チェズレイの顔に影がさす。ゆっくりと閉じられた上瞼が下瞼と重なったと同時に、温かく柔らかい質感がチェズレイの引き結んだ唇へ寄せられた。
「ん……」
モクマとのキスはこれで何度目だろう。
今では顔が近づく気配だけで、チェズレイの理知的な瞳はシャッターを下ろすようになった。
それ、誘ってる?
高鳴る男の心臓が笑う。
おわかりでしょうに。
唇で弧を描く。
微笑み、どうぞと顎を少しだけ持ち上げる。そうすると、待ち構えていた男の顔へピッタリ嵌るのだ。まるで最初からそうなるようにこしらえられたかのごとく。
モクマの小さな吐息がチェズレイの紅い門扉に吹く。春風に浮かれたチェズレイの唇は簡単にその扉をあけた。
白い歯と歯の間から飛び出した真っ赤な舌が、モクマの下唇へ触れる。
そうしたら、モクマの方も大きくあけた口でチェズレイの口を塞ぐ。
あっという間にチェズレイの舌は閉じ込められた。熱くうねる情欲の檻へと。
「んふっ………、ん、………」
分厚い舌が歯列を舐める。内頬の肉を滑り、舌を絡め合う。
口内の泉から唾液が滲み出す。水かさはどんどんと増していく。口内で暴れる舌が溺れてしまいそう。
加えて、酸素も奪われて脳髄が痺れてくる。
顔に血が集まっていく。
「ん、んんっ……ハァッ…………ぁ」
堪らなくなって口を大きく開いた隙に、唾液が口端から溢れ落ちた。代わりに酸素を得る。
一度舌をモクマから引き剥がす。
二人を繋いでいた透明な糸が重力に引かれて落ち、シーツに灰色の染みを作った。
後で洗わなければと考えるチェズレイの頭をモクマの両手が挟みこんだ。
「チェズレイ……」
名前を呼ぶ男の声色は火傷しそうなほど熱く煮えていた。
火のついた男を止める理性はチェズレイにも無かった。もう一回、と脳裏で囁く欲望に従う。
「はぁ、ん………」
モクマの大きな手がチェズレイの顔を固定する。節のついた大きな男の手はチェズレイの耳を簡単に塞いでしまう。
チェズレイの口内で生まれた卑猥な水音が頭の中で響いて、チェズレイの脳髄をも犯す。
チェズレイの柔らかいナカへモクマのモノを入れられて、いたぶられる。ナカヘと溢れ出した男の体液を混ぜ合う行為に快感を憶える日が来るなんて思いもしなかった。
痺れてもつれる舌で感想を紡いだチェズレイへ、モクマがにへらと締まらない顔をしてみせる。
「それじゃあ、今から下の口にも、していいかな? ――キス」