夜半、心地よい睡魔の波に揺蕩っていたはずなのに、意識が浮上する。尾形は身体から眠気の波が引いていくのを感じた。
嫌な予感が飛来して、瞼は閉じたまま隣に寝ているはずの男に触れようと手を伸ばす。しかし手を伸ばせど掴むのは空ばかり。不承不承に瞼を持ち上げると、隣はもぬけの殻だ。
――どうりで寒いわけだ。
こうして杉元が夜中に起き出すのは今に始まったことではない。そう多くはないが、数ヶ月に一度の頻度でベッドから抜け出す。原因は大抵決まっていて、夢見が悪かったから。いなくなる度に尾形の心拍が跳ね上がるが、杉元はさして気にした様子もなく眠気が来るまで外出したりする。
「今日はどこまで行ったんだ?」
溜息混じりに呟いて、尾形もベッドを抜け出す。フローリングに触れた足裏には突き刺すような冷感。冬のフローリングは芯まで凍る冷たさで、僅かに残った睡魔も逃げ出した。これはしばらく自身も眠れないだろうと諦めた尾形は、厚手のジャケットを手に取りリビングに繋がる寝室の扉を開けた。
2958