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    sikou_ga_maigo

    とにかくダイとポップの組み合わせが大好きです。このふたりがお互いを大好きで仲良しなら受け攻めはどちらでも良い、CP未満の強めの友情もリバも美味しく頂けてしまうという性癖の持ち主なのでご注意くださいませ…!

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    POIPOI 33

    sikou_ga_maigo

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    1話→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15467027

    2話→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15467082

    #ダイポプ
    dipop
    #ディノポプ
    #ダイ大(腐)
    daiDai

    おれの伴侶(予定)が○○すぎて狡い(未完)※注意!※
    ────
    ・未完です!ディーノ視点で書き始めたら、難しくて行き詰まりました…完成時期は未定です。
    ・最初から最後まで捏造しかないです。
    ・アルキード王国が滅亡せず、王子様として育ったディーノ様×一市民ポップです。

    以上、OKな方はスクロール↓








    【おれの伴侶(予定)が〇〇すぎて狡い】


     半ば拉致のような形でポップを彼の自宅から連れ出したディーノは、外で待機させていた馬車のもとへと向かい、馬の操縦をラーハルトに任せると、手綱に繋がれている黒塗りの車体へと乗り込んだ。
     その間のポップはと言えば、赤くなったり青くなったり目を白黒させたりはしていたけれど、特に抵抗もせず大人しくディーノに抱きかかえられていてくれた──実を言うと彼は、己が今後歩まざるを得ない道について考えを巡らせていた為に、抵抗どころではなかったのだ──ので、それを良いことに、一連の行動を取っていた間も、今現在も、ディーノは彼をガッチリ抱えたままだったりする。

     ディーノとポップが乗り込んだのは、街中でよく見かける荷馬車とは違う、王族用の馬車だ。屋根も壁もあり、華美ではないが重厚感のある造りで、漆黒に塗られた車体の前面に、アルキード王国の国章を象った銀細工が掲げられている。
     車内にはベンチ状の座席が取り付けられていて、足元には真紅の絨毯が敷かれていた。広さも充分で、平均以上に長身で体格の良いディーノと、ディーノよりも細身だが平均よりも身長の高いポップが一緒に乗り込んでも、まだ余裕があるほどだ。

     ディーノが座席に腰掛けると、彼の両膝の上にポップが横向きに乗せられている、という体勢になった。ディーノが席につくと、タイミングを測ったかのようにラーハルトの掛け声と馬のいななきが響き、馬車が滑るように走り出した。

    ***

    「なあディーノ…いい加減降ろせよ…」

     馬車が走り出してから、五分ほどが経った頃。今にも鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌な表情でポップの顔を見つめていたディーノへ、所在なさげに視線をさまよわせていたポップが、蚊の鳴くような声で抗議をしてきた。

    「やだ」

     にっこりと笑って即座に却下をすれば、ポップは「うっ」と短く呻き、ディーノから目を逸らす。

    「……じゃあせめて、あんま見ないでくんねえ…?落ち着かねえんだよ。無駄に近えしよお…」

     ポップの弱々しい抗議に、ディーノは幼子のように、むぅ、と、頬を膨らませた。

    「やだ。だっておれ、この日のためにずうっと頑張ってきたんだもん。これくらいのご褒美は許されてもいいと思う」
    「……いや…ご褒美って…何バカなこと言ってんだよ…」

     ポップは思い切り眉根を寄せて半眼になると、不満気に唇を尖らせ、呆れを滲ませた声音で溜息をついた。
     よくこんな風に表情を崩すせいで分かりにくいのだが、彼は充分に整った顔立ちをしている。飛び抜けた美形と言うよりは、素朴で可愛らしい、という方向性ではあるのだが。
     これについては、ディーノの主観というだけではない。実際に、城で働く者たちがポップのことを『真面目な顔をしていれば中々の容姿なのに、滅多にそんな顔はしないから勿体ない』などと評している場に居合わせたこともあるくらいなのだ。

     まあ、ディーノからしてみたらどんな表情のポップだって魅力的だし、今だって彼が尖らせている唇を、勢いに任せて奪ってしまいたい衝動を抑えるのに必死なわけだけれど。

    「酷いなあ、本心なのに」

     内に燻る衝動をやり過ごす為、ディーノはあえて子供っぽく拗ねた声で不満を訴えた。

    (…せめて、このくらいは許してもらいたいな)

     そんな思いに導かれるまま、ポップの背に回している腕をぐっと引き寄せて、彼の肩口に己の額をそっと預ける。と、ポップが分かりやすく身を固くしたので、ディーノは思わず口元を緩めた。

     元々ポップは、心を許した相手へのスキンシップが多い性質の持ち主だ。互いに成長してからは機会が減ってしまったけれど、幼い頃から共に過ごす時間の多かったふたりにとって、このくらいの触れ合いは日常茶飯事だったのだ。けれど、ポップのこんな反応は初めてで。
     警戒されている、ということなのだろうが、言い換えれば、彼はディーノをこれまでに無く意識してくれている、ということでもある。

    (困ったなあ……)

     口角が上がりっぱなしで、戻せない。胸中に渦巻くのは、好奇心と、若干の嗜虐心と、育ちすぎたポップへの想いが入り混じった葛藤だ。
     この体勢とこの距離であれば、例えば彼のうなじにかかる後れ毛を掻き上げて首筋にキスを贈ることも、形の良い耳に向かって愛を囁くことも、なんならそのまま耳朶を食むことだって可能なのである。
     もしも実際に行動に移した場合、ポップはどんな反応を見せてくれるのだろうか。知りたいと、自分だけに見せて欲しいと、そう思う。


    ──けれど、今はまだ。


    「安心してよ。何もしないから」

     燻る衝動を内に押し込めつつ、ディーノがそう告げると。

    「………おまえな。こんな状況で、んなこと言われて、ハイそうですかー、なんて信じられっかよ。そもそも、こんな体勢に持ち込んでること自体、何もしない、っつーのには当て嵌まらねえだろ…」

     不満げな声でそんなことを呟かれたものだから、ディーノはポップの肩口から顔を上げた。次いで、ジト目でこちらを見ているポップの目をまっすぐに覗き込む。

    「信じてよ。ポップが嫌がりそうなことは、何もしない。だって、これからおれに夢中になってもらわなくちゃいけないのに、嫌われちゃったら意味がないだろ?」
    「へ…?」
    「今のこの体勢だって、ポップが本気で嫌だって言うなら、今すぐやめるよ。そりゃあ勿論、おれはポップを離したくは無いけどさ。…どうする?」

     ポップはぽかんと口を開け、目を丸くして呆けている。こんな表情も無防備で可愛いな、などと思いながら見つめていると、彼がふいに目を逸らしたので、ディーノからはポップの後頭部しか見えなくなってしまった。それに関して言えば、少し不満だったのだけれど。

    「…おまえ……ほんと…バカだな……」

     聞こえてきた小さな呟きに、勢いがまるで無くて。形の良い耳と、下を向いたことで顕になった白いうなじが、うっすらと赤みを帯びていて。それに加え、本気で嫌なら解放すると告げたのに、結局彼は「じゃあ離せ」などと言うこともなく、ディーノの腕の中に大人しく収まり続けてくれていて。

    ──それはつまり、この体勢のままでいることを、暗に許可してくれたということで。

    (…ああ、もう!)

     ディーノは思わず天(とは言っても目に入るのは木目の天井なのだが)を仰ぐ。込み上げる愛おしさで、どうにかなってしまいそうだった。おれの伴侶(予定)が可愛すぎて狡い。

    (……でも、これは…おれが本当に求めてるものとは、違うんだよね…)

     ディーノはポップへと再び視線を戻し、こっそりと苦笑を浮かべた。

     普段のディーノへの接し方から考えても、彼がディーノへ好意的な感情を持ってくれていることに対しては、揺るぎの無い自信がある。
     想像したくもないことだが、仮に今ポップを抱えているのがディーノ以外の男であったなら、彼は全力で抵抗しただろう。それ以前に、まずこんな状況を許したとは思えない。そもそもポップは、好意が全く無い同性の腕に大人しく収まり続けてくれるような気質の持ち主では無いのだから。

     ──けれど。その好意の形はまだ、親愛の域を出ていないだろうとも思うのだ。

     ポップは、口調がぶっきらぼうだったり、気のおけない相手に対してぞんざいな態度を取ることはあるけれど、基本的にとても優しい青年だ。そして彼の優しさは、一度懐に入れた相手に別け隔てなく発揮される。中でも特に、ディーノ相手に強く発揮される傾向があった。

    (…おれのことが特別ってことは、間違いないとは思うんだけど)

     けれど、その特別の意味は恐らく『幼い頃から見守ってきた、弟のような存在』ということなのだ。

     幼い頃から今に至るまで、ディーノは、『まだ帰らないで』だの『ポップの家に泊まりたい』だのと、ありとあらゆる我儘を彼に言ってきた。そして、よほどの無理難題(例えばプロポーズだとか。結局は、それも断られはしなかったわけだが)でない限り、彼は「しょうがねえなあ」と、笑って受け入れてくれたのだ。

     これらの事実は、ディーノにとって嬉しくもあり、苦しくもあった。ポップに甘やかされるたびに、彼がディーノへ抱いている好意と、ディーノがポップへ向けているそれは種類が違うのだと、思い知らされているかのようだったから。

     どうすれば彼からの好意をディーノが理想とする形へと昇華させられるのかは、今後の大きな課題である。──けれど。

    (…まあいいや、今は)

     ポップの肩口に再び額を預けると、ぴく、とディーノよりも随分薄い肩が跳ねた。けれど、避けられることはなく、抗議の声も上がらない。
     万感の思いを込めて、ふうー、と大きく息を吐くと、ポップの身体が若干強張った。それでも押しやられたり、突き放されることは無く。

    (…ポップってば、相変わらずおれに甘いんだから)

     そう感じて、苦しいような、切ないような気持ちも迫り上がってはきたけれど。ふたりきりの車内でこの距離と体勢を許されているということに、優越感や安心感、くすぐったくなるような嬉しさが湧き上がってくるのもまた、確かな事実で。

    (ああ。やっぱりおれ、ポップのことが大好きだなあ…)

     そんな想いを噛み締めながらそっと瞼を閉じれば、ディーノの脳裏に、今この時までの道のりが走馬灯のように蘇る。

    (……これまで、本当に長かった…)

     ポップへの想いを自覚してから今日に至るまでの道のりは、途方もなく長く、苦労の連続だったのだ。なんせこの幼馴染みときたら、ありとあらゆる点において────狡いのである。


    ***


     今から遡ること、三日。その日ディーノは、彼専用の執務室にて、ラーハルトと向き合っていた。
     椅子に腰掛けているディーノは、どっしりとした執務机の天板に両肘を乗せ、組んだ両手の上に自身の顎を乗せている。対するラーハルトは、執務机の前で微動だにせず佇んでいた。両者とも非常に険しい顔つきをしていて、空気がぴんと張り詰めている。

    「ラーハルト。今日の報告をお願い」

     琥珀のように美しいと評判の蜂蜜色の瞳をスッと細めたディーノが重々しい口調で切り出すと、ラーハルトは「はっ!」と鋭い声で返答し、手にしていた書類へと目を落とした。

    「本日は2件ございます」
    「2件か。少ない方だね。内容は?」
    「1件目は、先日我が国へ移住してきた一家の、17歳の娘です」

     ラーハルトの言葉に、ディーノの凛々しい眉が跳ねあがる。

    「ふうん。年齢も近いね。要注意かな。続けて」
    「はっ。その娘が買い出しに行ったところ、つい買いすぎてしまい、前が見えないほどに高く積み上げた荷物を抱えながらふらふらと歩いていて、ポップにぶつかったと」

     続けられた『報告』の内容に、ディーノは端正な顔を思い切り顰めた。はっきり言って、嫌な予感しかしない。

    「んー…まあ、なんとなく予想はつくけど…とりあえず続けて?」
    「かしこまりました。慌てて謝る娘に『いいっていいって、わざとじゃねえんだから。それよか早く拾わねえと。馬車でも来ちまったら踏み潰されちまうぜ?』と、手を振りながら答えたポップが、娘の荷物を拾い集め出したんだそうで」
    「あー…うん。そんなことだろうと思ったよ…」

     嫌な予感とは、得てして当たるものだ。その後の展開も何となく予想がついて、ディーノが嘆息する。

    「…ポップのことだから、遠慮する彼女を押し切って最後まで荷物を拾うのを手伝った挙げ句、半分以上持ってあげて、その子の家まで付き添ってあげた、とか…そんなところかな?」
    「さすがはディーノ様、全くそのとおりの展開です」

     間髪入れず返ってきた返答に、ディーノが肩をすくめて苦笑する。

    「むしろ、当たってほしくない予想だったんだけどなあ…」

     余談だが、ポップの台詞を読み上げる際のラーハルトは鉄面皮を保ち、口調がまるっきり棒読みだった。大変シュールかつ、一周回って面白い光景だったのだが、生憎とこの場にディーノとラーハルトのふたりきりなので、それを指摘する者が誰もいない。
     とは言え、誰かいたところで、この状況が何か変わったとも思えないのだが。なんせ、アルキード王国の第一王子とその従者のやりとりに割って入ったりツッコミを入れたりできる人物は限られている…というか、そんな人物は、この国ではポップくらいしかいないので。

     そんなわけで、ラーハルトの『報告』は、その後も滞りなく進んでいった。

    「もう1件は、旅の途中にこの国に立ち寄った、20歳前後の冒険者の男ですね」

     手に持った書類をめくり、ラーハルトが2件目の『報告』を読み上げる。

    「ふーん。冒険者で男なら、要注意度は低めかな。それで?」
    「はい。道に迷っていたところ、先程の娘を送り届けたあとのポップが通りがかり、声をかけて道案内をしてやったと。案内の礼は何がいいかと聞いた男に、ポップは『あんたの旅の話を聞かせてくれたらそれでいいよ』と言ったらしく」

     不快な想像が脳裏をよぎり、ディーノの眉間に深い皺が刻まれた。

    「あー…また読めたかも。ポップ、その男と食事でも一緒にしながら、話を聞いたんじゃない?ポップ、聞き上手だし、くるくる表情変わるから、話してて楽しいもんね。それでその男がポップを気に入った、みたいな感じ?」
    「さすがです、ディーノ様。まさしくその通りで、別れ際に『よかったら、また明日もこの店でメシでも食いながら、話を聞かせてくれよ。あんたの話、すげえ面白かったし』と、ポップが笑顔で言ったところ、男がポップの笑顔に見惚れていた様子だった、と」

     想像通りすぎる展開に、ディーノの視線に剣呑な光が宿る。

    「その男が本気になる前に、さっさとこの国から追い出さなくちゃね」
    「ご安心を。既に対処済みです。こちらをご覧ください」

     ラーハルトが、手にしていた書類を執務机の天板に置く。それを引き寄せてパラリとめくれば、冒険者の男の人相書きが描かれていた。体格は良い方に入る部類だが、これといった特徴の無い、至極平凡な顔立ちである。
     その男のこれまでの功績や生い立ちなども詳細に記されていたが、目につくようなものは何もない。総合的に見て、ディーノの敵では無さそうだ。

    「明日、ポップとその男が約束しているのは午前11時です。ディーノ様は偶然を装って待ち合わせ場所の食事処へ行き、同じテーブルについてください。いつもどおりに振る舞って頂くだけで、男は早々にディーノ様をポップの恋人だと思い込み、勝手に諦めてくれるでしょう。あとは我々にお任せください。少しでも早くその男がこの国を出立するよう、冒険者が飛びつきそうな情報をさり気なく流しておきますので」
    「さすが、手際がいいね」
    「恐れ入ります」

     物々しい雰囲気のまま、ラーハルトの『報告』は続く。内容としては非常にアレで、こんなにピリピリとした空気の中で話すようなことでもないのだが、本人たちは至って真剣だ。
     またしても余談だが、このディーノ専用執務室の本棚には、ナンバリングが振られた紐とじ式の分厚いファイルが何冊もあり、ディーノがポップに気がありそうな要注意人物と判断した者たちの情報が、その中に纏められていたりする。

    「1件目の娘のところへは、街人に扮した調査員たちを送り込み、娘の耳に入る場所で、ポップはディーノ様の恋人だという噂話を聞かせておきました」

     ラーハルトの報告に、ディーノはこっそり自嘲の笑みを浮かべる。

    (噂話ねえ…。まあ、実際そうなんだけどさ)

     ディーノとしては、すぐにでも噂ではなくて本当の話にしてしまいたいのだ。しかし現時点では、そうはできない事情がありすぎる。

    「…そう。反応は?」
    「半信半疑だったようですよ。しかし、先程調査員よりあがってきた追加の報告によれば、娘の近所に住んでいる住民が、自らその娘に『あの子はディーノ様のお気に入りだからね。やめておきな』と進言して、信憑性を上げてくれていたとのことです。ディーノ様の努力が実を結んできている証拠ですね」
    「へえ。その住民には、何かお礼したいな。今度ポップに会いに行くときにでも、ちょっと寄ってみようか。ついでにその娘さんを牽制しておきたいし」
    「ああ、いいですね。ポップとのやりとりをその娘に見せつけられると、尚効果的でしょう」
    「うん。じゃあ、近々出向くから、スケジュールの調整を頼むよ」
    「はっ!」

     とりあえず、対策は立てた。近いうちに実行も可能そうである。この2件については、特に拗れることもなくすぐに解決するだろう…と、安心しかけたところへ。

    「ディーノ、大変よお!」

     両開きの扉をバーン!と威勢よく開いて執務室へと駆け込んできたのは、彼女の自室でスティーヌと午後のティータイムを楽しんでいた筈のソアラだった。

    「どうしたの、母さん」
    「母さんね、今スティーヌちゃんから聞いちゃったんだけど、スティーヌちゃんのお気に入りのパン屋さんで最近働き始めた若い女の子、ポップくんがお使いに行くと、やけにおまけをたくさんくれるんですって!」
    「…ラーハルト、至急調査してきて」
    「はっ!」

     短い返事をしたラーハルトの姿が残像だけを残してあっという間に掻き消え、ディーノとソアラだけがその場に残される。

    (本当にもう!次から次へと!!)

     解決できそうだ、と思ったそばからの新たな問題発生の予感に、ディーノは頭を抱えたくなった。

    「あらまあ!」

     ディーノのデスクに置かれたままの書類を手にとって、ソアラが目を丸くする。

    「今日も報告が上がってきてたのね。私からの報告で何件目なの?」
    「3件目だよ」

     ディーノが苦笑しながらそう答えると、ソアラもまた、ディーノによく似た表情を浮かべた。

    「相変わらずねえ。まったく、ポップ君にも困ったものだわ。色々よく気がつく子なのに、なんであんなに自分への好意にだけは特別鈍いのかしら…」

     白磁のような頬に手を当てて、ソアラはふう、とため息をつく。

    「本当にね…」

     ディーノも思わず、溜息混じりに同意を返した。そうなのだ。こんな報告が上がってこない日が珍しいほどの相当な人たらしだというのに、ポップはどうにも自覚が薄すぎるのである。

    『あの人はポップに気があるから、気をつけて』
    『今の言い方はちょっと、勘違いさせちゃったと思うよ』

     …などなど、ポップ本人に、それとなく伝えてみたことはあるのだ。けれども彼は、

    『何言ってんだよ。おれなんかがそんなモテるわけねえだろが。むしろアレは、おまえのファンだろ?』
    『は?考えすぎだって。おまえさんは変なところで心配性だよなあ』

     …と、こんな調子で、真面目に受け止めてくれないのである。
     まるで魔法のように、たやすく人々を魅了してしまうくせに、本人にはその自覚がまるで無い、だなんて、危なっかしいにも程がある。目を光らせておかないと、いつ何時、ポップの身が危険に晒されてしまうか分かったものではない。
     そう判断したディーノは、ラーハルトを筆頭とした腹心の部下たちを巻き込んで、こうして影からポップを守っているのである。

    「…早く迎えに行かなくちゃ」
    「そうね。心配だものね」

     思わず漏れ出た本音を受け止めて、ソアラが優しく微笑んでくれた。

    「母さんもこれまで以上に協力するから、頑張るのよディーノ!」

     腕まくりまでしてやる気アピールをする母の姿と心強い激励に、ディーノの心も軽くなる。

    「うん、ありがとう母さん」
    「ふふ、どういたしまして。それじゃ、スティーヌちゃんを待たせちゃってるから、そろそろ戻るわね」

     ひら、と手を振ったソアラが、執務室をあとにする。母の背中が扉の向こうへ消えたのを確認したディーノは、机の上の資料を手に本棚へと向かい、最新のファイルを抜き出して手に取った。ずしりと重い。こんなファイルが、まだ何冊もあるのだ。それなのに、肝心のポップ本人は、寄せられる好意にまるで気がついていない。──それは勿論、ディーノからのものも含まれていて。

    (…そういう鈍感なところも可愛いんだけどさ…限度ってものがあるよ…)

     資料を追加したファイルを棚へと戻しながら、ディーノは深く溜息をついた。

     いつからか、というのはハッキリしないが、物心ついたときには、ディーノは既にポップのことが大好きだった。
     頭が良くて、博識で、話していてとても楽しい。ちょっと我儘だったりお調子者なところもあるけれど、見返りを求めない優しさを、気負いなく他人に差し出せる人でもある。表情豊かで感情を素直に出すところも、よく笑うところも、好きで好きで仕方なかった。

     ──けれど、そんな彼に惹かれているのが自分だけではないことに、ディーノは次第に気がついていったのだ。

     ポップが城へとやってくると、差し入れを携えた厨房の下働きがしょっちゅうやってきたり、メイドたちが入れ替わり立ち替わり御用聞きにやってきたり。そんなことが、目に付くようになっていって。
     ポップの話の中に出てくるディーノの知らない誰か──例えば、彼の自宅の近所に暮らす住人だとか、行きつけの店の店員だとか──の言動が、明らかにポップに好意を寄せているとしか思えない、ということだって、数え切れないほどに経験した。

     ポップに惹かれること自体は、仕方ないと思う。とは言え、誰にも彼を譲る気は無いので、気がついたそばから、なるべく穏便に排除させて貰ってはいたけれど。
     ただ、中にはディーノに近づくことを目的としてポップに近づこうとする不届き者もいて。そういう悪意や危険からポップを公的に守るためには、ポップを口説く前に法の整備をする必要があったのだ。

    ***

     現在はここまでです。お読み頂きありがとうございました!


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    sikou_ga_maigo

    MAIKINGこちら→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16964720の番外編です。本編を読まないと色々分かりにくいと思います。最終回後二年で再会してデルムリン島で新婚生活を送ることになった、ちょっとお互いに依存度高めのポダの、再会直後〜初夜までの話になる予定。R18ですが、まだR18パート手前です。
    【全きみ番外編(仮題・未完)】「わあ!すっげえや!」

     デルムリン島の森の中に、ダイの歓声が響いた。

    「まっ、おれにかかりゃあ、ざっとこんなもんよ」

     ポップが得意げに鼻の下を指で擦ると、ダイはキラキラとした目で隣に立つポップを見上げ、「さすがポップ!!」と声を弾ませる。
     ふたりが今何について会話しているかといえば、つい今しがた完成した、ふたりの住まいについてだった。ポップが呪文を駆使し、ものの数分で作り上げたのである。
     家を作り上げたとは言っても、ポップがやったことと言えば、威力を調整したイオやバギで岩盤を掘削し、岩壁に穴を開けて明かりとり用の窓を作成し、岩の破片やら土埃やらを吹き飛ばし、住みやすく整えただけだった。ダイの探索の為にあらゆる呪文を身に着け、扱い方も手慣れている今のポップにとっては、造作もないことである。けれど。
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