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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    POIPOI 61

    ヴ愛〜ホリバの間のモクチェズ。
    南国で過ごすこと2週間。朝のランニングを終えたモさんがチェズと過ごすヴィラに戻ってきて――

    ※モ母が少しだけ出てきます。

    #モクチェズ
    moctez

    南の向かい風からとおせんぼ 柔らかな朝の日差しに背中を押されて、モクマは跳ねるように走っていた。
     エメラルドグリーンの海がキラキラと輝いている。まるで宝石を散りばめたよう。白い砂浜との境は鮮やかで眩しい。
     チェズレイ曰く、ここは海ではなく礁湖、白い砂浜はサンゴ礁だという。遠い地平線まで続く湖はモクマの目には海にしか思えないのだけれども。
     黄色いビーチサンダルで白地を踏みしめ、波打ち際を駆ける。腕にかけたビニール袋がモクマのアロハシャツと擦れて鳴る音も潮騒に紛れて唄うようで心地良い。
    「ほっ!」
     両足でひとつの建物の前に立つ。2週間前から根城にしているヴィラだ。リゾート用ホテルで、部屋にいても海風を感じられる開放感をモクマはいたく気に入っていた。
     2週間前まで居たヴィンウェイでは、頭上の灰鼠色の空が重苦しかったし、根城にしていたホテルも風雪を遮断するために多重構造になっていてモクマには息苦しかった。相棒を失いかけた出来事がより精神的な負荷をかけていたのかもしれない。
     だからこそ、取り戻した相棒とこの南国でゆっくり過ごしている穏やかさと解放感に、より感慨深く思うのかもしれない。
     玄関扉を開けようと視線を下げるとビニール袋の中身と目が合った。
     Lサイズのタッパーが3つ、南国特産の艶やかな色のフルーツ、甘いお菓子。
    どれもこないだ再会したモクマの母親から持たせられたものだ。朝のランニングがてら母親の住む家に顔を出したモクマを待ち受けていたのは、母親からの「お土産」攻撃だった。
    ――まだ暫くは居るのでしょう?慣れない国で困ってることない?ちょうど良かったわ。これ、作りすぎたからモクマ食べてちょうだいな。一緒に居た美形の人は今日来てないの?あ、そうそうこないだ隣の奥さんからハウスの果物いただいたのよ。市場にも卸してる奴だから甘くて酸っぱくてとっても美味しいわよ。やだ、このお菓子賞味期限近いわね。モクマ食べるでしょ?こしあんの羊羹好きだったわよね
     相槌を挟む隙もない淀みない母親の台詞と共にモクマの腕に次々とタッパー、フルーツ、お菓子の袋が積み上げられる。
    ――お、おふくろ……
    ――あらやだ、ごめんなさい
     腕の中の塔が崩される。モクマはホッとした。
     自分は母親とご飯を食べていた頃のような育ち盛りの若さはないし、チェズレイと二人で食べるには多すぎる。
     そう思っていたモクマの腕に先程と同じ重さがずしりと掛かる。
    ――はい、袋に詰めたから持ち帰りやすいでしょ?
    ――ははは、ありがと
     根負けしたモクマは母親からのお土産を手に相棒との城へ戻ってきたのだった。
    (まあ、あいつの怪我もだいぶ良くなってきたし、食欲も戻ってきてるから食べ切れるちゃ食べ切れるかな)
    「おはよ〜チェズレイ!」
    「モクマさん、おはようございます」
     ヴィラの玄関を開け、リビングへ飛び込むとチェズレイが立っていた。
     襟ぐりの広いシャツの上に薄手のジャケットを着た美人さんが朝陽のライトを浴びて輝いていた。レースカーテンが風でそよぐ様と一緒に瞳のシャッターを切れば、グラビア印刷された雑誌の一面を見ているようだった。
     見惚れているとチェズレイが「モクマさん」と呼ぶ。
    「あなたも早く支度してください」
    「へ? どこかに出掛けるのかい?」
    チェズレイは「出国です」と告げた。
    「いやいやいや、早くない?まだ傷治ってないでしょ」
     チェズレイの頭の先から爪の先まで視線を巡らせる。先日まで袖口から覗いていた包帯は取れている。しかし、医者からは3週間ほど静養が必要だと言われていた。体力だって完全に戻りきってるわけではあるまい。
    「もう治りました。熱も痛みも痺れもありません。あァ、まさか傷跡全て消えるまでこの南国という安寧の檻に軟禁するおつもりで? なんとご無体な」
     チェズレイが眉を下げて瞳を潤ませる。
     庇護欲をくすぐる顔にモクマはグッと喉を鳴らして堪える。
    「今日でなくとも良くない? ほれ、お袋からいっぱいもらっちまったし」
     袋の中身をテーブルへ広げてみせる。冷蔵庫で冷やしたいものもあった。借りたタッパーも返さないと悪いだろうし、お袋からはまたチェズレイを連れてきてほしいと頼まれている。
    「あとね、これ」
     真っ赤な封筒をチェズレイへ手渡す。先程ヴィラの支配人から預かってきた郵便物だ。
     訝しい表情を崩さないままチェズレイが封を切って中を確認する。
    「……これは、」
    「世界一の女性からの招待状と手心、よもや無碍にするつもりはあるまいね?」
     ミカグラ島から届いたそれは、ナデシコからのホリデーの招待状。それから、航空チケット。この南国とミカグラを結ぶ直通便だ。
     チェズレイに内緒でモクマがナデシコに依頼していたチケットだった。ミカグラ島へ旅立つまではこの南国に留まるつもりだったからだ。
    「…………あァ、あなたって人はほんとうに私の計画を狂わせるのが得意でいらっしゃる……」
     チェズレイが肩を震わせて笑う。
     もともとクリスマス頃にミカグラ島へ立ち寄る予定だった。
     先週、ナデシコからの通話で相談されたのだ。クリスマスホリデーにBOND4人で集まれないか、と。モクマと共に賛同したチェズレイは早速ルークとアーロンへのお礼品にメッセージカードを同封したのだった。『今年のクリスマスは星が降った、始まりの場所にて』と。
     チェズレイの予定ではミカグラ島の前に一度西に置いた拠点へ戻り、体制を整えつつ軽く下衆掃除をしてからミカグラ島に向かう算段だった。
     それを、目の前の相棒によって崩されている。モクマの母親からもらったお土産とナデシコからの航空券によって。
     そこに前ほどの嫌悪感を覚えていないのは南国ののんびりした空気を吸い込み過ぎたからか。
    「どのみちクリスマス前にはミカグラに行く予定だったろ? だったら、それまでここでのんびり羽休めてさ、クリスマスホリデーを楽しんで英気をやしなってから世界征服活動を再開しても罰は当たらんと思うよ? おじさん、クリスマス終わったら本気出すからね☆」
     だから今日の旅立ちはキャンセル!
     モクマが宣言し、チェズレイをソファに座らせた。
     温い南風がモクマの頭を「賛成」と撫でていった。
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235