Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💛 💜 🌜 🍶
    POIPOI 61

    モクチェズワンライ240204「化粧」で参加です。チェの左目傷跡を隠す完璧な化粧術を見破るモさんのワザ……

    #モクチェズ
    moctez

    ドレッサーの鏡越しにモクマと目が合う。今日だけで何度目になるだろうか。チェズレイは嘆息した。
    ベッドの縁に腰掛けて足を投げ出している男は、チェズレイの身支度が終わるのを黙って待っている。
    他にやることもあるだろうに、モクマはチェズレイの顔面の変化に興味津々のようだ。
    数種類のパウダーやジェルを塗り重ねる度にチェズレイの左目に咲いていた醜い徒花は消えていく。元の皮膚と境目が混じり合って肉眼では見分けがつかないところまで完璧にメイクし、チェズレイは振り向いた。
    琥珀色の熱い視線へ絡みつく。
    チェズレイの顔を眺め、モクマの眦が柔らかく下がった。
    「や〜、何度見ても素敵だ。キズがあるなんてここからじゃちっとも分からんよ」
    世辞か本心か。
    甘い言葉を吐くことに慣れた男をチェズレイは呼び寄せる。
    「近くに来て確かめてください」
    「心配性だねえ。お前さんの化粧術は完璧だよ、おじさんが保証する」
    信頼を匂わせておきながら、下衆な男は軽やかな動きでチェズレイの眼の前へかがんだ。近くで確かめられることが嬉しいのだとモクマの眼は語っている。
    「どうですか?」
    「挨拶する距離でも全然分からないもんだ」
    「では――」
    ――もっと近くではどうでしょう?
    そう紡ぐはずの唇は、既に男の唇に抑えられていた。
    チェズレイの鼻が啼く。モクマの匂いが――湿った土に似たスモーキーな匂いがチェズレイの鼻腔をくすぐる。
    チェズレイと違ってモクマは何も化粧品の類を使っていないはずなのに。モクマの天然素材の体臭がチェズレイの身体を熱くさせる。
    ぷはっ。
    口づけを解く。チェズレイは口元に手の甲を押し当てた。あとでリップを塗り直さなければ。
    「チェズレイ」
    同じく口元を拭っているモクマの目が獰猛に光る。
    「……キス、させちゃダメだよ。傷跡が薄っすら見える」
    チェズレイは咄嗟に手で左目を覆い隠した。
    初めての指摘に動揺する自分と冷静に分析する自分が分裂している。
    冷静な自分が冷笑する。
    問題ない。己の唇を奪えるのは下衆な忍者だけだ。
    化粧も仮面もまとっていないニンジャさんだけが、口づけで身体の芯を熱して、化粧の下に隠されたチェズレイの傷跡を浮かび上がらせることが出来るのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺❤❤❤👏👏👏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    💤💤💤

    INFO『シュガーコート・パラディーゾ』(文庫/152P/1,000円前後)
    9/19発行予定のモクチェズ小説新刊のサンプルです。
    同道後すぐに恋愛という意味で好きと意思表示してきたチェズレイに対して、返事を躊躇うモクマの話。サンプルはちょっと不穏なところで終わってますが、最後はハッピーエンドです。
    【本文サンプル】『シュガーコート・パラディーゾ』 昼夜を問わず渋滞になりやすい空港のロータリーを慣れたように颯爽と走り去っていく一台の車——小さくなっていくそれを見送る。
    (…………らしいなぁ)
    ごくシンプルだった別れの言葉を思い出してると、後ろから声がかかった。
    「良いのですか?」
    「うん? 何が」
    「いえ、随分とあっさりとした別れでしたので」
    チェズレイは言う。俺は肩を竦めて笑った。
    「酒も飲めたし言うことないよ。それに別にこれが最後ってわけじゃなし」
    御膳立てありがとね、と付け足すと、チェズレイは少し微笑んだ。自動扉をくぐって正面にある時計を見上げると、もうチェックインを済まさなきゃならん頃合いになっている。
     ナデシコちゃんとの別れも済ませた今、ここからは本格的にこいつと二人きりの行き道だ。あの事件を通してお互いにお互いの人生を縛りつける選択をしたものの、こっちとしてはこいつを離さないでいるために賭けに出ざるを得なかった部分もあったわけで、言ってみれば完全な見切り発車だ。これからの生活を想像し切れてるわけじゃなく、寧ろ何もかもが未知数——まぁそれでも、今までの生活に比べりゃ格段に前向きな話ではある。
    30575