「KK、今日は何の日か分かる?」
「へ?」
朝起きてドアを開けたら暁人が麻人を抱えて立っていた。いきなりの事で頭がフリーズして、思わず変な声が出てしまう。
「今日は何の日か分かる?」
もう一度暁人が言った。
「いや・・・分からない」
俺は正直に答えた。すると暁人はニヤリとして口を開いた。
「KKの誕生日。自分の誕生日を忘れたの?」
誕生日。その単語を聞いて俺は思い出した。今日は11月16日、俺の誕生日だ。
「すっかり忘れてた・・・」
あの時は自分の誕生日なんてどうでもよくなっていた。あいつを倒すために全てを捨てて戦ってきた。だか、今は違う。仲間もいるし、家族だっている。
「自分の誕生日を忘れてたの?全く・・・」
「いや、誕生日なんてあの頃は気にしてなかったし」
「今はね、KKは僕の愛人であり一児の父!!つまり誕生日は特別な日なんだよ」
暁人は俺に向かってドヤ顔を決める。
「で、何をするんだ?」
「まずは朝ご飯食べよう!話はそれからだよ!」
そう言って暁人は麻人を抱いたままリビングに戻って行った。リビングに行くと暁人が朝食の準備をしていた。今日の朝ごはんはハムエッグとソーセージ、それにトーストだ。
「それで今日はどうしたい?」
「どうしたいって?」
「だって自分の誕生日だよ!KKの好きなものも沢山作るし、欲しいものだって買ってあげるよ?」
暁人は目をキラキラさせて言ってくる。俺は少し考えて、自分の欲しいものを言ってみる。
「そうだな・・・」
俺は暁人を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「お前の愛が欲しい」
すると暁人は顔を赤くしながら微笑んで言った。
「もう・・・KKのエッチ・・・」
そして唇を重ねようした途端
「へぶっ!?」
いきなり掌低が飛んできた。正気に戻ったのか
「麻人が目の前にいるのにキスなんてできるか!!」
暁人が恥ずかしそうに怒る。やっぱりこいつには敵わないなと俺は思ったのだった。
****
そして時は進み、俺と暁人は街に出ていた。麻人はというと絵梨佳の父親のところだ。俺としては少々気に触るが。そして暁人は女の姿になり手を繋いでいる。
「さて、どこで昼飯にするか?」
「KKの好きなものでいいよ」
俺はしばらく考えた後、暁人の手を引っ張りながらある店に向かった。
「ここは・・・」
着いたところはラーメン屋だ。最近は行くこともなかったしちょうどいいと思ったからだ。しかし暁人は驚いた顔をしている。
「どうかしたか?」
俺が聞くと暁人は苦笑しながら言った。
「あの時によく行く中華料理屋があるって言ってたっけ」
「そんなこと言ったっけ?」
俺が首を傾げると暁人は溜息をついた。
「KKらしいね・・・」
そして店に入るとカウンターに二人で並び、メニューを見る。
「どれにする?」
「こういうときは無難にラーメンだな」
「じゃあ同じやつで」
俺と同じものを頼み、少しするとラーメンが運ばれてきた。
「いただきます」
手を合わせてから俺はラーメンを啜る。暁人も俺に続いた。口の中に醤油と豚骨の濃厚なスープが広がる。麺もしっかりとしていて美味い。暁人も美味しそうに食べている。
「やっぱり美味しいね」
「そうだな、この味は久しぶりだ」
その後、俺たちは無言でラーメンを食べ終えた。
「私が払うから」
会計は暁人が払ってくれた。
「次はどこに行くんだ?」
俺は暁人に聞く。すると暁人は元の男の姿になり恥ずかしそうに頬を赤らめて言った。
「KKと一緒に居たい」
「・・・わかったよ」
それから俺達は懐かしい場所を回った。スクランブル交差点、神社、商店街・・・どこも俺達にとっては大切な場所だ。
「ねえKK、僕と出会えて良かった?」
暁人が唐突に聞いてきた。
「当たり前だ」
俺が即答すると暁人は嬉しそうに笑った。
****
夕方になり、俺達は家に帰ることにした。不意に携帯が鳴り画面を見ると〈凛子〉と文字が表示されている。
「なんだ?」
《KK、お誕生日おめでとう》
「なっ!?」
まさか凛子から電話が掛かってくるとは思っていなかった。
《忘れてたでしょ》
図星だ。だが、こいつが電話をかけてくるなんて珍しいな。普段はメールかチャットなのに。
「なんで電話なんかしてんだよ」
《暁人くんから電話があってKKの誕生日が今日って聞いてね。急いで電話したの》
「暁人が?」
俺は携帯をスピーカーモードにして暁人に差し出した。
「もしもし凛子さん?すいません昨日いきなり連絡して」
《いいのよ。KKはそういう人だし、それに今日はKKの誕生日なんだから楽しく過ごしたんでしょ?》
「はい、とても楽しかったです。ありがとうございます」
《それはよかったわ》
暁人と凛子が話しているのを俺は黙って聞いていた。
《麻里も絵梨佳も喜んでいるし、後であいつからも電話が来るかもね》
「は?誰だっておい切るな!」
電話は既に切れていた。後であいつからも・・・まさか。
「凛子さんはなんて?」
「麻里と絵梨佳も喜んでいるし、後であいつからも電話が来るかもなって」
するとまた携帯が鳴った。画面には〈般若〉と表示されている。
「噂をすれば」
「あいつかよ・・・」
俺はしぶしぶと言った感じで電話に出る。
「なんだよ」
《お前の誕生の日を祝っているだけだが?》
「お前にだけは言われたくねぇよ」
すると暁人がクスクスと笑い出す。そして暁人に携帯を渡す。
「どうも」
《暁人か?彼は今どんな感じだ?》
「嬉しそうにしてますよ、麻人の様子は?」
《今は私の膝の上で大人しくしているよ、明日まで面倒を見ておくから今夜は二人で楽しんでくれ》
「言われなくてもそうしますよ、じゃあKKにかわります」
暁人に携帯を渡され俺は耳に当てた。
「暁人の言う通りだ。邪魔すんじゃねぇぞ」
《言われなくともな》
そして電話が切れた。すると暁人が嬉しそうな顔をしている。
「どうしたんだ?」
俺が聞くと暁人は笑って答えた。
「麻人の面倒を見てくれるし、KKと一緒に居られる時間が増えるから嬉しいんだよ」
たまにこういうことを平然と言うから困る。俺は少し照れながら話題を変えた。
「そういや暁人、前に誕生日になったら呪うとか言ってたな」
「言ったよ、それは家に帰ってからのお楽しみ♡」
「言ったなぁ~!覚悟しておけよ」
「楽しみにしてるね♡」
そう言って俺と暁人は笑いながら帰った。今日は俺の誕生日。そして、特別な日だ。だから今日は思いっきり甘えてやろうと決意したのだった。