照射される熱に肌を焼かれる。
白光の下に晒された肌が熱を帯び始める。
真っ白な雪原の上に淡いピンク色の華が咲き乱れる。首筋を走り撫でる珠雫の汗は華の露に似ている。
熱せられた空気が肺から押し上げられ、喉を駆け抜け、浅い呼吸となってチェズレイの口から飛び出る。
興奮と高揚が形になった吐息がチェズレイの前髪を揺らした。
目視では決して捉えられない不可視の光が白い肌に惜しげもなく注がれる。
それを防ぐ術はない。
身を覆う布はすべて取り去った。もちろん、己の意思で。
今日、「太陽」に肌を晒すのは2回目だと言ったら、モクマはどんな顔をするだろうか――
茹だった頭で夢想する。
日中、チェズレイはモクマと共にプライベートビーチへ降り立った。
島まるごとひとつが今回の拠点だ。南国の小さな人工島にひっそり建つ白い洋館の裏側には砂浜が広がっていた。穏やかな波に太陽光が反射して煌めいている。
ここへやって来てから太陽は毎日顔を出している。流れる白い雲を窓から眺めるモクマは、海に出たがっていた。チェズレイを誘うか迷う瞳を見て、チェズレイは自らビーチへ出たいと口にした。
陽の光に肌を晒すのは苦手だった。体質ゆえか白磁の肌は太陽光線ですぐに赤くなってしまう。毛先まで愛でる髪は傷んでしまうし、なにより暑さが体力を奪う。
だから夏季が訪れる国に夏季真っ盛りに来ようなんて考えてこなかった。モクマに出逢うまでは。
海に安寧を抱く彼の顔を観察出来るのならば、自分の身体的忌避感など些末だ。
ビーチへ出たふたりを太陽は熱烈に歓迎する。
熱をもった光が肌をさす。
(あつい……)
砂へ足跡を付ける前から分かりきっていたことを、それでも考え、恨まずにいられない。
「チェズレイ!」
暫く砂浜を散策した後、岩陰で休んでいたチェズレイのもとへモクマが小走りでやって来た。
「ピーチジュース作ってきたよ。冷たくて美味しいよ」
飲むかどうかも尋ねず、モクマはグラスをチェズレイの手へ押し付けてきた。
透明なガラスに張り付く珠雫がチェズレイの指を伝い走る。ひんやりした感触が気持ち良い。
黄色いストローに唇を付けて、息を吸い込む。冷えた桃の果汁が喉を通って胃へ落ちていく。
くどいようで優しい甘さと冷たさは熱せられた身体には有り難かった。鼻から抜ける白桃由来のフルーティーな香りが、暑さに参っていたチェズレイを癒やす。
「まだお昼も回ってないってのに、ここの太陽は元気いっぱいだねえ」
「ほんとうに。白い砂地に眩い光が反射して眼まで灼かれそうですよ」
「ほんとぉ?」
モクマが首を伸ばしてチェズレイの顔を凝視する。
視線が絡む。
体温が上昇する。
「…………――」
唇が軽く合わさった。
それでおしまい。
暑さにやられた頭が自分より低い位置にある艶々した唇に喰い付いただけ。それだけだ。
チェズレイは空になったグラスを持って踵を返した。屋敷へと早足で進む。
こんな熱いところにじっと立っていられなかった。
「……いい桃だったろ」
後ろからモクマの笑う声が追いかけてきていた。
太陽が地平線へ帰って数時間後――
今度は、白いシーツの波間にチェズレイは身を委ねていた。
覆いかぶさるモクマの目がチェズレイの顔を、首筋を、胸を、腹を、つぶさに検分する。
ひとつひとつがチェズレイの体温を上げていく不可視の熱光線となっていく。
「……うん、日焼け止めたっぷり塗ったから、日焼けしてないね。よかったあ」
「えェ、執拗にオイルを塗りたくってくれたお陰ですよ、守り手殿」
「じゃあ、続けるね。チェズレイ……」
「ぁ……」
飲まされたピーチジュースよりも甘い声がチェズレイの脳を揺らした。
眩む心。
茹だる頭。
オイルで守られていた肌は、モクマの熱視線を受けていともたやすく紅色に染まる。
これまで愛され、これからも愛される身体はモクマが撫でるだけですぐに熱くなった。
ここには涼む岩陰もなく、紫外線を遮断する日焼け止めクリームも効能を果たさない。
熱する身を防ぐ術はないのだから、モクマの与える熱は太陽よりも質が悪い。
だけど、とチェズレイは微笑む。
愛を煮詰めたその熱が一等心地良い。
どうぞ心ゆくまでこの身を焼き尽くして!