余韻 暑い。熱い。
冷房、の、設定温度、を、もう少し下げておけばよかった、と、思った。
真夏、の、昼前の、触れ合いは、予想以上に汗が皮膚を濡らす。
頬から髪から身体中から、雫は流れて落ちて止まらない、それはお互いさま。
寝台は頻繁な交換が難しい故、防水敷布を敷いてからさらにその上に一般的な敷布を敷いているけど、今日はその二枚とも交換した方がいいだろうな、と、達したばかりのぼんやりとした頭で僕は考えていた。
でも何にせよ、先ずは風呂に入ろう。温水の温度も今日はいつもより下げよう。
そんなことを思いながら僕は自分の首元に顔を埋めている先輩の濡れた髪を指先ですいた。
「……先輩、シャワー行こ」
擦り寄せた鼻先、汗だくのはずなのにいい匂いしかしないのはなんでだろう。
「……先輩?」
僕から身体を離そうともせず、覆いかぶさったままの先輩は言葉も発しない。
「……寝てます?」
「寝てない」
うなじで動く唇、ようやく得られた反応だけど体勢は相変わらずのまま。
「……せんぱい、僕あっつい。風呂入りたい、それからシーツも替えたい、今日は全取っ替えする〜……」
要望を伝えながら撫でた背中もびしょびしょ、先輩だって早くこれをどうにかしたいだろうに、
何だって今日はいつまでも引っ付いてるんだろう、という、疑問は
「……もう少し、こうしていたい」
という、先輩の要望で弾け飛んだ。
その声はどこか、うら悲しい響き。
ああ、そうか。
背中を撫でる手を止めてしまったのは一瞬、すぐに力を込めて抱きしめた。
「……すみません、慣れて、きちゃってました」
「……っはは」
くつくつと揺れる先輩の肩、その声はさっき感じた物寂しさが気の所為だったんじゃないかと錯覚させるくらいに楽しげだった。
「それはそれで良いものだ。サギョウにとって、『当たり前』になってきているという意味だろう?」
顔を上げた先輩の、額に張り付いた前髪を除けるとそこにあるのは眩しい金色。
「俺にとっての『特別』も、サギョウにとっての『当たり前』も、基準が違うだけで良好であるのに変わりはない」
お互いに寄せた唇もやっぱりしっとりと濡れていて、重ねた端から垂れた滴もまた敷布を濡らす。
「……っふ、悪かったな引き留めて、そろそろ」
「まだ、いい」
唇と一緒に離れかけた身体をもう一度引き寄せた。
「サギョウ?」
「風邪なんかひきやしませんよ、これだけあつかったらね」
汗はしばらく引きそうにない。困ったように眉を八の字にして笑う先輩に、ふんと鼻を鳴らしながら、
冷房の設定温度は、これで良かったのだと先の考えを撤回しつつ、僕は愛おしい人の唇にもう一度キスをした。