帰る場所 唐突に鳴った電話、取った相手はサギョウ。
どうした? と聞くより早く向こうから話が始まった。
『いやもう参っちゃいましたよ』
周囲の喧騒からして居るのは繁華街だと窺い知れる。
『同期会だって聞いてたから行ったのに──』
そうだな、俺もそう聞いていた。
『なんか、指定の店に着いたら知らない人も何人か居て〜──』
サギョウは走っているのだろう、弾んだ息遣いが声に混じる。
『何のことはない、蓋を開けたら合コンだったんで、適当な口実でっち上げてシンヨコに帰ってきたとこです〜』
そうだと知っていたら行かなかったのに、と零すサギョウに、それは大変だったなと応えたら、
『いや僕は別にいいんですけどねぇ』
と、続いた言葉はため息混じり。
『人数的にね、アレしちゃったから……』
聞こえていた喧騒が消えた、サギョウは自宅に近付いたのだろう。
『主催にはこっそり会費渡して、急な呼び出し入ったから帰る、って言って店出たんですよ。そしたら──』
電話口から聞こえた金属の触れ合う音は、すぐ近くから響くものと同じ。
それは、部屋の鍵を開ける音。
「『連絡先だけでも、って、追っかけて、聞いてきた、ひとがい、て──』」
重なった、電話越しの声と、視界の中の、声。
帰ってきた自宅の玄関先で、スマホを耳に当てたままのサギョウ。
そのサギョウの部屋の玄関で、スマホを耳に当てたまま待ち構えていた俺。
ばちっと視線があった瞬間、同時に笑った。
「『そういう相手は、もういるので』って、断ってきました」
「ありがとう、大好きだぞ」
繋がりっぱなしの通話を切るのももどかしく、スマホを放って互いを抱きしめ合った。
「居てくれるとは思わなかった」
「何かあれば迎えに行こうと思っていた」
けらけらと笑い合って転げた廊下、サギョウが持っていた袋を掲げた。
「ねえ、先輩も、一緒に酒飲もう? せっかく先輩との時間惜しんで行った同期会だったのに、碌に飲めないまま帰って来ちゃったから悔しくて、たくさん買ってきたんだ!」
「ああ一緒に飲もう、俺もどうにもやきもきして、ここにいてしまったぐらいだ!」
手探りで取った缶を開けて、一息で飲んで、それからまた、互いに大きく笑って──
好き
と、言い合いながら交わした食むような口付けは──
何にも例えられないくらい、幸せなものだった。