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    ことにゃ

    @kotonya_0318

    各種サイトで細々と活動中。19歳。
    いろいろ垂れ流してます。うちの子語り多め。
    詳しくはツイフィール(twpf.jp/kotonya_0318)の確認をお願いします。
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    ことにゃ

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    #バーベナの花が咲く頃に
    whenVervainFlowersBloom.
    #スターチスを求めて
    inSearchOfSturtis

    スターチスを求めて ①~③まとめ ゲームブック形式/P.1/
     期末試験も終わって、後はダンスパーティーが残るばかりのモーンストロム魔法学校。僕は、この魔法学校に所属する4年生だ。寮は、黄寮なんて呼ばれるオウィス・フラーウム寮。成績だって平均程度で、特に目立つこともないような、一般的な生徒だ。
     そんな僕は何故か、寮長会議の場に呼び出されていた。一体、何が原因で呼び出されたんだか、僕には全く見当がついていなかった。
     どぎまぎしながら、コンコンコンとノックをする。

    「入れ」

     中から聞えたこの高圧的な声は、赤寮のラディム・バルトシーク寮長だろうな。思いながら、ドアを開ける。

    「失礼します」

     扉を閉めて、言ってから一礼。なんだか普段よりも、寮長達から注がれる視線が鋭い気がして心臓が痛い。

    「あの、僕は何故呼び出されたのでしょうか……?」
    「誰が発言を許可した」

     間髪入れずに言われたラディム寮長からのその言葉に、思わず竦む。それが表情に出たのか、緑寮のローレンス・ボールドウィン寮長がなだめる様に話し始める。

    「そう威圧されては話辛くなってしまうだろう、Green boy?もっと穏やかに行こう」
    「そうですね。何より、彼には事情をきちんと聞かなければなりませんから」

     そう続けたのは青寮のアメリア=メイ寮長だ。自分を擁護してくれる人が2人居ることに、内心でほっと息を吐く。

    「では、本題に入りましょうか、先輩方」
    「白寮風情が仕切るんじゃない」

     そう切り出したのは、白寮のユリウス=ウォーカー寮長だ。穏やかな笑みの彼は、僕と目が合うとにこりと笑った。……ラディム寮長の発言は、怖いから聞こえなかったことにして。

    「そうだよね、いい加減彼にも事情を説明しなきゃだから……」

     人当たりの良い笑みを浮かべつつ同意を返したのは、我が黄寮のハピネス・デスペアー寮長だ。……本当に、全寮長がこの場に居るんだな、と今更ながら実感が追い付いてくる。本当に、僕はどうしてこんな場所に呼び出されているんだろう。

     こほん、と場を改める様にアメリア寮長が咳払いをした。続けて、彼女が言う。

    「あなたには、図書館の持ち出し禁止の本を持ち出した、という容疑がかかっています」

     一瞬、言われたことが理解できなかった。そんな僕のことなんて構わずに、アメリア寮長は続ける。

    「付け足すならば、持ち出された本は闇魔法についても記載されているとても重要な書物です」

     闇魔法、という単語に、どうにか脳みそが動き出す。

    「そんな、何かの間違いです!」
    「喧しい、喚くな」

     ラディム寮長からの言葉に思わず口を閉じる。でも、このまま黙り込んじゃだめだと自分を鼓舞して再び抗議を始めた。

    「僕は、そんなことはしていません!」
    「しかしながら、貴女が件の本を持って歩いている目撃情報があったのですよ」
    「そんな……!」

     先ほどは庇ってくれたアメリア寮長からの言葉に、思わず泣きそうになった。味方だと思っていた相手からのその言葉は、必要以上に重い。

    「でも、僕はやっていないんです!信じてください!」

     それでも、僕は抗議を辞めるわけにはいかなかった。だって、これで認めたら、下手をすれば闇魔法を使った疑惑までかけられてしまう。そんなことになったら、家からも、魔法界からも追放されて……いや、最悪処刑だ。そんなの、まっぴらごめんだ!

    「じゃあ、こういうのはどうかな」

     大きい声では無いのに、良く通る声が響いた。ユリウス寮長のものだ。視線がそちらへ向く。
     彼は、先ほどと同じように僕に微笑みかけて言った。

    「君が自分で自分にかかった容疑を晴らせば良い。そうだろう?」

     ……それは、つまり。

    「ああ、いいんじゃないかい?それなら、君も自分の無実を証明できるし、こちらも捜査する必要が無い。ウィンウィンだろう?」
    「ですが、これは先生方から指示されたことですよ?そんな勝手に……」
    「でも、本人はやってないって言ってるし。それをそのまま犯人にするのはどうかと思ってたんだ」

     寮長たちが口々に言う。これは、もしかして、どうにかなったりするんだろうか。
     不機嫌そうな顔のまま黙り込んでいたラディム寮長に目を向ける。すると、彼は鋭い視線を僕に向けた。それに怯みそうになって、でも必死でその目を見返す。
     ラディム寮長が、口を開いた。

    「三日だ。お前に猶予を与えてやろう。それまでに精々自分が犯人ではないという証拠を集めてくることだな」
    「あ、ありがとうございます!!」

     腰を折って、深く礼をする。ふん、とラディム寮長が興味無さげに鼻を鳴らす音が聞こえた。

    「……はぁ、では、三日後。再び寮長会議を開きます。その時に、貴方が犯人ではない証拠を持ってくるか、真犯人を連れてきて自白させるかしてください。いいですね?」
    「分かりました」

     アメリア寮長の言葉に、神妙に頷く。

    「じゃあ、君はもう下がって構わないよ。犯人捜し、頑張ってね」
    「はい!」

     ハピネス寮長からの言葉に返事を返して、「失礼しました」と寮長会議が行われている部屋を後にした。

     斯くして、僕は、図書室から本を持ち出した真犯人を探すことになったのだった。
    /P.2/
    「どうしよう……」

     僕は現在、寮の談話室で頭を抱えていた。元気に「はい!」と返事をしたはいいけど、そんな、本を持ち出した犯人捜しだなんて。端艇の真似事のようなこと、冷静に考えて僕にできるんだろうか。考えれば考えるほど、僕がやってないことを証明するなんて無理な気がしてしまう。本当に、どうすればいいんだろう。はぁ、と一つため息を吐いた、その時だった。

    「どうかしたの?俺で良ければ、話を聞こうか?」

     話しかけれて、顔を上げる。けれど、声だけでそれが誰かは分かっていた。我が黄寮監督生の一人の、フェデリーコ先輩だ。彼は、心配そうな顔でこちらを見ていた。

    「実は……」

     僕は、さっき寮長会議に呼び出されたこと、そこで、図書室の持ち出し禁止の本を持ち出したという疑いが僕に掛けられたこと、それを否定したら、自分で真犯人を探して来いと言われたことを説明した。
     フェデリーコ先輩は、うんうんと頷きながら、親身に話を聞いてくれた。僕が話し終えれば「なるほど……」と深刻そうに頷く。

    「実はね、俺もその話は監督生として寮長から聞いていたんだ。その上で、できれば君に、協力してやってほしいとも言われていたんだよ」
    「えっ、ハピネス寮長がですか?」
    「うん、俺らとしても、自分たちの寮からそういう生徒が出たなんて、信じたくないからね。もし君が罪を否定するならば、真犯人捜しを手伝ってあげてって、言われていたんだ」

     ハピネス寮長……!僕は心の中で彼を拝んだ。

    「それで、早速なんだけど」
    「はい」
    「まずは、どうして君が犯人だなんて言われてしまっているのか、調べてみるのが良いと思うんだ。もしかしたら、誰かと勘違いされてしまっているだけかもしれないもんね」
    「なるほど」
    「だから、まずは寮長の誰かに話を聞きに行こう」

     思わずえっと声を上げる。すると、フェデリーコ先輩は眉を下げて言った。

    「寮長のところに行くのはハードルが高いかもしれないけど、でもまずはそこを明らかにしないと話が進まないと思うんだ。もし、そのあとどうすればいいか分からなくなったら、また俺に話を聞きに来て構わないから。まずは、行ってらっしゃい」

     そうして、僕は寮の談話室から送り出されたのだった。

     まずは……

    *赤寮の方へ行く[jump:A]
    *図書館に行く[jump:A]
    *運動場に向かう[jump:A]
    *白寮の方に向かう[jump:A]
    /P.3/
    *赤寮の方へ行く/一日目一度目/
    どうしよう、と迷いながら歩いていると、気付けば赤寮のあたりへ来ていた。周りが赤寮の生徒ばかりで、なんだか居心地が悪い。戻ろうとしたところで、ふと思いついた。
    赤寮と言えば、あのなんだか怖いラディム・バルトシーク寮長の率いる寮だ。彼に話を聞きに行くのはだいぶ怖いけれど、もしかしたら彼なら何か情報を知っているかもしれない。

    ……怖いけど、すごく怖いけど、行くしかないのだ。自分を鼓舞して、ラディム寮長の自室へ向かって歩き出した。

     ラディム寮長の自室の方へ向かうと、ちょうど彼が部屋から出てくるところだった。

    「あ、あの!」
    「……なんだ、お前は」

     ぎろり、鋭い視線を向けられて、思わず竦む。その間に、僕を頭から足元までじとりと見た彼が「ああ、例の持ち出し犯か」と独り言のように呟いた。

    「僕は、犯人じゃありません!」
    「うるさい、喚くな」

     勇気を出してそう言ったのに、ぴしゃりと抑え込むように言われてしまってまた黙り込む。……いや、駄目だ、ちゃんと聞かなきゃいけないんだ。そんなことを考えて再び視線を上げると、ラディム寮長はどこかへ歩いて行くところだった。まずいと思って、「あの!」と呼び止める様に声を上げる。

    「……なんだ」
    「どうして僕が犯人だと疑われているのでしょうか?」

     嫌そうに振り返った彼に、そう問いかける。彼は、少し間を置いて口を開いた。

    「……知らないな。興味もない。俺は忙しいんだ。さっさと失せろ」

     そう言って、彼は僕に風魔法をかけた。そうして、僕は赤寮の入口のほうまで戻されてしまったのだった。

     次は、どこに行こう。

    *図書館に行く[jump:A]
    *運動場に向かう[jump:A]
    *白寮の方に向かう[jump:A]
    *黄色寮談話室に戻る[jump:A]
    /P.4/
    *図書館に行く/一日目一度目/
     図書館に向かうことにしたけど、なんだか周りの視線が痛い気がして胃も痛い……。今までは普通に出入り出来ていた図書館が、なんだか怖い。それでも、情報を集めなければと思って必死で足を動かした。
     がらり、重い図書館の扉を開いて中に入る。一瞬顔を上げた図書館の先生が、僕を見てあからさまに嫌そうな顔をした。うう、僕は犯人じゃないのに……。

     先生から視線を逸らして、何か手がかりがないだろうか、と図書館全体をぐるりと見回す。すると、先程も見た青い髪が視界に入った。アメリア寮長だ。
     ……そうだ、寮長に話を聞きに行くといいって、アドバイスを貰っていたんだった。よし、と意気込んで、彼女の方へ向かう。

    「すいません……」

     小声で話しかければ、彼女がノートから顔を上げる。アメリア寮長は僕を見て、少しだけ驚いたような顔を作った。

    「貴方は先程の……?私に何か?」
    「あの、聞きたいことがありまして」
    「……ここでは、場所が良くありませんね。廊下に移動しましょうか」

     それは、僕にとってもありがたい提案だった。「はい」と頷いて、二人で揃って図書館の外へ向かう。
     廊下に出てから少し歩いたところで、アメリア寮長が立ち止まる。

    「それで、要件は何でしょうか?」
    「……どうして、僕が犯人として疑われているのか、知りたいんです」

     少し意気込んでそう言えば、「なぜ、貴方が犯人だと疑われているのか、ですか?」と復唱するように言った。それに頷く。

    「それはまぁ色々と理由は有りますが、一番は目撃証言があったからです。貴方が、持ち出し禁止の本を持って図書館を出るところを見た生徒が居たのですよ」
    「それは、一体誰なんでしょうか……?」
    「それは……まぁ、一応貴方は自分が犯人では無いと主張していますものね。我が寮の4年生の、クルール・ドレイパーです」

     青寮4年生の、クルール・ドレイパー。脳内にその名前を刻み込んで、会話に戻る。

    「ちなみになんですけど、それ以外の理由って何なんでしょうか?」
    「それ以外としては、貴方のものと思われるネクタイピンが例の本が入っていた本棚の下に落ちていたことと、貴方が普段使っている席からメモが出てきたことですね。メモに関してですか?メモに関しては、古代ルーン文字で書かれていたのですが……それに、図書館の情報について詳細に書いてあったのですよ。例えば、図書館の先生が不在になる時間や、禁書棚にかけられている魔法を解く方法など、まぁ細かくは他にもありますが、目立ったのはこの二点ですかね」
    「なるほど……」

     なんだか、僕が全く知らない間に僕が犯人っていう証拠がたくさん出てきてしまっていたらしい。僕、全く心当たり無いのに……。
     僕が一人沈んでいると、アメリア寮長が「申し訳ありませんが」と話し出した。それに顔を上げて、アメリア寮長を見る。

    「詳しくはうちの監督生のリア……エミリア・ロンサールに話を聞きに行ってもらえますでしょうか?証拠品の管理は、彼女に任せていますので」

     青寮監督生の、エミリア・ロンサール。再び名前を脳内に刻み込んで、「分かりました、ありがとうございます!」と深く一礼。

    「それでは」

     その声が聞こえて、顔を上げる。アメリア寮長が図書館に戻って行く後ろ姿が見えた。

     次は、どこに行こう。

    *一度フェデリーコ先輩の元へ戻る[jump:A]
    /P.5/
    *運動場に向かう/一日目一度目/
     運動場に向かうと、緑寮の生徒達がマジックモートゥスの訓練をしていた。その中に、先程も見た紅と黒のツートンカラーが見えた。ローレンス寮長だ。
     緑寮の生徒達の間を縫って、彼の元へ向かう。そうすれば、途中で、向こうが先に気付いたようだった。

    「君は……?さっき寮長会議に呼び出されていた生徒だよね。どうかしたのかい?」

     ローレンス寮長の言葉に「実は……」と口を開く。話が早くて有り難い限りだ。

    「どうして僕が犯人として疑われているのか、知りたいんです」

     じっとローレンス寮長の赤い瞳を見て、意気込んで言う。

    「どうして、犯人だと疑われているのか、かい?残念ながら、俺は詳しいことは知らないんだ」

     しかしながら、帰ってきた答えはあまり嬉しいものではなかった。「そうなんですか……」と返すも、声と視線はそのまま下へ向かう。
     「ああでも」とローレンス寮長が口を開いた。それに、視線を上げれば、彼は顎に手を当てて考え込むようにしていた。

    「Lady……ルプス・カエルレウム寮寮長の、アメリアなら、知っているかもしれないね。彼女の元を訪れてみるといいよ」
    「そう、なんですか……!ありがとうございます」

     そう言って、深く一礼。

    「では失礼します!」

     そう明るく言って、彼の元を去る。途中で一度振り返ると、彼は僕の方を見てにこやかに手を振ってくれていた。

     次は、どこに行こう。

    *赤寮の方へ行く[jump:A]
    *図書館に行く[jump:A]
    *白寮の方に向かう[jump:A]
    *黄寮談話室に戻る[jump:A]
    /P.6/
    *白寮の方に向かう/一日目一度目/
     白寮の方に向かうことにした。白寮の寮長の、ユリウス=ウォーカー寮長なら、何か力になってくれるかもと思ったからだ。同じ4年生だし。

     でも、白寮の談話室に近づくのは初めてだから勇気が居るな。思いながら、白寮の談話室のあたりをうろうろする。ここまで来たのはいいけれど、実際扉を叩く勇気が出ないのだ。
     すると、背後から「どうしたんだい?」と柔らかい声色で話しかけられた。びくりと体が跳ねる。振り返れば、そこには山吹茶色の髪の彼……つまり、ユリウス=ウォーカー寮長が立っていた。

    「ああ、きみはさっき寮長会議に呼び出されて居た生徒だよね。どうしたんだい?」
    「あの、実は君に用事があって」
    「僕に?」

     不思議そうに首を傾げた彼に頷いて見せる。

    「どうして、僕が犯人だと疑われているのか、知りたくて来たんだ」

     そう言えば、彼は得心がいったといった様子で頷いた。続けて、「どうして、か……」と呟くように言う。

    「申し訳ないけど、僕は詳しく知らないんだ。図書館の先生、いるだろう?あの先生が、君が犯人だから本を返すように言えって僕たち寮長に伝えてきてね。それで、きみを呼び出したんだよ。だから、そのどうして、に対しては答えられないかな。ごめんね。」
    「そう、なんだ……」

     望むものではなかった答えに、思わず視線が下がる。しかし、すぐに「ああでも」とユリウス寮長が声を上げた。それで、僕も視線を上げる。

    「青寮寮長のアメリアなら、詳しいことを知っているかもしれないな。彼女、図書館の先生とも、仲が良いから」
    「なるほど……」

     それは、有り難い情報だ。青寮の、アメリア寮長を頭に浮かべる。次は、彼女の元を尋ねてみよう。

    「僕から渡せる情報はこれくらいかな。まあ、頑張ってね」
    「うん、ありがとう。助かるよ」

     そう言って、僕は白寮付近から去って行った。

     次は、どこに行こう。

    *赤寮の方へ行く[jump:A]
    *図書館に行く[jump:A]
    *運動場へ向かう[jump:A]
    *黄寮談話室に戻る[jump:A]
    /P.7/
    *赤寮の方へ行く/一日目二度目/
    どうしよう、と迷いながら歩いていると、気付けば赤寮のあたりへ来ていた。周りが赤寮の生徒ばかりで、なんだか居心地が悪い。戻ろうとしたところで、ふと思いついた。
    赤寮と言えば、あのなんだか怖いラディム・バルトシーク寮長の率いる寮だ。彼に話を聞きに行くのはだいぶ怖いけれど、もしかしたら彼なら何か情報を知っているかもしれない。

    ……怖いけど、すごく怖いけど、行くしかないのだ。自分を鼓舞して、ラディム寮長の自室へ向かって歩き出した。

     ラディム寮長の自室の方へ向かうと、ちょうど彼が部屋から出てくるところだった。

    「あ、あの!」
    「……なんだ、お前は」

     ぎろり、鋭い視線を向けられて、思わず竦む。その間に、僕を頭から足元までじとりと見た彼が「ああ、例の持ち出し犯か」と独り言のように呟いた。

    「僕は、犯人じゃありません!」
    「うるさい、喚くな」

     勇気を出してそう言ったのに、ぴしゃりと抑え込むように言われてしまってまた黙り込む。……いや、駄目だ、ちゃんと聞かなきゃいけないんだ。そんなことを考えて再び視線を上げると、ラディム寮長はどこかへ歩いて行くところだった。まずいと思って、「あの!」と呼び止める様に声を上げる。

    「……なんだ」
    「どうして僕が犯人だと疑われているのでしょうか?」

     嫌そうに振り返った彼に、そう問いかける。彼は、少し間を置いて口を開いた。

    「……知らないな。興味もない。俺は忙しいんだ。さっさと失せろ」

     そう言って、彼は僕に風魔法をかけた。そうして、僕は赤寮の入口のほうまで戻されてしまったのだった。
     いてて、と身体を起こす。何の気なしに窓の外を見れば、外はすっかり暗くなっていた。そろそろ、寮に戻ったほうがいいかもしれない。
     そう思って、僕は寮の自室に戻った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行っていない)[jump:A]
    /P.8/
    *図書館に行く/一日目二度目/
     図書館に向かうことにしたけど、なんだか周りの視線が痛い気がして胃も痛い……。今までは普通に出入り出来ていた図書館が、なんだか怖い。それでも、情報を集めなければと思って必死で足を動かした。
     がらり、重い図書館の扉を開いて中に入る。一瞬顔を上げた図書館の先生が、僕を見てあからさまに嫌そうな顔をした。うう、僕は犯人じゃないのに……。

     先生から視線を逸らして、何か手がかりがないだろうか、と図書館全体をぐるりと見回す。すると、先程も見た青い髪が視界に入った。アメリア寮長だ。
     ……そうだ、寮長に話を聞きに行くといいって、アドバイスを貰っていたんだった。よし、と意気込んで、彼女の方へ向かう。

    「すいません……」

     小声で話しかければ、彼女がノートから顔を上げる。アメリア寮長は僕を見て、少しだけ驚いたような顔を作った。

    「貴方は先程の……?私に何か?」
    「あの、聞きたいことがありまして」
    「……ここでは、場所が良くありませんね。廊下に移動しましょうか」

     それは、僕にとってもありがたい提案だった。「はい」と頷いて、二人で揃って図書館の外へ向かう。
     廊下に出てから少し歩いたところで、アメリア寮長が立ち止まる。

    「それで、要件は何でしょうか?」
    「……どうして、僕が犯人として疑われているのか、知りたいんです」

     少し意気込んでそう言えば、「なぜ、貴方が犯人だと疑われているのか、ですか?」と復唱するように言った。それに頷く。

    「それはまぁ色々と理由は有りますが、一番は目撃証言があったからです。貴方が、持ち出し禁止の本を持って図書館を出るところを見た生徒が居たのですよ」
    「それは、一体誰なんでしょうか……?」
    「それは……まぁ、一応貴方は自分が犯人では無いと主張していますものね。我が寮の4年生の、クルール・ドレイパーです」

     青寮4年生の、クルール・ドレイパー。脳内にその名前を刻み込んで、会話に戻る。

    「ちなみになんですけど、それ以外の理由って何なんでしょうか?」
    「それ以外としては、貴方のものと思われるネクタイピンが例の本が入っていた本棚の下に落ちていたことと、貴方が普段使っている席からメモが出てきたことですね。メモに関しては、古代ルーン文字で書かれていたのですが……それに、図書館の情報について詳細に書いてあったのですよ。例えば、図書館の先生が不在になる時間や、禁書棚にかけられている魔法を解く方法など、まぁ細かくは他にもありますが、目立ったのはこの二点ですかね」
    「なるほど……」

     なんだか、僕が全く知らない間に僕が犯人っていう証拠がたくさん出てきてしまっていたらしい。僕、全く心当たり無いのに……。
     僕が一人沈んでいると、アメリア寮長が「申し訳ありませんが」と話し出した。それに顔を上げて、アメリア寮長を見る。

    「詳しくはうちの監督生のリア……エミリア・ロンサールに話を聞きに行ってもらえますでしょうか?証拠品の管理は、彼女に任せていますので」

     青寮監督生の、エミリア・ロンサール。再び名前を脳内に刻み込んで、「分かりました、ありがとうございます!」と深く一礼。

    「それでは」

     その声が聞こえて、顔を上げる。アメリア寮長が図書館に戻って行く後ろ姿が見えた。その後ろ姿が一度動きを止めて、こちらに振り返る。

    「それから、もう遅いので寮に帰るように。私ももう戻りますので」
    「あっ、はい!分かりました」

     アメリア寮長の言葉に一礼を返せば、今度こそ彼女は去って行くところだった。
     窓の外を見る。外はもうすっかり暗くなっていた。言われた通り、早く帰らなければいけない。
     僕はそのまま、寮の自室に戻って行った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行った)[jump:A]
    /P.9/
    *運動場に向かう/一日目二度目/
     運動場に向かうと、外はもうすっかり暗くなっていた。だと言うのに、緑寮の生徒達がマジックモートゥスの訓練をしている。その中に、先程も見た紅と黒のツートンカラーが見えた。ローレンス寮長だ。
     緑寮の生徒達の間を縫って、彼の元へ向かう。そうすれば、途中で、向こうが先に気付いたようだった。

    「君は……?さっき寮長会議に呼び出されていた生徒だよね。どうかしたのかい?」

     ローレンス寮長の言葉に「実は……」と口を開く。話が早くて有り難い限りだ。

    「どうして僕が犯人として疑われているのか、知りたいんです」

     じっとローレンス寮長の赤い瞳を見て、意気込んで言う。

    「どうして、犯人だと疑われているのか、かい?残念ながら、俺は詳しいことは知らないんだ」

     しかしながら、帰ってきた答えはあまり嬉しいものではなかった。「そうなんですか……」と返すも、声と視線はそのまま下へ向かう。
     「ああでも」とローレンス寮長が口を開いた。それに、視線を上げれば、彼は顎に手を当てて考え込むようにしていた。

    「Lady……ルプス・カエルレウム寮寮長の、アメリアなら、知っているかもしれないね。彼女の元を訪れてみるといいよ」
    「そう、なんですか……!ありがとうございます」

     そう言って、深く一礼。すると、「ああそれから、」とローレンス寮長が続けた。それに顔を上げる。

    「もう夜も遅い。俺達ももうすぐ撤退する予定だからね。君ももう寮に戻ると良い」
    「分かりました、では失礼します!」

     そう明るく言って、彼の元を去る。途中で一度振り返ると、彼は僕の方を見てにこやかに手を振ってくれていた。

     ローレンス寮長の言う通り、今日はもう寮に戻ろう。僕はそのまま、寮の自室に戻って行った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行っていない)[jump:A]
    /P.10/
    *白寮の方に向かう/一度目二度目/
     白寮の方に向かうことにした。白寮の寮長の、ユリウス=ウォーカー寮長なら、何か力になってくれるかもと思ったからだ。同じ4年生だし。

     でも、白寮の談話室に近づくのは初めてだから勇気が居るな。思いながら、白寮の談話室のあたりをうろうろする。ここまで来たのはいいけれど、実際扉を叩く勇気が出ないのだ。
     すると、背後から「どうしたんだい?」と柔らかい声色で話しかけられた。びくりと体が跳ねる。振り返れば、そこには山吹茶色の髪の彼……つまり、ユリウス=ウォーカー寮長が立っていた。

    「ああ、きみはさっき寮長会議に呼び出されて居た生徒だよね。どうしたんだい?」
    「あの、実は君に用事があって」
    「僕に?」

     不思議そうに首を傾げた彼に頷いて見せる。

    「どうして、僕が犯人だと疑われているのか、知りたくて来たんだ」

     そう言えば、彼は得心がいったといった様子で頷いた。続けて、「どうして、か……」と呟くように言う。

    「申し訳ないけど、僕は詳しく知らないんだ。図書館の先生、いるだろう?あの先生が、君が犯人だから本を返すように言えって僕たち寮長に伝えてきてね。それで、きみを呼び出したんだよ。だから、そのどうして、に対しては答えられないかな。ごめんね。」
    「そう、なんだ……」

     望むものではなかった答えに、思わず視線が下がる。しかし、すぐに「ああでも」とユリウス寮長が声を上げた。それで、僕も視線を上げる。

    「青寮寮長のアメリアなら、詳しいことを知っているかもしれないな。彼女、図書館の先生とも、仲が良いから」
    「なるほど……」

     それは、有り難い情報だ。青寮の、アメリア寮長を頭に浮かべる。次は、彼女の元を尋ねてみよう。

    「僕から渡せる情報はこれくらいかな。まあ、頑張ってね」
    「うん、ありがとう。助かるよ」
    「ああそれから。今日はもう夜遅いから、寮に帰ったほうがいいんじゃないかな」

     言われて窓の外を見る。外はすっかり暗くなっていた。

    「そうだね。ありがとう」
    「じゃあ、気を付けて」

     彼に会釈を返して、白寮の付近から去って行った。ユリウス寮長のいう通り、今日はもう寮に戻ろう。そうして僕は、自室に戻って行った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行っていない)[jump:A]
    /P.11/
    *黄寮談話室に戻る(一日目二度目)

     我が寮の談話室に戻ると、ハピネス寮長が寮生何人かに囲まれて話していた。あっ、どうしよう、話聞きに行きたいんだけど……。
     どうしようかなと立ち止まっていると、ハピネス寮長の方が僕に気付いてこちらに来てくれた。

    「ハピネス寮長、すいません。会話中だったのに……」
    「いいよいいよー。それより、さっきは怖かったでしょ?ごめんねえ。ここだけの話だけど、寮長の皆って怖くない?あっこれ、寮長の皆には内緒ね!」

     勢いよく話されて思わず気圧される。ていうか、そんな風に思ってたんだ、ハピネス寮長……。

    「あの、実は聞きたいことがあって」
    「ん?なに?」
    「どうして僕が犯人として疑われているのか、知っていますか?」

     そう問いかければ、ハピネス寮長は分かりやすく眉を下げた。

    「……ごめんね、実は僕も詳しくは知らないんだ。先生から情報が来て、そのまま君を呼び出した形なんだよね。だから、僕ら寮長も詳しいことは知らないんだ」
    「そう、ですか……」

     ハピネス寮長につられるようにして、僕も視線を下げる。そっか、ハピネス寮長も良く分からないんだ……。沈んでいると、「ああでも」とハピネス寮長がやや明るい声色で話し始めた。視線をバッと上げる。

    「アメリアは知ってるかも。彼女、先生方と仲が良いし、今回の事件に一番熱心だったから」
    「そうなんですか……!」

     ハピネス寮長からの有り難い情報に、「ありがとうございます!」と明るくなった声色で言う。

    「でも、今日はもう休むといいよ。こんな時間だからね」

     そう言われて談話室の時計を見る。なるほど、もういい時間になっていた。

    「そうですね、もう自室に戻って眠ることにします」

     そうして、僕は自室に戻って行った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行っていない)[jump:A]
    /P.12/
    *一度フェデリーコ先輩の元へ戻る
     ともかく、一度寮に戻ろう。そう思い我が寮の談話室に戻れば、入るなりフェデリーコ先輩が僕に向かって「おかえり」と言いながら駆け寄ってきてくれた。うっ、安心する……。やっぱり自分の寮が一番だ。

    「さあ、まずは座ろうか。それからゆっくり話そう」

     先輩のその言葉に「そうですね」と返して、空いている椅子を探す。机を挟んで向かい合う形で腰を下ろした。

    「それで、どうだった?」

     そう問われて、僕はさっきまでに集めてきた情報をフェデリーコ先輩に伝えた。一通り話し終えると、フェデリーコ先輩は「なるほど……」と考え込むように言う。

    「とりあえず、アメリア寮長から聞けた情報が大きいね。君が例の本を持って図書館を出るところを見たって言うクルール・ドレイパー君と、証拠品を管理してるらしいエミリアちゃんが居る」
    「どちらも青寮の生徒ですね」
    「そうだね。まずは二人のところに行くところかな。それで、どうにか君が犯人じゃない証拠を、そうでなくても手掛かりを見つけてこないといけない」

     先輩の言う言葉に神妙に頷く。なんせタイムリミットは3日だ。急がなければならない。

    「とりあえず、明日は授業が終わったらクルール・ドレイパー君のところとエミリアちゃんのところに行くことだね。……今日は疲れただろう?もう休むといいよ。もうこんな時間だし」

     言われて、談話室の時計を見る。確かに、もういい時間になっていた。

    「そうですね。今日はもう自室に戻ります。ありがとうございました、フェデリーコ先輩」
    「うん、じゃあまた明日ね」

     そう言い交して、僕は自室に戻った。

    *翌日へ(アメリアの元へ行った)[jump:A]
    /P.13/
    *翌日へ/アメリアの元へ行っていない/
     寮長会議に呼び出された次の日。いつも通りに授業を受けて、その合間に例の事件について調べることにした。
     昨日の話からすると、どうもアメリア寮長が話に詳しいらしい。まずは彼女の元に行ってみるところからだろうか。でも、彼女はどこに居るんだろう。黄寮談話室で悩んでいると、フェデリーコ先輩が声を掛けてきてくれた。

    「どうしたんだい?」
    「フェデリーコ先輩。実は……」

     彼に昨日、寮長たちから聞いた話をする。すると、彼は「なるほど……」と言って考え込んだ。

    「つまり、アメリア寮長の元に行きたいんだよね」
    「そう、なりますね」
    「じゃあ、図書館に行ってみるといいんじゃないかな。彼女は、授業が無ければあそこにいることが多いから」
    「そうなんですか!」

     フェデリーコ先輩から貰えた情報に明るい声で返す。フェデリーコ先輩はにこりと笑って、「だから」と続けた。

    「まずは、図書館に行ってみるのが良いと思うよ。僕は、このあと授業があるから同席は出来ないけれど……」
    「いえ、そこまで頼るわけにはいきませんので」
    「そう?……じゃあ、頑張ってね」
    「はい!」

     そうして、授業に向かうというフェデリーコ先輩を見送った。……本当は、別の寮の寮長の元に行くのは少し怖いけれど、あまり頼ってばかりでは居られない。小さく「よし」と呟いて、自分を鼓舞した。
     これから……

    *図書館に行く[jump:A]
    /P.14/
    *翌日へ/アメリアの元へ行った/

     寮長会議に呼び出された次の日。いつも通りに授業を受けて、その合間に例の事件について調べることにした。
     昨日のアメリア寮長の話から得た情報を、更に詳しく調べてみよう。

     まずは……

    *クルール・ドレイパーを探す[jump:A]
    *エミリア・ロンサールを探す[jump:A]
    /P.15/
    *クルール・ドレイパーを探す
     同級生の青寮の知り合いに話を聞くと、どうやらクルール・ドレイパーは割と有名らしく「ああ、あいつなら今は飛行訓練に行ってるはずだけど」なんて返事が返ってきた。言われた通りに外に向かえば、丁度飛行訓練が終わるところだったらしく、生徒達が箒を片付けている。そして生徒の中には聞いた通りの容姿の、黒いメッシュの入った色素の薄い水色の髪の彼が居た。
     自寮以外の、関わったことも無い生徒に声をかけるのは正直怖い。……けど、これを乗り越えなければ、僕はもっと大変な目に合ってしまうかもしれないんだ。
     よし、と小さく呟いて顔を上げると、さっきまでそこに居たはずのクルール・ドレイパーは居なくなっていた。あれ!?どうして、さっきまでそこに居たのに!慌てて辺りを見回そうとしたところで、背後からぽんと手を肩に置かれる。

    「よ、問題児! 寮長にこってり絞られたか?」
    「うわぁ!?」

     クルール・ドレイパーは、いつの間にか僕の後ろに立っていた。い、いつの間に……!

    「悪いこと言わねえから本持ってんなら返しなって! これ以上は立場無くなっちまうだろ?」
    「いや、僕やってないから……!」

     さらさらと話し始めた彼も、どうやら僕が犯人だと思っているらしい。それに否定を返せば、彼は「ふぅん」と目を細めた。

    「で、俺になんか用?さっきまで寮長会議に呼ばれてたんじゃなかったっけ?」

     彼のその発言でハッとする。そうだ、僕は目撃証言の真偽を確かめるべく彼の元に来たんだった。

    「あの、ドレイパーくんが……」
    「クルールでいーよ」
    「じゃあ、クルールくんで……クルールくんが、僕が例の本を持って図書館から出て行くところを見たって、聞いたんだけど」
    「そだね」

     あっさり頷かれて、思わず拍子抜けする。そんな、言ってしまえばあなたの目撃証言のせいで僕は犯人扱いされてるようなものなのに……!

    「でも、僕はやっていないんだ!別の誰かと、見間違えたんじゃないの?」
    「そうは言っても、なぁ……。とりあえず、間違えなく黄寮生ではあったし、身長もまんまアンタと同じだったわけ。で、俺が見た禁書持ち出し犯は、アンタと同じ髪色、髪型、目の色、顔をしてたわけよ」

     淡々と言われてしまって、思わず竦む。そんな、それじゃあまるっきり僕じゃないか。
     ……でも、僕はやっていないんだ。それを、僕自身が信じなくてどうする。俯きがちになっていた視線を意識して上げて、再びクルールくんを見た。

    「じゃあ、それを見たのはいつのこと?」
    「見たの?んーっとね、三日前の夜」
    「具体的には何時ごろ?」
    「夜のー……確か、一時とかだったかなぁ。少なくとも日付は変わってたはず」

     ……そんな時間に、彼は何をしていたんだろう。思わずじとりと見れば、彼は視線に気づいて「やめろって、そんな見つめちゃ照れるだろ?」と言いながらとても照れてるとは思えないような表情でからからと笑った。

    「……ってのはまァ冗談だとして。普通に、俺も図書館に用事があったのよ。その日までに返さないといけない本を借りてたの、すっかり忘れててさぁ。うちの寮長、本の扱いにはキビシーから。これはまずいと思って、日付変わっちゃってたけど図書館向かったわけ。……まぁ結局、センセー居なくて返却棚に入れたら、次の日の朝返した扱いになって怒られちゃったんだけど」
    「なるほど」
    「そーそー。……アンタは自分じゃないって言うけど、どう見てもアンタだったわけよ。しかも目立たない様に気使ってたのか、逆に挙動不審でさぁ、一瞬俺と目が合ったあと、すごい勢いでどっか走ってったもん」
    「だから、それは僕じゃないんだって!きっと、誰かが変身術で……」

     言いながら、言葉が尻すぼみになって行く。分かっていた、変身術は難しい学問だ。上級生ならともかく、というか上級生だって、身長を変える様な変身術をかけることは難しい。ましてや、失敗も多いこの術を、自分にかけるのは相当な勇気が居るはずだ。
     ……本当、一体、誰だったんだろう。クルールくんと目が合ったあと、どこかへ走って行ったその僕らしき誰かは……。

     ……どこかへ、走って行った?

    「クルールくん!」
    「うわなに、びっくりした」
    「その、僕っぽい人って、どこに走って行った?」
    「え?……えーっと、俺が青寮側から来て反対に走ってったから……図書館の西側、かな」

     それを聞いて、僕は「これだ!」と思った。だって、図書館の西側にある寮は、赤寮と緑寮だけだ。これは、光明が見えてきたかも知れない!

    「ありがとうクルールくん!僕、頑張るね!」
    「え?あっ、そう……」

     そう言って、僕は意気揚々と校舎に戻った。

     さて、次はどうしよう。

    *エミリア・ロンサールを探す[jump:A]
    *もう調べることが無いので、一度寮に戻り情報をまとめる[jump:A]
    /P.16/
    *エミリア・ロンサールを探す

     同級生の青寮の知り合いに話を聞くと、エミリア・ロンサール先輩はさっき自室に戻ったとのことだった。彼女の自室の場所を聞いて、そこへ向かう。
     こんこんこん、三回ノックすれば、中から「どうぞ」と明るい声が聞こえた。

    「失礼、します……」

     やや怯えながら、ドアを開ける。本当、自寮でもない寮の生徒の自室に入るのは緊張する。
     ドアを開けた先では、エミリア・ロンサール先輩が大きな犬と戯れていた。

    「やぁ、君は確か、図書室の持ち出し禁止の本を持ち出したって容疑がかかってる生徒だったよね?」

     僕が犯人だと、断定しなかった。それに内心で嬉しく思いつつ、「はい」と返す。

    「私のところに来たってことは、リア寮長から言われてきたってところかな?証拠品について、何か質問があるのかい?」
    「……その、通りです」

     きれいに言い当てられて、それに驚きながらも頷けば、エミリア・ロンサール先輩はははと朗らかに笑った。

    「それで、その質問っていうのはなんだい?」
    「あ、えっと……」

    *ネクタイピンについて[jump:A]
    *メモについて[jump:A]
    /P.17/
    *ネクタイピンについて
    「ネクタイピンについてなんですけど……」
    「ああ、図書館に落ちていたっていう物だね。確認なんだけれど、これは間違いなく君のものなのかい?」

     そう言って、エミリア・ロンサール先輩が机の引き出しから取り出したのは、間違いなく僕のものだった。僕らの寮の色である、黄色い石のついた、友達に誕生日に貰ったネクタイピン。失くしてしまったと思っていたから、見つかったこと自体は嬉しいけれど、こんな形で見つかるなんて……。

    「そうです」
    「なるほど、じゃあ、君が本当に犯人であるという証拠でもあるわけだ」
    「えっ!?あっ、あっ、そっか、でも僕じゃないんです!」
    「どうどう、落ち着きたまえよ、君。まぁ、半分は冗談としてだね」

     半分は冗談じゃなんだ……。

    「君はやっていないと言う。しかし、君の持ち物であるネクタイピンが図書館に落ちていた。これは、どういうことか分かるかな?」

     問われたその内容に答えるべく考え込む。

    「……それより前に、僕がたまたま図書館で落としていた、とかですか?」
    「それも可能性としては有り得るね。でも、図書館は毎日綺麗に清掃させていて、落とし物があったら見つけ次第すぐに落とし物ボックスに転移される仕組みだ。ちょっと考えづらいよね」

     彼女の言う内容に、「確かに……」と納得した。でも、だったら他に何があったら僕のネクタイピンが落ちることになるんだろう。再び考え込む。

    「じゃあ、誰かが僕のネクタイピンを拾って、それをたまたまその日に図書館で落としたとか……?」
    「惜しい!それにしても君、随分とお人好しだね。流石、オウィス・フラーウム寮生だ」
    「あ、ありがとうございます……?」

     褒められたと、思って良いのだろうか。なんだか100%褒められたわけでは無い気がして、やや疑問形になってしまった。

     そんな僕のことは気にせず、彼女は「まあそれはさておき」と話を続けた。続けた。

    「もっと有り得る可能性があると、私は思うわけだよ」

     そう言われて、再び考える。けれど、僕の頭ではこれ以上は出てこなかった。諦めて彼女に「と、言いますと……?」と続きを促す。彼女は少し迷うような素振りをしてから口を開いた。

    「……まぁ、言ってしまってもいいか。悪意を持った誰かが、君を犯人に仕立て上げるために君のネクタイピンを図書館に落とした」

     言われたその言葉は、正に目から鱗だった。そうか、そういうことも有り得るんだ……!

    「……でも、どうして?」

     半ば独り言のように呟くと、それもエミリア・ロンサール先輩は拾ってくれた。

    「流石にそこまでは、私の知るところではないね。君自身で調べたまえ」
    「そう、ですよね……ありがとうございます」

     そう言って、彼女に向かって一礼。頭を上げてから、ふと気になって「ちなみに」と問いかけた。

    「そのネクタイピンは返していただけるんでしょうか?」
    「そうだね、君のものだと言うならば返そう。……と、言いたいところではあるのだけれど」

     そう言いながら、その言葉を裏付ける様にネクタイピンを机の引き出しに仕舞う。

    「生憎と、これは証拠品になってしまったからね。事件が解決するまでは、私が預かっておかねばならないんだ。すまないね」
    「そうですか……」

     やや沈みながらもそう返す。そうか、そのネクタイピンも事件が解決するまではお預けなのか。

    「さて、他に何か聞きたいことはあるかな?」

     彼女の明るいトーンの言葉に顔を上げる。他に聞きたいことは……

    *メモについて[jump:A]
    *メモについて
    /P.18/
    「メモについてなんですが……」
    「ああ、君が普段使ってる席から出てきたっていう、例のものだね」

     言いながら、彼女は机から古びた紙を取り出した。それを机の上に広げる。

    「見るかい?と言っても、君はもう見たことがあるんだっけ」
    「だから、僕はやってないんですってば……」
    「はは」

     机の上に広げられたそれは、古代ルーン文字で書かれていた。……古代ルーン文字、一応取ってるけど、あんまり得意じゃないんだよな。すぐに、なんて書かれているのか分かる程、僕は古代ルーン文字の成績が良くない。 
     ……と言うか。

    「これ、僕が書いたものじゃない……」
    「うん?君はさっきからそう言って……ああ、筆跡のことかい?」

     ひっせき、という聞き慣れない単語に首を傾げれば彼女は「筆の跡、と書いて筆跡と読むんだ」と説明を添えてくれた。

    「なるほど、君は、これは自分が書いたものでは無いと言うんだね。……ただ、これは古代ルーン文字だから、普段使っているものに比べて文字の癖なんかが判別しにくい。昔だったら、筆跡鑑定、なんて技術もあったらしいけど、今は廃れてしまっているしねえ……」
    「そうなんですか……」

     その技術が残っていれば、僕の無罪は証明できたんだろうか。そう考えて、しかしすぐに頭を振る。今はないものを強請ってもしょうがないだろう、と自分に言い聞かせた。

    「あの、ちなみになんですけど……」
    「なんだい?」
    「これ、なんて書いてあるんでしょうか……?」

     恥を忍んでそう問えば、彼女はごくごく不思議そうに尋ねて来た。

    「……君、古代ルーン文字取っているって話じゃなかったっけ?」
    「お恥ずかしい話、期末試験も赤点ギリギリだったんです」
    「なるほどねぇ……」

     そうなのだ。面白そうだと思って取った古代ルーン文字は、その実一般学で言う数学的側面があって中々理解が出来なかった。

    「もし良ければ、時々図書館で勉強会なんかもしてるから、君も参加すればいいよ」
    「そうですね、もし見かけた時は、そうさせてもらいます……」

     肩を落としながらそう答える。僕にも、教えてくれる存在が身近に居れば違ったんだろうかなんて頭の隅で考えた。

    「それで、なんて書いてあるか、だけど」

     切り替わった話題に、思わず背筋を伸ばす。「はい」と返せば、彼女は話を続けた。

    「これは、図書館についての情報が書いてあるね。ここ、一番上が、図書館に先生が居ない時間。次が、図書館に人が少ない時間。それから、こっちは禁書棚の場所についてと、禁書棚の中で、持ち出す本がどこの何段目においてあるかについて。最後に、禁書棚にかけられている魔法を解く方法が書いてあるね」
    「なるほど……」

     それにしても、ここまですらすらと答えることができるなんてすごい人だなあ。流石青寮だ。そんな風に思っていると、彼女は「さて」と言って僕に向き直った。

    「他に聞きたいことはあるかな?」

    *ネクタイピンについて[jump:A]
    *エミリアの態度について[jump:A]
    *もう聞きたいことは無い[jump:A]
    /P.19/
    *エミリアの態度について
    「どうして、そんなに親身になってくれたんですか?」

     そう、不思議に思っていたのだ。彼女は青寮で、僕は黄寮の生徒。彼女が、僕にここまで親身にしてくれる理由は無いはずなのだ。
     彼女は、驚いたように目を丸くしてから、少し間を置いて言った。

    「はは、君、面白いねえ。せっかくだし、教えてあげようかな。……今回の件に、酷く心を痛めている人が居てねぇ。私は、その人の心の澱を、早く取り除いてあげたいだけなのさ。だからまぁ、つまるところ君のため、というよりはその人のため、だね」
    「なるほど……?」

     理由を聞いたけれど、結局のところ僕では良く分からなかった。でも、結果的に僕に親切にしてくれているのだからいいか。そう自分の中で結論を付ける。

    「さぁ、他に聞きたいことはあるかな?」

    *もう聞きたいことは無い[jump:A]
    /P.20/
    *もう聞きたいことは無い

    「大丈夫です、ありがとうございました」
    「まぁ、真犯人捜し、頑張ってくれたまえよ。私も、事件が解決することを祈っておくさ」

     そう言ってくれた彼女に頭を下げて、僕は彼女の私室を出た。

     さて、この後はどうしよう。

    *クルール・ドレイパーを探す[jump:A]
    *もう調べることが無いので、一度寮に戻り情報をまとめる[jump:A]
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