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    ことにゃ

    @kotonya_0318

    各種サイトで細々と活動中。19歳。
    いろいろ垂れ流してます。うちの子語り多め。
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    ことにゃ

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    リアリアSS

    #バーベナの花が咲く頃に
    whenVervainFlowersBloom.

    木漏れ日の影で 授業が終わって、お昼時の休み時間。なんとなく人口密度の高い食堂で食べる気にはならなかったから、軽食を買って外に出ることにした。目指す先は、日当たりのいい広場である。眩しい日差しに目を眇めながら、どこか良い場所は無いかと広場内に視線を走らせていると、木陰に、愛おしい青を見つけた。読書中なのだろう、いつも通りきれいな姿勢のまま、本に視線を落としているそのひとに近づいて行って、声を掛ける。

    「珍しいですね、リア寮長」

    ぱちり、瞬きを一つ。それから視線が、本から私の顔に上がってきた。鮮やかな青と目が合う。

    「リア……これから昼食かしら?」

     首を傾げながら問われる。さらりと彼女の前髪が崩れて、一房垂れた。

    「ええ。隣、良いです?」
    「もちろん」

     買って来たパンを掲げて見せながらそう言えば、すぐに了承が返ってくる。たったそれだけが嬉しくて、口角が妙に上がりそうになるのをぐっと堪えて、代わりに自然な笑顔を浮かべて「ありがとうございます」と言った。

    「それじゃあ失礼して……っと。それにしても、珍しいですね」
    「さっきも言っていたわね。私がここに居ることに関して?」

     リアからの確認に対して頷いてから、「だって」と続ける。

    「リア寮長、積極的に外に出るほうじゃないでしょう? 普段だって、昼食は適当な場所で済ませてることが多いし、そもそも昼間は授業とか寮長業務が多くて、こうやってゆっくりしてることが少ないじゃないですか」

     一通り言い終えると、リアはぱちりと瞬いて、その目を丸くした。珍しい表情だと観察しながら思う。

    「……よく見ているわね」

     しみじみと言われたその言葉に、思わず驚きの声を上げてしまったのは仕方のないことだと思う。

    「いや、その……ほら、一緒に居る時間、多いですし」

     どうにかそう誤魔化すように言う。二人きりならまだしも「あなたのことはいつだって見ている」と、正直に言うことは憚られた。
     そんな私を見てか、「ふふ、」とリアが笑う。木漏れ日を浴びながら、上品に口元を隠して笑うその様があんまり美しくて、さっきまでの動揺なんてどうでもよくなってしまった。

    「ごめんなさいね、普段は落ち着いた貴女が、そんなふうに慌てるなんて珍しかったから、つい」

     言いながらも、その表情にはまだ笑みが浮かんでいる。その笑みの色は、私とリア、二人きりで過ごすときのあの、「愛おしい」と伝えてくれる時のそれで、ああ。

    ──手放したく、ないなあ。

     心中に浮かんだ呟きに、自分でハッとした。

    「さっきの問いに答えると、今日このあとの授業が先生の都合で休講になったの。急に彼じゃないといけない依頼が入ってしまったらしくてね」

     せっかく答えてくれているリアの言葉は、正直ほとんど頭に入ってこなかった。

    「さて、そろそろ食事を摂るべきじゃない? 貴女だって忙しいでしょうし」
    「そうですね、いい加減食べないと……」

     なんでもないように返しながら、パンの包装をはがして、「いただきます」と言ってからそれを頬張る。食べている間は、会話ができないのが都合がよかった。黙っていても不自然でないから。咀嚼しながら、自分に言い聞かせる。

     このひとは、今だけの私の恋人だ。分かってるだろ。
     このひとは、良いお家の時期当主で、卒業後には婿を取る。分かってるだろ。
     ……このひとは、私だけのものではない。分かってるだろ。

     このひとが美しいひとだなんて、このひとと接せばすぐに分かることだ。偶然、私がそれに最初に気付いただけ。彼女の卒業まで、という期間限定のこの関係は、私にとって何にも代えられない大切なものだ。

     ちらり、横に座る彼女を窺う。彼女は読書に戻っていた。きれいな姿勢と、利便性重視でまとめられた後頭部の結髪。姿勢がいいからそんな印象はないけど、彼女の身長は私よりも低くて、それは横に立つと良く分かる。たったそれだけのことが、私にとってはどうしようもなく誇らしい。

     けれど、将来彼女の横に立つのは私ではないのだ。分かってる。分かっているけれど、でも。

     時々、どうしようもなく、欲が出る。ずっと彼女の横に居たい、なんて。

     叶わない欲はさっさと仕舞え。私にできるのは、今の時間を大切に過ごすことだけだ。何度言い聞かせたか分からないそれを、改めて心中で復唱する。

     ごくん、浮かんだ欲はパンと一緒に飲み込んだ。
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