「お兄ちゃん、麻人くんと暮らしてどんな感じなの?」
久しぶりに遊びに来た私は麻人くんのことで兄に聞いたが、どう答えればいいのか言葉に詰まっていた。
「うーん・・・」
「なんか、困ってることとかない? 私で良かったら相談に乗るよ」
「でも麻里に言っても解決することじゃないし」
「どうした?」
ソファに座っていたKKさんがこっちを見る。
「麻人のことで麻里が」
「KKさん、麻人くんってどんな感じなんですか?」
「麻人か・・・お前に言ったところでドン引きされる可能性がな」
ドン引きって麻人くんが何かしたのかな?
「えっ!何それ気になる!」
「麻里が言うなら話してもいいか」
兄は冷蔵庫から麦茶を3つ持って来てテーブルに置く。
「この前依頼先から貰ったお菓子の詰め合わせが丁度あるから、ちょっと待ってて」
そう言いながら食器棚から大きめの箱を取り出した。
「それで麻人のことなんだけど、前にゴキブリを素手で掴んでそれをKKに見せてきて」
「ブーーッ!」
兄の口から発せられた衝撃的な内容に思わず口に含んだお茶を吹き出してしまった。
「きたねぇな」
「ごめんなさい・・・いやいやそれより今なんて!?」
「だからゴキブリを素手で掴んで」
「あの黒光りするGを素手で!?」
「そのときのがスマホに」
「おい待て」
兄がスマホを操作して見せてきたのは麻人くんがGをKKさんに見せているところだった。しかもKKさんが裏声上げて驚いてるし。
「虫関連で言ったら前に麻人が「これ切り離しても生きてるよ」って無邪気な笑顔で手のひらに乗っけて来たときはさすがに引いた。俺でもあんなことはしねぇよ」
「もうね、あれはトラウマレベルだよ。前に蝶々の羽を千切ってた時に注意したら「なんで?」って純度100の純粋な目で聞いてきて」
「まぁこんな感じだな」
二人の話を聞いてると麻人くんがどこかずれてるような気がする。
「あと前にペットが欲しいって言ってきて」
「でもKKさん動物全般ダメでしたよね?」
「ああ、あのゴキブリの件で虫が余計にダメになった」
KKさんは完全にトラウマを植え付けられている。
「犬、猫、あとチンチラ」
「チンチラってあのネズミみたいな?」
「それ、でもKKが動物ダメだから飼えないよって言ったらどうしたと思う?」
「架空の犬でも作ったとか?」
「KKに首輪とリードつけて服従させようとしてた」
「俺を犬にしようとする発想がどこから出てきたのかわかんねぇし」
想像以上にヤバい子だ。
「えっと・・・他には?」
「あとはぬいぐるみ殴ったり引きちぎったりしてたのを俺が注意したら「生きてないのに」って言われた。」
これは重症かもしれない。
「あの、麻人くんはどうしてそんなことを?」
「「それがわかってたら苦労してない/してねぇ」」
麦茶をグイッと飲み干す二人。その顔には疲労の色が見えていた。
「あと前に麻人を図書館に連れて行って本を片っ端から見せたんだけど、興味の湧くジャンルが・・・」
兄は何か言いたくなさそうな顔で言っていた。
「でも麻人くんは文字は読めるんだよね?」
「うん。絵本の内容は理解してるし、よく読んでる絵本があるけど」
「タイトルは?」
「うさおくんシリーズの『うさおくんとあめだま』ってやつなんだけど」
子供向けの絵本で知られるうさおくんシリーズの一つでうさおくんが万引きしてしまう話で最終的にお母さんと一緒にお店の人と謝る内容だったはず。
「麻人はこの話を気に入ったらしくって暁人が出掛けている時に読んでって俺にせがんできてた」
「あとは僕とKKの部屋の本棚から適当に小説を取って読んだりして・・・あまり言いたくないけど麻人の好きなジャンルが戦争とか犯罪とかそっち方面ばっかりで」
兄は顔を歪ませながら話していた。想像以上に恐ろしい子。
「あと仕事のある日は保育所に預けてるんだが前に同じクラスの子に靴投げた」
「なんでですか?」
「鬱陶しかったって、子供ながらにしてあいつは人間不信なのか?回りが心配しているのにそれが鬱陶しくて靴投げた上に俺に「人を黙らせる方法ってない?」って聞いてきたし」
KKさんも顔を歪ませながら言う。ここまで聞いてて麻人くんの闇が深いことがわかる。そして二人は同時にため息をついた。二人の反応を見てると相当やばいみたい。私はその場面に出会したことはないのでわからないが、きっととんでもない光景が広がっていたに違いない。
「・・・とりあえず麻人のことはわかったな?」
「恐ろしい子ってのは理解した」
「なんか麻人のこと話してたら疲れた」
「ごめんねお兄ちゃん、私が変なこと聞いたから」
「気にしないでいいよ。あとこれ、お小遣い」
兄は分厚い茶封筒を渡してきた。中身は、見なかったことにしよう。