スターチスを求めて⑤
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*翌日へ/三日目/
その日の授業を全て受けたあと、僕はまた寮長会議に呼び出されていた。けれど、数日前に呼び出された時以上の不安感は無かった。フェデリーコ先輩にも手伝って貰ったし、情報を集めるだけは集めた。僕が犯人ではないことは証明できなくとも、僕以外にも怪しい生徒が居ることぐらいは伝えられるはずだ。
「……よし」
いつものように、一人呟いてこぶしを握る。それから、コンコンコンと目の前を扉をノックした。
「どうぞ」
あっ、今回はアメリア寮長だ。思いながら、扉を開けて「失礼します」と声を張った。
「それで、どうでしたか。この三日間。何かと、調べていたようですが」
入って早々、アメリア寮長にそう問われる。それに、「はい」と返して話し始めた。
まず、僕は誓って本を持ち出したりはしていないこと。
目撃者のクルール・ドレイパー君曰く、本を持ち出した犯人は図書館の西側、つまりレオー・ルーフス寮、クロコディールス・ウィリディス寮側に走って行ったこと。
落ちていた僕のネクタイピンと机に入っていた古代ルーン文字で書かれたメモは、僕を陥れるために真犯人が仕込んだものだと思われること。
数日前に、購買で黄寮の制服を買って行った僕と似た背格好の男子生徒が居たこと。
その生徒の名前は赤寮4年生のリー・バントンで、彼は古代ルーン文字学も取っていること。
それらを、つっかえながらもどうにか寮長たちの前で話しきった。
「……話は、以上か」
「は、はい!」
ラディム寮長に問われて、やや怯えながら答える。なんだか、なんだか怖い……。
「つまりお前は、我が寮の生徒が犯人だと、そう言いたいわけだな?」
そう言って、彼はじっと僕を見据えた。えっ待って、もしかして怒ってる?どうしよう。なんて答えたらいいんだろう。何か言わなくちゃと思って口を開いて、でも何を言えばいいのか分からなくて結局はくはくと口を動かすだけになってしまった。その間もラディム寮長の視線は僕から離れない。どうしよう!
「落ち着いて。ゆっくりでいい。君は、どう思っているんだい?」
そう言ったのは、ユリウス寮長だった。助けを求める様に視線をそちらへ向ければ、彼はいつかのようににこりと笑う。それで、なんだか肩の力が抜けた気がした。
再びラディム寮長に目線を合わせて、口を開く。
「最初にも言いましたが、僕は誓ってやっていません。自白の魔法をかけて頂いても構いません。
……彼、リー・バントンが、犯人だとは言い切れないかもしれません。でも、怪しいとは思います。だから、寮長並びに先生方には、僕のことだけじゃなく彼のことも調べて欲しいです」
ラディム寮長は、考える様に目を伏せて、それから口を開いた。
「なるほど。お前の意見は分かった」
それを引き継ぐように、アメリア寮長が言う。
「では、この後リー・バントンを呼び出して話を聞きましょうか。貴女は、もう下がって頂いて大丈夫ですよ」
「彼に話を聞いた後に、僕から君に連絡を入れるよ。それまで、僕らの寮の談話室で待っていて」
……つまり。それは。
「おめでとう、とりあえず、きみは第一容疑者では無くなった。安心して……というのはちょっと違うかもしれないけれど、ハピネス寮長の言う通り談話室で待っているといいよ」
「わ、分かりました!ありがとうございます!」
そう言って、僕は頭を下げて談話室に戻った。
*後日譚
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*後日譚
あの後、寮長会議に呼び出されたリー・バントンはあっさり自分が犯人だと自白し、本も返したとハピネス寮長から話があった。その報告を聞いた時は、フェデリーコ先輩と抱き合って喜んだものだ。
ちなみに、僕に化けたのは背格好が近い同性で、かつ僕のネクタイピンをたまたま拾ったからとのことだった。そんな理由であんな思いをしたのかと、複雑な思いになったのだって、今は良い思い出だ。
証拠品としてエミリア先輩の元にあったネクタイピンも無事戻ってきたし、先生方に妙に睨まれることも無くなった。いつも通り授業を受けて、時々任務にも向かう、そんな日々。
飛行訓練帰りに、日が沈み始めた空を眺めて思う。
ああ、モーンストロムでの、僕の日常が返ってきたんだって。