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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    モクチェズワンライ0213「甘味」で参加です。
    モクチェズ初めてのバレンタイン、と言っていいのかなコレ。

    ※大祭KAGURA後、ミカグラ島を発つ前
    モクマの退院は「大祭KAGURAから数週間後」なので大祭KAGURAを1月末開催とし、バレンタインの時はまだ入院中と仮定してます

    #モクチェズ
    moctez

    『恋の味 確かめてみて』
    「お?」
    テレビから聴こえてきた馴染みある声にモクマは食いついた。
    DISCARDと決着が付いた後、モクマはほか3名の仲間と共に病院送りとなっていた。戦いで傷ついた身体を癒やし、4人部屋で他愛のない話をしては大笑いして看護師さんに注意を受けていたのもはじめの1週間だけ。その後、アーロン、ルークに続いて先日チェズレイも退院してしまった。今は大部屋を独占状態だ。
    モクマの退院は順調にいってあと1週間後らしい。これが若さか……と自身の重傷具合を棚にあげて心で泣いた。
    一人きりになったモクマの退屈を癒やしてくれたのは、個室に備え付けられている19インチの液晶テレビだった。
    そのモニターには赤いバラをあしらったドレスを着た歌姫スイが自身の楽曲をBGMにミカグラチョコレートの宣伝をしているところが映っていた。四角いチョコレート菓子を頬張る笑顔が眩い。
    『バレンタインデーには気持ちと一緒にチョコレートを贈ろう』というメッセージが字幕として流れていった。
    ブロッサムではバレンタインデーに女の子がチョコレート菓子を好きな男の子へ贈る慣習があるようだ。他国を渡り歩いてきたモクマの中では、バレンタインデーは花束と共にパートナーへ愛を贈る日だと認識していたので、甘味菓子を手渡すブロッサムの習わしは新鮮に映った。
    「失礼しますね」
    水色のカーテンがシャッと引かれる。見慣れた女性看護師が顔をのぞかせていた。肩上で内巻きにしたブラウンの髪を耳にかけ、体温計をモクマへ手渡す。受け取った体温計を脇に挟むモクマの表情を見て、看護師が垂れ目を細めた。
    「あらあら、朝からなんだかご機嫌ですね」
    「分かる?さっき、スイちゃんのバレンタインデーCM見てて」
    「スイさん、お好きなんですか?」
    話をしながらも看護師はテキパキとモクマの血圧を測定するための器具を右上腕へ装着していく。
    (これ、回答如何では血圧上がってウソかホントかバレたりしない?)
    しょうもないことを考えた。モクマは左脇に体温計、右腕に血圧計を付けて両腕を動かせない状態を保ちつつ、自由な口を動かす。
    「応援したくなる可愛さだよねえ。CMのドレスも似合ってた」
    「どんなドレスだったんですか?」
    スイの衣装を思い返す。
    「薔薇みたいに赤くて、ヒラヒラで、大きくて白いリボンもあって、そうだなあ、高級チョコレートの包装紙って感じ?」
    モクマの答えに看護師が吹き出す。
    「フフ……、包装紙って、それ褒めてます?」
    「え?褒めてる褒めてる!」
    ――0点
    看護師の唇がそうかたどった気がした。彼女の唇付近で起こされた空気の僅かな振動がそう聴こえた気がした。
    「え?」
    モクマの声は体温計と血圧計の測定完了アラーム二重奏でかき消された。
    看護師もまた何食わぬ顔で器具を外し、モクマから体温計を奪い取る。
    「はい。体温、血圧、ともに異常ありませんよ」
    カルテに記録を書き記したところで彼女の仕事は終わりだ。
    モクマはじっと看護師の顔を見つめた。栗色の柔らかな髪、丸く黒い瞳、垂れた眦、紺色のアイシャドー、薄桃色のリップ。見惚れてしまうほど愛らしい顔立ちはモクマの思い描く男の顔とは全く一致していない。人の放つ匂いや雰囲気すらも異なる。
    (変装だとしたら凄い技術だよ、まったく)
    「何か言いたげな顔をなさってますけど、不安なことや心配なことはありますか?」
    看護師の問いかけにモクマは首を横に振った。
    仮に彼女がチェズレイの変装だとして証拠はないし、目的もわからない。検温も血圧測定にも違和感はなかった。命を脅かしにきた訳ではあるまい。強いて言うならば、冷やかしか退屈なモクマへの不器用なプレゼントか。推理を外した時の居たたまれなさを想像もし、モクマは黙することにした。
    「何か不調があればすぐにナースコールを押して下さいね」
    看護師はモクマのベッドサイドチェストへ袋を置く。この病院の処方せん袋だ。2月14日――今日の日付と「1回きり」の黒い文字が書かれている。
    何の薬だろうかと身構えた。下剤ならば優しい方だが、痺れ薬や毒の類ならば困る。
    「薬は2日前にもらったばっかでまだ切れてないんだけども」
    以前に処方された薬を取り出して見せる。先程置かれたものと同じ袋に入っていた錠剤は小分けにされて残り6袋あった。十分今日の分は間に合う。
    看護師は微笑んだ。
    「それとは別のおくすりです。今日中に服用くださいね」
    「ええー……、なんだろ」
    看護師が用意した薬袋を意を決して開ける。
    「…………?」
    長方形のパッケージが見えた。医薬品にしてはカラフルなそれに疑問を持ち、モクマはベッドテーブルの上へ袋をひっくり返した。そして、出てきたものを見て驚いた。
    「ええっこれって――」
    顔を上げる。真意を尋ねたい先の看護師の姿はモクマの前から消えていた。
    「…………あいつ……どういうつもりで……」
    モクマは頭を抱えた。
    処方箋袋から出てきたのは、『ハヤクナオールZ』『恋の痛みにきくラブクイックdx』『チョコらPP』など実際の医薬品をもじったジョーク菓子たち。
    本物の看護師がこんなもの用意するはずがない。つまり、ついさっきまで目の前にいた看護師は「チェズレイの変装」だ。
    バレンタインデーに女性看護師に扮した相棒からチョコレートを貰った――
    一言でまとめるとこうなるが、それに対してどんな感情になればいい?
    「とりあえず、試してみるか」
    『ハヤクナオールZ』と書かれた胃腸薬のようなパッケージのお菓子を開封する。市販品らしく、成分表はきちんと食品表示だった。中からはマーブルチョコが出てきた。
    恐る恐る紫色のチョコを奥歯で噛み潰す。カカオの甘苦い味とコーティングシュガーの甘さが、舌で溶けた。
    (うん、普通のチョコだ)
    「…………」
    結果、余計に戸惑った。下剤や痺れ薬が含まれていたならばなじれたものを。
    変哲もない美味しい甘味を味わう。
    「ううう…………」
    「おや、モクマさん。朝からお菓子を食べて唸って、腹痛でも起こしましたか?」
    いつの間にか涼やかな顔をしたチェズレイがモクマのベッド脇に立っていた。
    モクマは項垂れ、机の上に広げたマーブルチョコの黄色い粒を口に入れた。
    「腹痛だったら良かったよ……甘くて美味しくて頬が落ちそう……」
    モクマの回答にチェズレイは満足そうに笑みを深めた。その瞳の奥の温かな光にモクマは決心する。
    「チェズレイ」
    「はい」
    「ホワイトデー、何が欲しい?」
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    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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