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    ムー(金魚の人)

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    モクチェズワンライ0716「歌」です。
    ドラマCD EOP後時空。

    #モクチェズ
    moctez

    ※ドラマCD EOP後時空

    セーフハウスのリビングで、覚えのない書類が置き去りにされているのを見つけてモクマは足を止めた。
    相棒の手で今朝磨かれたばかりのガラステーブルは、不思議そうな顔をしているモクマの表情を映しだす。その顔の隣に白い紙が何枚か置かれていた。
    楽譜だ。印字された五本の罫線が数段のブロックに分かれ、その上に鉛筆で音符が書かれている。チェズレイの手によるものだろう。
    楽譜は3枚あった。
    音楽知識に乏しいモクマには、その音符がどんな音を奏でるか想像出来ない。
    眺めていると、だんだん、いろんな形のオタマジャクシが五線譜の川を泳いでいる様子に見えてきた。2つの音符の間を走る丸い線が、まるでオタマジャクシが川を跳ねる様子を表しているよう。モクマは自分の想像の朗らかさにくすりと微笑んだ。
    〜♪
    ふいに聞き覚えのある歌が聴こえて、モクマは振り向いた。
    背後にあるテレビが世界的歌姫・スイの歌唱シーンを映し出している。肩にかかる灰色のコートが向かい風を受けてなびく姿がヒーローマントのようで格好良いと巷で噂のプロモーションビデオだ。
    スイの力強い歌声と温かな曲調がモクマの耳を包み込む。
    『スイ・アッカルド待望の新曲――【HERO】好評発売中!』
    良い曲だ。何度聞いても称賛できる。同時に、この歌が生まれた経緯を思い出して、モクマは苦々しく眉をしかめた。
    3ヶ月前、ジイス帝国へ囚われたルークを救出する作戦の最中、この歌の原曲は生まれた。チェズレイが書き下ろし、ファントムが編曲したものだ。なんと二人は、新譜に偽装した暗号を通して連絡を取り合い、作戦をすり合わせていたのだ。結果、見事に敵の目を欺き、ルークを救出することに成功した。そして、事件後にスイが歌詞を付けてリリースしたのが先程流れた『HERO』という曲だった。
    モクマは再び手元の楽譜に視線を落とした。チェズレイの細い筆跡で音符や音楽記号が並んでいる。
    まさかと思うが、これも何かの暗号になっているのだろうか。
    モクマは楽譜をためつ眇める。紙をめくって裏を透かしてみても楽譜は楽譜だ。頭に文字が浮ぶどころか、元気なオタマジャクシが池を跳ね回ってる映像ばかり浮かぶ。
    モクマが識る楽譜といえば、オタマジャクシを並べたものではなく、三本線の上に数字が並ぶ文化譜と呼ばれるものだ。上の兄から習っていた三味線の楽譜が文化譜だった。それが世間一般の楽譜とは異なるのだと知ったのは島の外へ出てからだった。加えて、音を奏でることに興味がとんと無かったので、ドレミ音階は口ずさめても音符や音楽記号はまるで読めなかった。
    音楽の知識や経験が無くて悔しいと思うなんて、人生何があるか分からないものだ。
    テレビはまたスイの新曲をPRしている。
    ファントムと相棒との共同作曲だと考えてしまうと、正直羨ましさが勝つ。チェズレイはもうファントムには執着していないと断言していたが、モクマは未だ警戒心が拭えずにいた。しつこい男だと罵られても、愛する人間を傷つける可能性がある人物へ警戒しないでいられるだろうか。
    腕を組んだモクマの肘に硬い物が当たった。羽織の裾を振ってみると、ちびた鉛筆が飛び出してガラステーブルの上を転がっていった。
    「おっとっと……」
    テーブルの端から飛び降りそうな鉛筆を掬い取ったモクマは、楽譜をガラステーブルの上に静かに置いた。



    数日後。
    モクマはグランドピアノの前に座るチェズレイを見かけた。彼は手袋を外すところだった。これから演奏が始まるのだと察し、モクマは急ぎどぶろくとツマミを持って彼の近くへ座った。
    美しい相棒の奏でるたおやかな調べに美味しいお酒がよく合うのだ。絶好の機会を逃してはおけぬ!
    モクマが席に着いたのを見計らって、チェズレイは鍵盤に指を置いた。モクマに微笑みかけてから、演奏を始める。
    〜♪
    初めて耳にする曲だ。
    明るい音の波に時折混じる低音が心地良い。何という名前の曲だろう。
    チェズレイがこちらを見つめている。何かを訴えているような視線に、モクマは思い当たる節がなく首を傾げて応えた。もしかして、忘れているだけで実はモクマが知っている曲なのだろうか。
    痺れを切らしたのか、チェズレイが唇を開いた。
    「歌って、モクマさん」
    思いがけない要求にモクマは驚く。
    「歌 すまん、おじさん、流行りに疎くて……歌えと言われても歌詞を知らんのよ?」
    「フ、あなたが知らないはずはない」
    先程からチェズレイは意地悪するようにおなじフレーズを繰り返し弾いている。歌えと口と音で強要されている。
    「せめて歌詞カードがあれば……」
    尻込みするモクマをチェズレイが手招く。ピアノの近くに寄れば、鍵盤の上に楽譜が3枚並んでいた。
    「あ…………!」
    モクマの頬にカッと血潮がのぼった。
    確かに、初めて耳にしたのに、モクマはこの曲を知っている。
    (こんな綺麗な曲だったのか)
    自分が数日前にリビングで見つけた楽譜が、目の前にあった。モクマがちびた鉛筆で薄く落書きした歌詞がご丁寧にそのまま残されている。ファントムへの対抗心から、苦し紛れに歌詞を付け足したものだ。
    チェズレイがにこりと微笑んだ。
    「さあ、あなたが歌うことでこの曲は完成します。作曲は私、作詞はモクマさん。どこにも渡すことのない私達だけの素敵な一曲[ラブソング]を奏でましょう!」
    ここまでお膳立てされてしまっては、恥ずかしいと逃げることもかなわない。
    モクマは覚悟を決め、息を吸い込んだ。
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    nochimma

    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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