私の可愛い弟「ねえ、KKさんって、恋人いるかな?」
「さ、さぁ、いないんじゃないかな?」
目を泳がしながら、顔を赤らめる四つ下の弟が声をかけてくる。その様子に今日も私の弟は可愛いと考えるも、質問の内容に思わず動揺し固まった。私たち姉弟は、あの夜にKKという男性に救われた。KKと共に弟を取り戻した麻里は彼に感謝している。けれど、弟の恋人候補は駄目だ。
「そっかー、ありがと」
「……」
ほっとした顔をして、自室に籠る暁人の背を固まったまま凝視した。
『私の可愛い弟』
「KKさん、絶対に弟に手を出さないでくださいね!」
「……おい、俺が手を出すと?」
夕焼け彩る夕方に、麻里はアジトで寛いでいるKKへと訴える。周囲には暁人と絵梨佳以外の面々が各自作業をしていた。突如の事に一瞬、言葉に詰まるも、麻里の発言に心外な顔をしながら、返事をする。
「だって、KKさん、暁人に懐かれて満更でもない顔してるじゃないですか!」
「おまっ、あれは誰でもなるだろう!」
弟の暁人は異様にKKに懐いているのだ。父が亡くなり、母も亡くなった姉弟に頼る大人が少なかったというのもあるのだが、あれは尊敬や信頼という感情でないことが姉にはわかる。そして、KKもそれに気づいている。気づいているのに放置している。
「もし手を出したら、即座に通報しますから!」
「やめろ!刑事がしょっ引かれるとか、想像するだけでこえーよ」
「いくら暁人が可愛いからって許されないんですからね!」
【東京都渋谷区の高校生(十七)にいかがわしい行為をしたとして、青少年保護育成条例の疑いで、渋谷区、現職刑事、●▲容疑者(三十三)が逮捕されました。】リアルに想像して、一人身震いする。しかし、それは未成年だからではないだろうかと、思考がよぎる。
「未成年のうちは手を出さん」
「はぁ?成人しても駄目なんですけど⁉」
「そりゃ、暁人次第だろうが!」
「だとしても、駄目ですから‼」
真剣な顔をした大人二人が、向かい合い、口論している。駄目な大人のKK、VS、ブラコン姉麻里の対決が始まりそうだ。
「「ただいまー」」
学校帰りの暁人と絵梨佳の二人がアジトへと帰ってきた。紺色のブレザーに赤色のネクタイ、緑と青のチェック生地にパンツ、黒色のリュックを背負った暁人と黒のセーラー服と高校生らしくデコッたバックを持った絵梨佳がカップの飲み物を片手に楽しそう笑っている。
「おかえり、二人とも!」
「おかえり」
二人は何事もなかったような態度で迎える。和やかな顔からは、先程まで口論していたとは誰も思わないだろう。
「駅で絵梨佳ちゃんと会ったんだ」
「近くで新作のフラペチーノ買って来たんだ!」
「美味しいねー」
「ねー」
二人の満面の笑みに心が浄化されていく。思わず心の奥で拝んでしまう。二人の新作の味の感想は全く耳に入ってこない。ちなみに、奥で凛子が今日も絵梨佳が可愛いと拝んでいた。
「そういえば、姉さんが居るってことは、今日依頼手伝うの?」
「うん?今日は手伝わないよ、たまたま」
「そうなの?」
「うん」
仕事以外の用でアジトにいる麻里に珍しいなと感じるも、姉を全面的に信頼している暁人は何も言わない。素直な優しい性格が見える。
「じゃあ、今日は一緒に買い物して帰ろう、お姉ちゃん!」
「もちろん‼」
暁人の幸せそうな顔に麻里が頷く。
「「お姉ちゃん」」
「え?どう、し……あっ⁉」
「家だとお姉ちゃんなんだー」
「へぇー」
絵梨佳と凛子が目を輝かせ、暁人に近づいてくる。肝心の暁人は耳まで顔を真っ赤にして、口を紡いでいる。
「あ、えっと…」
「「可愛いーーーー‼」」
「僕、先に行ってるね!」
バタバタと走り去っていく。大きな音を立て、ドアが閉まる。凛子と絵梨佳の二人は向かい合って、キャッキャッしていた。後ろで私の弟可愛すぎると拳を握り締めている麻里がいた。
「結婚しよ」
KKの一言に、麻里は握っていた拳に力を入れ、鳩尾に叩き込んだのである。