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    ことにゃ

    @kotonya_0318

    各種サイトで細々と活動中。19歳。
    いろいろ垂れ流してます。うちの子語り多め。
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    ことにゃ

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    いつぞや呟いてたやつの用心棒の方
    ざっと書いたやつだからそのうち手直しする

    用心棒小向未来 がしゃん、と剣呑な音が店内に響いたのは、夕飯時を過ぎた午後十時頃だった。店の常である騒がしくも和やかな空気には合わないそれに、店内の誰もが音の方へ視線を向ける。そこに居たのは、二人の体格の良い男たちだった。二人の間には割れた皿や酒瓶が転がっている。じわり、と瓶から漏れた酒が床に広がった。

    「テメェ、今なんつった?」
    「お前じゃあ無理だって言ったんだ。現実見ろよ、とも言ったな」

     二人の男は、双方酔っているようで顔が赤い。すっかり据わった目で睨み合う男達によって店内の空気までもが重く濁っていく。酔っぱらいの喧嘩か?いや、もっと質が悪ぃ、ありゃカタギじゃねえよ。ささやくように交わされる会話の通り、男達はそれぞれ剣と銃を持っていた。

    「はいはーい、通りますよーっと」

     先ほどまでの騒がしさはどこへやら、すっかり静まり返ってしまった店内に、場違いなほど明るい少女の声が響く。遠巻きに男達を見ていた客だけでなく、騒動の元凶たる二人の男の視線もが声の主の方へ向いた。
     声の主は、この店の看板娘だった。いつも通り、器用に複数の皿を持ち店内をするりと進む。目的のテーブルについた看板娘は、まるで何事もなかったかのようにいつも通りに、料理名を言いながらテーブルの上に並べていく。最後に「注文お揃いですね?」と笑顔で確認を取った少女は、しかし店の奥には戻らずくるりと体の向きを変えた。そして、なんでもないようにてくてくと歩いていく。そうして立ち止まったのは、騒ぎをおこした男たちの間だった。

    「あーあ、派手に割ってくれちゃってまあ。皿だってタダじゃねえってのに」

     そう言ってしゃがみこみ、破片をつまむ少女は、どう見ても異質だった。

    「……なんだ、テメェ」

     男の片方が、少女に向かって言う。顔を上げた少女は、不思議そうに答えた。

    「何って、ここの従業員。さっきアンタらに酒やら料理やら運んだのは私じゃねえか」
    「そうじゃねぇよ! 何してんだって聞いてんだ!」
    「店汚されたら、掃除しなきゃならねぇだろ? 客はまだまだ入ってくんだから」

     怒声を飛ばされても、なおも少女は不思議そうだ。ずっと黙り込んでいたもう片方の男が、苛立ちを滲ませた声で言う。

    「分かってねえようだな、大人の話し合いにガキが首つっこんむんじゃねえって言ってんだ」
    「大人の話し合い、ねぇ……」

     言いながら立ち上がった少女の飴色の瞳が、すぅ、と細められた。

    「皿やら酒瓶やら割って、大声出して、関係ないお客さんまで怯えさせて? そんな有様のこれが、大人の話し合いなんて上等なモンには見えねぇが」

     少女の言葉に、男達が分かりやすく不機嫌を顔に出す。しかし少女はそれに怯む様子を見せず、淡々と続けた。

    「アンタ等がいちゃあお客さんたちが楽しく飲み食いできねえ。大人の話し合いとやらをするんなら、外でやってくれねぇか」

     言いつつピッと親指で店の入り口を指す。その様子に、男の片方がとうとう立ち上がって少女を睨んだ。

    「さっきから聞いてりゃ、なんだその口の利き方は!? 俺たちは客だぞ!」
    「客ぅ? アンタはもう客じゃねえだろ」
    「あぁ!?」

     少女は尚も、いつも通りの調子を崩さずに言う。

    「店で暴れて、ほかのお客さんたち怯えさせて、まして従業員脅すようなやつは客じゃねえよ、ただの迷惑野郎だ。これ以上手間かけさせねぇでくれよ、さっさと外出てくれ」

     少女が言い切ると同時だっただろうか、黙っていた方の男が、己の腰に手を伸ばした。誰かがまずいと声を上げる。男の腰には剣があった。すらりと抜かれたその刀身は、鈍く輝いている。少女からは、目の前に立つ男によってそれが見えないようだった。
     ここまでか、と目を逸らした客の耳に入ったのは、しかし少女の悲鳴や肉を切る音ではなかった。

    「ったく、アンタもかよ。手出さずに眺めてるだけなら、客として扱ってやろうと思ってたのに」

     キン、と高く響いた音は、少女がどこからか取り出したナイフで剣を弾いた音だった。切りかかった男が、それまでの比較的落ち着いていた調子を崩して少女を見る。

    「最後の忠告だぜ」

     くるくると手の中でナイフを遊ばせながら、少女はいつも通りに言った。

    「今、大人しく金払って出てくんなら客として扱ってやる。そうじゃないなら……」

     ぴっ、回転を止めたナイフの先端が、男たちに向けられる。

    「どうやら口で言っても分かんねぇようだからな。こっちも多少、乱暴させてもらう」

     それを最後に、しんと店の中は静まり返った。
     変わらず向けられるナイフの先端。
     それを睨んでいた男達が、同時に動いた。

    「舐めた口利いてんじゃねえ!!」
    「ガキが、大人の怖さってもんをしっかり教え込んでやる」

     男達の手が、剣と銃、それぞれに伸びる。
     少女が、ほんの少し、口角を上げた。

    「そんじゃあまあ、ちっと暴れさせてもらおうか」

     少女の言葉を皮切りに、ずっと黙り込んでいた客の一部が歓声を上げる。

    「おい、いつもの、始まるぞ!」
    「あーあ、大人しく店の外出てりゃあ良かったのになあ」

     突然上がった歓声に、男達が戸惑った一瞬。少女にとっては、それで十分だった。

     ゴン、鈍い音が鳴る。銃を持っていた方の男の体が揺れた。顎をナイフの柄で殴られたのだと男が認識した時には、二発目が男のこめかみに向かって飛んできていた。ナイフの持ち手側、端が金属加工されたそれを、どうにか視界の端に捉えたところで男の意識は飛んだ。
     ふらり、倒れていく体を入り口に向かって蹴り飛ばした少女が、次いで剣を持つ男に向き直る。 
     さっきまで自分と並んで立っていた男が、目の前の小柄な少女にあっという間に沈められた。その事実が受け入れられない男は、がむしゃらに剣を振り回し始めた。目の前の少女が、一見平凡に見える少女が、どうしてか恐ろしくて仕方がなかった。
     少女が、近づいてくる。剣を振り回しているのにも関わらず、少女はその全てをナイフで弾きなんでもないように一歩、また一歩と歩みを進めた。少女が歩みを止めると同時に、カランと音を叩て男の剣が床に転がる。どうして、と混乱する男が、手元を柄で殴られたのだと気付いたのは、その音が耳に入ってからだった。

     どさり、男が震えながら尻餅をつく。それを少女は、なんでもないように見下ろしていた。

    「さて。まだやるってんなら、それでも私は構わねぇけど」

     どうする? 言いながら、少女がゆるりと首を傾げる。

     男は、限界だった。

    「う、わああああああ!!!」

     叫びながら、握った拳を少女に向かって振り上げる。
     男が最後に見たのは、少女の笑みだった。

    「そういうことなら、まあ遠慮なく」

     どさり、音を立てて崩れ落ちたのは、男の体だった。

     しん、と静寂が店内を支配する。しかしそれは一瞬で、次の瞬間には歓声が上がった。

    「さすがだぜ!一瞬だったじゃねえか!」
    「いやあ今日もいいもん見せてもらったなァ」

     口々に言い合いながら酒を飲み始めた客に向かって、気絶した男たちの懐を探っていた少女が「見せモンじゃねぇぞ!」と叫ぶ。店内の空気は、すっかり男達が騒ぎ出す前のそれに戻っていた。

    「おう、鎮めたか」

     店主の男性が、店の奥から顔を出して、少女に声かけた。

    「今さっき。……で、どれぐらい貰っときます? 元々の飯代と、割られた皿の分と」
    「迷惑料だな。いつも通り、お前が思う分だけ取っとけ」
    「りょーかいです」

     言いつつ少女が、慣れた手つきで財布から金を抜き取る。そうして、やはり慣れた手つきで気絶した男二人を店の外に放り投げた。店の扉を閉め、ぱんぱんと手を払った少女が、良く通る声で言う。

    「お騒がせして申し訳ない! 不作法者共はご覧いただいたように退場いただいたんで、お客さん方はごゆっくりお楽しみくださいな」

     それを最後に、少女は給仕の仕事に戻って行った。

    「なぁ、アンタら常連か?」

     先ほどの騒動をこわごわ見ていた青年が、歓声を上げていた集団に向かって問いかける。「おうよ」と明るく返した彼らに向かって、青年が再び問いかけた。

    「あれは、いつものことなのか? あんな、幼い子が……」
    「おっと、あんまりあいつのこと幼いとか言わない方がいいぜ」
    「そうそう、俺らが客である限りは、あいつは手を出して来ねぇけどな。それでも、ガキ扱いされるのは好かねえって言ってたからよ」

     危うい響きの言葉に、ごくりと青年が唾をのむ。

    「あの子は……一体何者なんだ」

     常連客達は、その問いに驚いたように目を瞬かせた後、大きく笑って言った。

    「何者ってなぁ」
    「あれはただの、この店の看板娘だよ」
    「まぁ時々、用心棒にもなるけどな」

     そう言って常連たちは、また酒を飲み始めた。
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