『モクマさん、チェズレイ、こんばんは!あれ、でもそっちは陽が差してるみたいだから、こんにちは、かな?それとも、おはようございます?』
タブレット画面いっぱいに映されたルークの顔が、右に左に揺れ動く。些細なことで頭を悩ませているボスの愛おしい様子に、モクマとチェズレイは頬を緩めた。
「おはようございますこんにちはこんばんは、ボス」
「ははは、攪乱させとる。こんにちは、ルーク。こっちはお昼になったばかりだよ」
モクマがひらひらと手を振る。根城にしているホテルの窓から注ぐ陽射しが、モクマの手を白く照らしていた。
モクマたちがいる国はルークのいるエリントンとは半日の時差がある。ここは昼時だが、エリントンは深夜だ。
ルークはTシャツ姿だった。風呂上がりなのだろう。髪が少しボリュームを失っていた。
『お昼時にすみません。お邪魔になってませんか?』
とんでもない、とすかさずチェズレイが答えた。
「ボスとの通話はたとえ槍が降ろうが銃弾が降り注ごうが何より優先すべき事項ですので、お気になさらず。ところで、仕送りは無事に届きましたか?」
チェズレイが水を向ける。ルークは『そうそう、その話がしたかったんだ』と前置きし、続けた。
『いつもありがとう。野菜以外も、その、助かり過ぎててさ。こないだ君が送ってくれた詐欺グループの資料が決め手になって、無事に犯人を捕まえることができたんだ』
「そして、ボスは無事に昇格したと。おめでとうございます、ボス。警視総監へのステップを確実に昇られておられる」
チェズレイが慈しむように目を細めたのを、モクマは横目で捉え、微笑んだ。
『どこでそれを!?って、今更驚かないよ。今回の昇格には少なからず君とモクマさんの支えがあったからこそだと思ってる。だから、その御礼を伝えたくて電話したんだ』
「フ、ボスの健闘あってこそですよ」
「そうそう。あの詐欺グループの悪行にはこっちも困ってたんだ。捕まえてくれてありがとね、ルーク」
モクマは笑顔を浮かべた。あの情報を得るにはそこそこ骨が折れたが、ルークが頑張ってくれたお陰で報われた思いだ。
ルークとの通話を終えた後、チェズレイはモクマへと向き直った。凛とした瞳には明るい星が瞬いている。
「さて、今夜もひと仕事お願いしますね、モクマさん。我々のターゲットが持つ情報のひとつに、ボスが追っている事件が関わっているのです」
モクマが心得たと頷き返す。
「あいよ。光あるところに闇あり――」
「――ボスの栄華の影には忍びと詐欺師あり、ですからね」
「ははは、暗躍もほどほどにね」
モクマは苦笑した。
きっとチェズレイはルークが警視総監になるその日まで影から手厚く支え続けるつもりだ。
モクマもまた、そんなチェズレイに付き添い続ける覚悟である。