです。……あなたと共にあることが、いえ、あなたの存在が。私が自由である証明です」

     だから、自分から離れるなと参謀は言う。まだ、私は参謀の言葉に頷けなかった。
     腕を引かれて大人しく寝室に戻る。問答無用でまだ温もりの残るベッドに押し込まれた。後ろから抱き込まれて身動きを封じられるが抵抗はしない。

    「ああもうこんなに体を冷やして。考え事をするにもせめて上着くらい持って行きなさい」
    「……すまん」

     絡められた足は類の温度を奪いたくなくて逃げてもすぐに捕まってしまう。

    「次逃げたら、また縛りますよ」

     「また」なんて言って、縛られたのなんて、あの日以来だろう。それは困るな、と答えたら、類は「あなたを温めている間に、あなたが“神代類の自由“だと思っていたものの正体、教えてあげます」と笑っていた。

    「本当は、あなたがプロポーズに応えてくれたら教える予定だったのですが、特別です」
    「……」
    「街の図書館と森の民の歴史書が保管されている施設に通い詰め、国中の民俗史を調べ尽くしていました。あなたと恋人になる前からです」
    「民俗史、か?」
    「ええ、どうしても調べなくてはいけないものがあったのです。私の自由のために。何年も、絵本すらも手掛かりになるならと机に積んで朝から閉館まで読み続けましたよ」

     幼児向けの絵本を真剣な顔で読み耽る参謀を想像して思わず口元が緩むが、類はそれを無視して続けた。

    「街の図書館にはないと、森の長の家が管理する書架を頼み込んで見せてもらいました。街の図書館とは比べ物にならないほど膨大な数の書物が雑多に置いてあるそこに通い続けるとそのうち鍵は渡しておくから好きなだけ読んでいいと言われ、朝から夜が明けるまで篭りました。手書きな上に悪筆や訛りも多く、効率が大幅に下がったこともあり、それがあの連日の朝帰りに至ります。……問い詰められていれば、正直に話すつもりだったんですよ。それまでは将校さんにはなにも話さないでくれと森の民たち全員にお願いしていましたが」
    「お前、そんなことまで……」
    「そして遂に、とある古い記録を見つけました。あなたを抱いた、数日前のことです」


    「かつての森の文化に、確かに同性婚の儀式が存在していました」


     なにか声を出そうとして、乾いた息しか出なかった。

    「その書物を持って長の所へ向かいました。僕たちを、森の民の様式で婚姻の誓いをたてさせてはくれないかと。お前たちは森の民ではないと、最初は相手にもされませんでしたよ。数日間は儀式の長の家にしつこく通い詰めてやっと一つの条件を残して許可が下りました」
    「条件が、あるのか」
    「ええ。流石年の功というべきでしょうか、バレバレでしたね。 ……将校さんが僕のプロポーズにきちんと頷くこと」

    プロポーズの説得の際、隠している何かを言いかけては咄嗟に吞んでいたのはこれだったのか。
     おまえの自由が私の何よりの願いだった。雁字搦めになっていた鎖を引きちぎって籠から大空へと解き放ってやったかと思ったのに。

    「言ったでしょう、僕の自由はあなたと共にあることなのだと。そろそろ観念してください。あなたと愛し合う時間すらもあなたとの将来のために費やした僕はそろそろ報われてもいいころだと思うのですが」
    「……わかった。オレもそろそろ観念しよう。明日、長の家に一緒に行くぞ」

     回されていた腕がぎゅうと強くなる。拗ねているのに喜色を隠しきれない声色で、「ねぇ、それよりももっと違う言葉が欲しいのですけど」と言うので寝返りを打つように強引に振り向いて、オレだけが言うのも違うだろうと類の言葉をねだる。

    「ちゃんと答えるから、なあ、もう一回、言ってくれないか」
    「ふふ、それもそうですね」

     小さく咳払いをして、参謀が口を開く。

    「……司さん、僕と、結婚してください」
    「ああ、喜んで」





    「図書館で調べているとき、僕の生まれ故郷の伝統に、婚姻の書類を一度もインクに浸したことのないペンを使うとその夫婦は永遠になるといったものがありました。僕は何処かでそれを聞いた覚えがあったのです」

    「顔も思い出せない僕を売った母親の、寝物語でした。最初の誕生日にあなたから頂いたペンにインクを浸す気がおきなかったのは、僕の中にも母の記憶があった証明なのかもしれませんね」


    「あなたが、僕の家族になってくれるとこたえてくれて、本当に良かったです」

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