Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    zeppei27

    @zeppei27

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 38

    zeppei27

    ☆quiet follow

    pkmnハサアオ、カジッチュを渡された後、アオキがハッサクとカジッチュ……とコルサに振り回されるお話。もう少し続きます〜

    前話 #2
    https://poipiku.com/271957/8137224.html

    リンゴ甘いか酸っぱいか #3 何かに向けて準備をして整えたというのに、いざとなったら取りやめになって肩透かしを食らった心地になることがある。例えば何がしかの試験に向けて、対策を練り覚悟を決め、さあ当日だと思っていたらば直前に取りやめになったとする。すると現金なもので、できたら試験自体がなくなって欲しいと願っていたにも関わらず、過ぎ去った難が起これば無駄足にならなかったのにと憤慨さえしてみせるのだ。どんな結果が伴うとしても、難事に打ち当たった方がすっきりするという見方もできるかもしれない。

     アオキがこの手の経験をすることはあまりないが(せいぜい楽しみにしていた食品の新製品が発売中止になる程度だ)、今の気分は正にこの肩透かしの連続だった。「また様子を見にきます」と言ったくせに、あのドラゴン使いは足音すら聞こえてこない。思えば、彼と顔を合わせるのはいつだって仕事がらみであって、プライベートな時間ではないのだから、仕事の予定が入っていなければすれ違いもしない間柄なのだった。

     ハッサクはその僅かな接触に一点集中でアオキに絡んできたのである。その彼が、公私の別を踏み越えて、自分にカジッチュを渡してきたのはなかなか異例な事態だ。何が起こるかわからないと、無意識に神経を尖らせて今日か明日か明後日か、いやいややっぱり今日だろうかと身構えてしまったのはアオキの思い込みにより生まれた幻覚だろう。

     顔を合わせたらば、シャリタツを足元に戯れさせカジッチュを鞄に携えている理由を話さなければなるまい。勝手気ままに振る舞うシャリタツはともかく、カジッチュに背徳的な喜びを得ている現状をどう誤魔化したものか頭を抱えていた。好奇心に負けて舐めたカジッチュの体液は至極美味しく、二日に一度はありがたく頂戴している。幸にして、カジッチュたちには好意的に捉えているらしく、逃げ出す様子は見られない。

     同僚との良好な関係を構築するためだと言い訳し、禁断の果実の味わいを知ったアオキはそれはそれは大切にカジッチュを扱うことにした。ハッサクはこの味を知っているのだろうか。ドラゴンポケモンへの探究心が著しい彼のこと、知らぬはずもないだろうと思うが、聞けば興味を抱いていると浅はかな期待を齎しかねない。偶然顔を合わせて――もちろんハッサクが一方的にこちらに出向いてくるのだ――見咎められたらばうまく言い逃れつつ、助言を得ることもできただろう。残念ながら、仕事にせよ二人が会うのは遠い先の予定である。

     どうして会いに来ないのか。カジッチュに翻弄され、シャリタツに頭を悩まされる度にハッサクのことを考えて時間がどんどん過ぎてゆく。彼の熱量を全部ぶつけたような声やら足音やらを耳にしなくなって、もしかして自分の記憶は間違っているのではないかとさえ思ってしまう。あらぬことを考え出す前に答えが欲しい。嵐はいつ来るかわからないと、どこかで身構えている自分は滑稽だ。

     ハッサクは何をどう考えているのか、だいぶ日数を置いた頃になって珍しくもチャットアプリでメッセージを送ってきた。内容は、『できれば小生も一緒に行きたいのですが』と添えられた、美味しい店である。彼は何やらアカデミーで大掛かりな企画が進行している真っ最中でなかなか身動きが取れないらしい。いずれ説明しますので、というセリフは何やら言い訳めいていた。

     安堵よりも相手の意図を探るような不信感が生まれ、アオキは怪訝に顔をしかめた。彼に絡まれずして美味しい店に行けるのだ、自分にとって好都合だと喜べばいい話だろう。アオキは普通と同時に効率性も愛していたから、昼休憩を快適に過ごせることに否やはなかった。ハッサクとの食事は、彼の人生経験の豊かさから広がる話術でついつい長くなりがちである。酒が入ると先日のように訴えかけたり積極策なったりと、さらに上を行く面倒くささを伴う。一人飯は気楽だ――それでいいではないか。

     どこか引っかかりながらも向かった最初の店は、チャンプルタウンの路地奥にひっそりと佇む蕎麦屋だ。灯台下暗しとはこのことで、アオキは自分の持ち場として散々歩き回っていたと言うのについぞ気づいていなかった。無骨な店主が出来立ての生そばをざるで出すだけの渋い店である。蕎麦は引き算の極地だと熱弁していたのは、いつぞや出張を共にしたハッサクだったと記憶が掘り起こされる。この店も、きっと彼が理想としたままの素晴らしさがあるに違いない。

     そうして注文した蕎麦は、有無を言わさぬ美味しさだった。普通で、まっすぐで、どこかほっとさせる。シンプルであるが故に引き立つ蕎麦の香り、こし、細さ、そして蕎麦つゆの濃さも最適なバランスを保っていた。満足下のは言うまでもなく、五枚おかわりしてもまだ足りず、土産に買って帰るかひどく悩んだほどである。ハッサクのお勧めはどれだったろうか、と食べずにとっておいた品書きを記憶に留めた。真っ白な雪のようなさらしな、太く逞しい十割、はたまた季節の抹茶にゆず、春は桜、夏にはカボスもありますよなどと主人は売り込む。再来するに足る、すっきりとした落ち着く店だった。

    『ハッサクさんが教えてくださった蕎麦屋、とても美味しかったです。ありがとうございます』

    謝礼はすぐにするものだ。職業柄身についた癖で、食後にハッサクにメッセージを送ると、アオキはそれで全て終わりだと勝手に思い込んでいた。約束をひとつ果たした、ただそれだけである。カジッチュの問題は残るが、メッセージでやりとりするのはおもはゆい。勝手にリンゴだと思い込んで受け取り、扱いあぐねた挙句に舐めて楽しんでいる現状を話す勇気もない。

     あれこれ可能性を考えてもたつくのはどうにも居心地が悪い。いっそ留めを刺してくれと思えども、肝心のハッサクはどこ吹く風だ。アオキの形にならぬ気持ちをよそに、ハッサクの返事はどこまでもドラゴンの如く堂々としていた。

    『アオキが満足して、小生も嬉しいですよ。今度はぜひ一緒に行きましょう。次はどちらに出張するのですか?』

    どこでも良いだろう。仕事となれば自分はどこにでも行くのだから。皮肉が脳裏を過ぎるも、アオキは社交辞令なのだからと気合を入れ直した。チャットアプリにようやく慣れたばかりの彼のことだ、もっと簡易にしても良いという発想はないのだろう。普段、自分が接している文字どりの意味だけが込められたメッセージとはまるで異なる。

     次はベイクタウンに行くのだ、と返したように記憶している。ならばビファーナの美味しい店があるので寄ってみると良い、と頼みもしない内にお勧めが返って来た。ハッサクの舌に間違いはないので、従うに足る。自分ばかりが得をするような形で大丈夫だろうかと疑ったところで、アオキはどこにでもいる一人の人間であり、策略をめぐらせようにも無駄骨だ。

     だから、アオキはお勧めされた店に行き、自分の見つけた美味しい店を添えてハッサクに礼を述べた。ハッサクが返事をする。今度も美味しい店が紹介され、アオキは素直にそれに従う。顔を直接合わさずに五週間は過ごしたかと思うが、ハッサクとのメッセージのやり取りだけは日課に組み込まれつつあった。

     程よい距離感だ、と思う。取り立てて親しくする友人はいないが、同好の士と言って良いだろう。一口食べては、ハッサクはこの店で何を食べてどう感じたのかを疑問に思う。いつしかアオキが送るメッセージには、そんな素朴な疑問が添えられるようになった。ハッサクもアオキが勧める店に――彼は今アカデミーから動けないのでテーブルシティの店だ――出かけて同じような質問を返す。並んで食べるでなしに、相手の食事風景を想像しながら時間を過ごすのは、不思議と居心地が良い。

     そして、同時にたまらなく空虚だ。こんな気持ちで食事をするのは人生で初めてかもしれない。一人でいることに慣れた身が、誰かといることを前提にしながら食事をするなど奇妙だろう。ハッサクも同じか、否、自然と人を集める彼のことだから誰かと一緒に食べに出かけたはずだ。彼が寄越すメッセージにアオキはいるが、ただの社交辞令の可能性は限りなく高い。直接会って話せば表情から伺えるかもしれないが、取り繕うのも上手い男から何を探れるだろう。

     ならばどうすれば、と具体的に考え始めたところでアオキは頭を抱えた。大して仲良くするつもりもない相手の真意を探ろうと思うだなんて、自分はどうかしている。カジッチュで気持ちを落ち着けるとしよう。この美味しさは本物で、自分を裏切らない。鞄から恭しくカジッチュを取り出し、慣れた手つきで体液をもらう。べろりと舐めるも、ひりつくような辛さが滲んで到底口に入れられるものではない。速やかに吐き出すと、アオキは改めてカジッチュを観察した。

     「……具合でも悪いんですか」

    ピン、と立つつぶらな瞳がヘニョヘニョと力なく垂れている。なんとかアオキの顔を見ようと持ち上がりかけ、すぐさま力を失う様を見、アオキはさあっと青ざめた。ポケモントレーナーであるにも関わらず、こんなに具合が悪くなるまで気づかなかったとは大失態である。ポケモンボールに入れていたらば把握できただろうか。手持ちのポケモンは決まった時間にポケモンセンターで体調を診てもらうが、ボールに入れたが最後と決めたカジッチュとシャリタツは守備範囲外である。

     今からセンターに駆け込めば預けられるか。ボールに入れていないポケモンであっても、すぐに診てもらえるのかは定かではない。おまけに時計を見れば昼休憩はとうに終わり、次の打ち合わせの時間が差し迫っていた。連絡をしなければ、しかしどう言い繕ったものだろう?

     はやる気持ちをよそに、足だけは勝手に一日のスケジュール通りに動いていく。カジッチュを抱えたまま(怖くて二体のカジッチュとシャリタツは鞄の中に入れっぱなしだ)歩く姿を道ゆく人が振り返ろうとも、全く気にも留まらない。こんな異常な事態でも、ボウルタウンのポケモンジムに辿り着いてしまった。

     自動ドアの開閉する音に気づいてか、受付前に立っていたコルサがこちらを振り向く。相変わらず奇矯な風体をしており、周囲をたむろするキマワリのせいで彼の芸術作品そのもののように錯覚された。全てが非現実的で思考がぐらつく。口火を切ったのは、存外理性的な思考も持つ芸術家だった。

    「誰か来ると聞いていたが、アオキか。確か、予算の件で話に来たんだったな」
    「はい。風車の修繕については、先日書面で申し出た通りです。……足を痛めるくらいなら他の演出方法も考えてみてはどうでしょう」
    「芸術的見解の不一致だな。意見は聞くが、考慮するかはまた別の話だ。それよりも、キサマは他に優先すべき事項があるだろう」

    腕の中でくったりとへたり込んだカジッチュを指差され、アオキは日常からの逸脱を覚悟した。わかっている。何よりもそわそわとして落ち着かないのは自分自身だった。仕方がなしに応急処置ができるかとコルサに差し出すと、くさポケモンの専門家はあっさりとした様子で手に取り掲げる。もっと前衛的な、あるいは宗教的な動きをするかと身構えていただけに意外な展開で、アオキは目の前の人物に対する評価を改めた。

    「ふむ……良いツヤだな。栄養は足りているようだ。外傷はなし。見ろ!アオキ、この曲線は自然が生み出した芸術の最高峰だぞ!どこで口説き落としたんだ?もう少し早く出会っていればワタシが口説いたものを」
    「くど、あ、いや人にもらったもので」

    どういうわけか、自分の手持ちではないというセリフは口をついて出なかった。こんなにも賛美する人間の手持ちになればポケモンだって嬉しいだろう。手放すのは今が好機だ。自分の悩みだって消え失せるはずだ――否、ハッサクはアオキに大切にしてほしいと言い、自分はそれを受けたのだから裏切りになってしまう。コルサの芸術讃歌は続く。カジッチュの状態はどうすれば良くなるのだろう?植物のような特殊な病気にかかっているとしたら、自分には全くのお手上げだ。近づいてきたジムの職員に再提出を依頼する書類を渡し、要点を説明するも流れる雲のように身が入らない。

     仮にカジッチュが儚くなろうとも誤魔化しようはいくらでもあるし、自分もハッサクも大人だから上っ面をうまく収めるだなんて簡単だ。ハッサクと旧知の仲であるコルサが手持ちにしていると気付いたとて、より相応しい人間が手にする巡り合わせになったと喜ぶ可能性すらある。ハッサクとコルサがカジッチュを囲んでやり取りする様子を想像し、アオキは自分の胸に少しずつ湿っぽさが溜まり始めたのを覚えて狼狽した。逸脱が収まるべき場所に収まり、自分は『普通』の安寧に舞い戻る、ただそれだけのことが受け入れ難い。

    「……コルサさん。その、この子は病気にかかっているのでしょうか」
    「いや?全くの健康体だ。しかし、ある意味病にかかっているとも言える。わかるか!?」

    わからない、と答えるのは簡単だ。茶番に付き合わずに次のスケジュールに向かいたいというのも本音である。コルサは有頂天のままに答えを授けてくれるかもしれない。迷いながらも顎に手をやり、アオキは眉根を寄せた。もはや今日は『普通』を逸脱している。今更もう一歩踏み込んだところでなんの変わりがあるだろう。

    「気持ちの問題、でしょうか。門外漢なので詳しくはありませんが」
    「キサマ、なかなかわかっているではないか。大体そんなところだ。このカジッチュがかかってる病は”甘えたい病”だからな」
    「は」

    甘えたい。カジッチュの甘さはなるほど、甘やかされたから滲み出るものだったのか。一瞬混乱しかけるも、気まずそうなカジッチュの目と目がかち合って理解した。まるで仮病がバレた子供のように目が泳いでいる。コルサは繊細な手つきでカジッチュを撫でると、そっとアオキに差し戻した。

    「わかったならば、思い切り甘やかしてやれ。甘やかしすぎるのも問題だが、キサマは加減がわかっているだろう」
    「……わかりました。ありがとうございます、コルサさん」
    「わかればいい」

    観念してボールに入れるべきか。バトルに出さなければ、大切にしていることの証左にもなるし、自分を折らずに済む。文字通り甘い汁を吸わせてもらったお返しと考えても良い。ポケモンセンターでちょうど良いボールを探そうと決めて鞄を開けると、カジッチュが嘘のように元気になって滑り込んだ。頭を下げて自動ドアを潜る。次の行き先はセルクルタウンだ。これでようやく日常に戻ることができる。

    「アオキ。ハッさんに伝えてほしい。良いカジッチュを見つけたな、と」

    ほっと安堵したのも束の間、背中から追いかける声が冷や水を浴びせかける。芸術家同士で相通じるものがあるのか、あるいはカジッチュから聞き出したのか、いずれにせよ恐ろしい話だった。礼を失するとわかりながら、アオキはすうと一息ついて声を発した。

    「考えさせていただきます」

    コルサの耳に届いたか、彼がどんな表情で聞いたかなどどうでも良い。こんな腹立ち紛れに声を出すなど、随分久しいことだった。カジッチュを甘やかしたら、お返しに甘い汁を啜らせてもらおう。ネクタイの結び目を調整し、アオキは緩やかに日常を追いかけた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💕💕😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
    7288

    related works

    recommended works