「お兄ちゃん、どうして・・・」
「あなたを混乱させたくなかった・・・」
「じゃあなんで鬼狐なんか名乗ってたの?」
「いきなり目の前に死んだはずの兄が現れたらあなただって信じられないでしょうに」
「確かに・・・」
死んだと思われたお兄ちゃんが実は生きていた。そんな話聞いたこともないし想像もできないよ。でもこうして今私の目の前に現れて生きていることを証明してくれた。
「でも正直に言って生きているて言うよりかは死んでいる方に近いし、見える人と見えない人がいるからなぁ」
「じゃあ、あの角は?」
「角?ああ、あれか」
「お兄ちゃんもしかして、鬼になったの」
「答えはYesだよ。鬼って言うよりかは神に近い存在だから・・・死んだと思ったら神社にいたからね」
「じゃあお兄ちゃんは神様ってこと?」
「そう言うことだね」
クスクスと笑いながら話すお兄ちゃんを見て私はなんだか嬉しくなってきた。もう会えないと思っていた人にこうしてまた会うことができたんだもん。こんな嬉しいことはないよ!
「それにしても、随分変わったんだね」
「まあ、いろいろあったからね」
「ねぇ、ちょっと触ってもいいかな?」
角を撫でようと手を伸ばすとお兄ちゃんは少し嫌そうな顔をして避けようとしたけど私にはわかるんだよ。本当は触ってほしいんでしょ?ほーらやっぱりそうだ。
「こちょこちょ~♪」
「ひゃう!?」
「おお!本物だ!」
「やめて!お願いだから許してくれぇえ!!」
私が思いっきりお兄ちゃんの角を撫でるとお兄ちゃんは可愛い声を出して悶えた。これは楽しい!!もっとやってやるぞぉ!!!
「この野郎・・・」
「へっ?」
すると突然お兄ちゃんの雰囲気が変わった。
「やったなぁー!」
私に飛びかかってぎゅーってしてきた。いや、待ってこれ結構苦しいんだけど!?
「ちょ、お兄ちゃ・・・んぐぅ!」
「ふふふ、覚悟しろよぉー?」
「ごめんなさいぃいい!!」
「あっはっはっは!!!」
お兄ちゃんは大声で笑った後私の頭を優しく撫でてくれた。
「お前が元気になってくれてよかったよ」
「うん・・・ありがとう」
それから私たちはいろんな話をした。お兄ちゃんのこと、私たちのことを。でも一番驚いたことはお兄ちゃんは昔と変わらず優しいままだってことがわかったことだった。
「お兄ちゃんはずっと昔から変わってないんだね」
「ああ、僕は何一つ変わっていないから」
「じゃあ、もし私が死んじゃったらどうするの?」
「それは悲しいけど受け入れるしかないだろうね」
「そっか・・・お兄ちゃんらしいね」
お兄ちゃんはきっと悲しんではくれるけど自分の気持ちを押し殺してまで受け入れようとするはず。それがどんなに辛いことでも絶対にやり遂げてしまうんだろうな。そういうところも含めて全部好きだったりするんだよね。
「お兄ちゃん、大好きだよ」
「僕も好きだよ」
「・・・え?」
「ん?どうかした?」
「あ、いやなんでもない」
今なんて言ったの?聞き間違いじゃないと思うけどまさか私のことが好きなの?ありえない・・・だって兄妹なのに。でもさっきの言葉を聞いた瞬間胸がドキドキしたし顔も熱い気がする。これが恋なのかな?
「麻里?」
「ひゃぁぁあ!?」
いきなり耳元で囁かれたせいで変な声を出してしまった。恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だよぉ。
「あはは、そんなに驚くとは思わなかったよ」
「もう!意地悪しないでよ!」
「ごめんごめん」
お兄ちゃんは謝りながらもどこか楽しげに見える。むー、なんだか悔しいなぁ。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「これから先何があっても離れたくない」
「僕も同じことを思っていたよ」
その言葉を聞いて私は自然と笑顔になっていた。そして、私はお兄ちゃんの手を握った。
****
お兄ちゃんがメモで自分のいる神社を教えてくれたから休日に遊びに行くことにした。場所は東京から離れたところの田舎町。電車に乗って二時間くらいかかるからちょっと面倒だけど、お兄ちゃんに会いに行くなら苦にならない。むしろ楽しみという感情が大きい。
「早く着かないかな~」
私は電車に乗りながら呟いた。窓から見える景色はとても綺麗だし空は青く澄み渡っている。まるで今の私の心みたい!私はスマホを取り出して写真を撮った。
「よし!これで準備完了!」
私は写真を確認してお兄ちゃんに送るとすぐに返信が来た。
『綺麗だね』
たった一言だけだったけど私は嬉しかった。お兄ちゃんから褒められたの久々だからかな。
「ふふん♪お兄ちゃんからのメールゲット!」
私は嬉しさを噛み締めながら目的地に着くまでの間、お兄ちゃんとのやり取りを楽しんだ。しかし
「えっ、登るの?」
駅についてからお兄ちゃんのいる神社の近くまでやってきたけど、石段の数が尋常じゃなかった。しかも長い。これを登らないとお兄ちゃんに会うことができない。
「でも行くしかないか・・・」
覚悟を決めて登り始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっとついた」
ようやく神社の前までたどり着いた。疲れたけどここまで来ればあと少し。私は息を整えてから鳥居を潜って境内に入った。
「お兄ちゃん・・・」
「よく来たね」
「うわっ!?」
突然後ろから抱きつかれてびっくりした。
「お兄ちゃん!?」
「いや、遊びに来るって言うから驚かそうかと思って。社の所有者には話つけてあるから」
その前にお兄ちゃんの後ろでわらわらと何かがいる気が
「大所帯だけど気にしないで」
「いや気になるよ」
お兄ちゃんの後ろにはたくさんの動物がいた。
「この子たちは僕の友達みたいなものだよ」
「そうなんだ。よろしくね」
私が挨拶するとみんな返事してくれた。かわいい。
「みんな妖怪なんだけどね」
「よ、妖怪!?」
お兄ちゃんの言葉に驚いてしまった。まさか妖怪だったなんて・・・
「今いるのは、猫又、天狗、鎌鼬、木霊、狸・・・」
「ニャー(この人はお得意様なんだよね)」
「猫又、僕の妹に手を出さないでくれる」
「ニャーン(そんなことするわけないじゃないですか)」
「一応忠告してるんだから、妹の身になんにもなければいいのよ・・・なにもなければね」
お兄ちゃんからなんか黒いオーラが出てるような気がした。こ、怖い。
「とりあえず今日はゆっくりしていって」
「あ、はい」
私はお兄ちゃんに案内されて社の中に入っていった。
中に入ると意外と広くて綺麗だった。
「適当に座ってて、お茶入れるから」
「あ、うん」
私は座布団の上に正座をしてお兄ちゃんが来るのを待つことにした。それから数分後にお盆を持ったお兄ちゃんが入ってきた。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
お兄ちゃんが入れてくれた緑茶を一口飲む。美味しい。
「ん?どうかした?」
「あ、いやなんでもないよ」
お兄ちゃんの肩にまりもみたいなのが乗っかっているんだった。あれは一体なんだろ?
「ところでお兄ちゃん」
「なんだい?」
「さっきから気になってることがあるんだけど」
「あぁ、これのことかい?」
お兄ちゃんはまりもを掴むと私に見せてきた。
「それだよ!」
「これはね木霊だよ、木の霊と書いてね。木に宿る精霊でね」
それからというもののお兄ちゃんが妖怪の話題を延々と喋り続けた。正直ちょっとうるさいと思ったけど、お兄ちゃんが楽しそうだから黙って聞いてあげた。それにしてもお兄ちゃんにこんな一面があったとは知らなかった。
「それでね」
「まだ続くの?」
かれこれ一時間以上経つのにまだまだ終わらない。もうそろそろ日が落ちてきそう。私は腕時計を見て時間を確認した。
「あっ、ごめん。つい夢中になっちゃった」
「別に大丈夫だよ」
本当はちょっとだけ眠たかったけど、お兄ちゃんの話を聞いていたらそれも吹き飛んだ。
「ねぇお兄ちゃん、また会えるかな?」
「大丈夫だよ、今度は僕の方からまた会いに行くから」
そう言ってくれただけで私は満足できた。それだけで嬉しい。でもやっぱり寂しくて仕方がない。
「もしもの時はお兄ちゃんが駆けつけるから」
私はその言葉を信じて待つことに決めた。
「じゃあそろそろ帰るね」
「わかった、駅まで送っていくよ。掴まってて」
お兄ちゃんは私をおんぶして・・・全速力で走った。
「お兄ちゃん速い!」
「これが一番手っ取り早いでしょ!」
リュックサックを背負っている私をおんぶしているのに平気な顔をして石段を数段飛ばしたりしてどんどん下っていった。
「お兄ちゃん!お願いだからゆっくり走って!!」
「えー・・・しょうがないな」
お兄ちゃんは走る速度を落としてくれた。
「ふぅ、助かった・・・あれ?」
ある疑問が頭の中を過った。今まで鬼狐として私のところに来たときって
「お兄ちゃん、今まで走ってきたの?」
「そうだけど」
私はため息を吐いた。