現代同級生AU 年末自分の部屋の大掃除をしていた時机の上でスマホの画面が点滅していた。
確認する為藍忘機は、手に持っていた掃除機を床に置く。
数名から連続で同じ言葉がつづられていた。
「後は任せた、とはどういう意味だ」
そう呟いたと同時に魏無羨という文字が目に入ってすぐ通話ボタンを押した。
「ちょ・・・お前電話出るの早いぞ」
電話ごしに笑い声が聞こえて藍忘機が大きく息を吐いて椅子に腰をかけた。
しばらく彼の笑い声を聞いていたが一向に止まる気配がないので大きく咳ばらいをした。
「はははは・・あーお前は俺を笑い死にさせたいのかよ」
「笑えないことを言うな」
「悪い悪い・・怒るなって。あっそうだ藍湛、明日一日空いてないかな」
明日と言われて机の卓上カレンダーを見る、いや見なくても分るのだが明日は大晦日だ。
「大晦日に一日空いてるとか聞いてくるのは君くらいだ」
先程のラインの言葉の意味はこれだった。
同級生の聶懐桑・金子軒・温寧・江澄から
〔明日の魏無羨のバイトの手伝ってやれorあげてください〕
「実は明日のバイトなんだけど一緒に入る子が風邪をひいちゃったみたいでさ・・無理だと思ったけどだめ元で江澄とかに頼んだけどやっぱ年末は家族旅行とか親戚の集まりとかで無理だったんだよ」
私に一番最初に聞いてくれなかった事に少しイラついた。「藍湛・・ねぇ聞いてる?無理ならいいよ。多分一人でも大丈夫だと思うし・・その年末の忙しい時に悪かった」
〔俺の家族年末年始旅行に行くからあいつひとりになるから一緒にいてやってくれ〕
これは江澄から任せたの後続いた文章。
「魏嬰、本当に私で良いのか。その君のバイトの手伝いは・・・」
「えっ、良いのか?うんうん、もちろん大丈夫だよ。本当に助かる、ありがとう藍湛詳しい内容はメールで送るから明日頼んだよ」
ホッとしたのか声のトーンが高くなっていた。
「では明日会おう、今から叔父さんと兄さんに話をしてくる」
「先生とお兄さんによろしくとご迷惑かけてごめんなさいって言っておいて」
「うん」
スマホから耳を少し離した時小声で
「藍湛は頼りになる恋人だよ・・す・・続きは明日」
通話を終えてホッと大きく息をはいた、まさかあの藍湛にOKしてもらえるとはスマホを抱きしめてベットにダイブして早速バイトの内容をメールで打ち始めた。
ちなみに俺と藍湛はみんなには内緒なんだけど付き合っている―恋愛対象でそう恋人同士だ。
暫く通話が切れたスマホを見つめていたがドアをノックする音で我を取り戻した。
「は・・はい」
「すまない忘機電話中だったのかい」
自室のドアを開いて兄の藍曦臣がすまなそうに声をかけた。
「いえ、今終わった所です。今電話で魏嬰から明日バイトの手伝いを頼まれたのですが・・その行ってきても良いですか」
自分の洗濯物を持って来てくれたのか手渡しながら話を始める。
「まぁ今年はどこにもでかけない予定だし父さんの方も大丈夫だと言っていたが平気だと思うが念のために叔父さんにも聞いてごらん」
「はい、あともうひとつお願いしたいことが・・」
十二月三十一日
バイトの内容は来年干支の兎の着ぐるみと兔耳をつけたメイド服の様な黒い衣装を着たコスプレ。
「魏嬰」
兔の着ぐるみを半分来てパイプ椅子に座っている藍湛の前に立つと両手で綺麗な顔を優しく包む。
「ん?お前にこのコスプレさせるわけにはいかないからこの微妙に可愛くない着ぐるみでいいからな」
笑顔で話しながら藍湛の柔らかい頬を堪能する。
「待ってくれ魏嬰」
うさ耳カチューシャをつけた魏嬰が振り向く。
「なんだよ、もしかしてこっちが良いのか?でも駄目だと思うぞ」
魏嬰はそう言って藍湛の前に立って両手でペタペタと胸板を叩いてその後両腕を背中に回した。
「こんな所で何をしてる」
抱きついたまま目を細めながら顔を上げて
「藍湛の体格だとこの衣装が破れるだろう」
「あ・・ああまぁ確かにそうなのだが。でも今君が着ている衣装・・本来女性が着るものではないのか」
「そうだよ。今日これなかった子は女の子だし・・まぁでも衣装大き目のサイズがあって良かったって痛い痛いって力いれるなよ」
無意識に抱きしめる力が入ってしまい慌てて手を離した。
「もう、お前は心配性だな。俺はお前以外とはお付き合いしないよ、するつもりもない」
腰に両手を置いてふんと鼻息を吐いた。
「だがその恰好を君がというか他の人に見せるのは」
トンと魏嬰の細い指が藍湛の唇に触れた。
「本当藍湛は可愛いなぁ~それに以前クラスの出し物、演劇で女子の代理で女役をやったじゃないか、あんたの相手役で・・俺は役得だったけどねー」
可愛いのは君の方だと言いかけた時バイト先の責任者の人が今日の仕事の内容を説明する為に入ってきた。
「とりあえずこれウイッグ・・その本当に大丈夫かい」
「お客さんはほぼ家族連れだし、集めたポイントスタンプ確認とこの可愛い兎の置物を渡してあげるんだよね、難しい話は社員さん任せにしてもいいんだろ」
大丈夫という言葉は男性の魏嬰が女性のコスプレをすることを心配しているのだろうと藍湛は思ったのだが当の本人は全く気にしていなかった。
ウイッグを手に取るとカチューシャを外し藍湛の隣の椅子に座って櫛とゴムとリボンを藍湛に手渡した。
「藍湛本日の俺に似合いそうな髪型にして」
「うん」
社員さんは二人は仲が良いんだねと言いながら手際よく髪を整える姿を見つめていた。
「まぁそうなんだけど、魏くん本当すまないね・・でも似合ってるから私も驚いてるよ、急なお手伝いのお友達の藍くんも来てくれてありがとうね。しかも着ぐるみ・・とか勿体無いイケメンなのに」
「いえ気にせずに、髪は一つにまとめてアップにしたがどうだ?」
「ありがと気に入った。そうこいつイケメンだろ、イケメンが兔耳とメイドさんぽい恰好したらお母さんたちが寄ってきて交換すること忘れて撮影会に・・・うぐ」
大きな手が俺の口をふさぐ。
「すいません彼に今日のバイトの時間帯とか細かい内容を聞いてないのでおしえてもらえませんか」
バイトはハプニングもなく平和に終わった、着ぐるみのバイトは何度かした事があったのだが、藍湛が入った兎の着ぐるみは子供達に蹴られたりパンチされたりとか何故か酷い目に合わなかった・・俺の時はタックルとかまでされたのに。
俺の方は遠目から見たら女の子に見られて近くまで来て声をかけようとしたお兄さんたちがいたのだが何故か青い顔して去って行った。
「やっぱ男バレて寄って来ないかー」
魏嬰は全く気づいていなかった兎のきぐるみから発せられる殺気にびびって去って行った事を・・・。
「あの・・こっ・・交換お願いします」
下の方から声がして視線を下げると小学生位の男の子が引換券を差し出していた。
魏嬰がニコリと笑って視線を合わる為にしゃがんで
「待ってろ~今交換するからね」
そう言って交換券を受け取って軽く頭を撫でた。
「はい、おまちどさま~」
「ありがとう、お姉ちゃん」
笑顔でお礼を言うとぺこりとお辞儀をした後その場から走っていく。
「おい、走ると転ぶぞ」
案の定小石につまずいたのか子供が前に倒れそうになるが兎の着ぐるみが支えて助けていた。
『微妙な可愛さの着ぐるみなのにめちゃくちゃにカッコいいぞ藍湛』
魏嬰がそう思っていたがそれを見ていた周りの人達も同じ事を思っていたようだ。
「ねぇあの着ぐるみなんかさカッコよく見えない」
「ああ見える・・デザインは微妙なのにな・・おかしいな」
そんな事を言っているのが魏嬰の耳にも入って腕を組んで無言で頷いた。
『中の人を見たら驚くだろうな・・しかし本当にかっこいいなぁ~俺の藍湛』
ゆらりと視界が暗くなって顔を上げる。
着ぐるみの大きな手が俺の顔を包んだ、周りの人たちがざわめいていた。
魏嬰は兔の顔に近づくと小声でどうしたと聞いてみるとぐりぐり額をすりつけた。
「ん・・ああそろそろ交換時間が終わるのかな」
藍湛がこくりと頷いた。
俺は大きく息を吸って声を出した。
「そろそろ交換会を終了します、まだの方いますかー」
二人のやりとりを見て立ち止まった人と呼び声に気づいて数名の人がやって来て交換分の引き換えは無事終了した。
そして着替えを終わらせる前に記念撮影したいと魏嬰が言い出し、兔の着ぐるみにお姫様抱っこされるメイドさんをリクエストされた。
「二人共今日はありがとう、魏くん・・そして藍くんも助かったよ」
日雇いなのでバイト代が入った茶封筒を手渡された。 二人で受け取りお礼をいう。
店から出ると冷たい風が吹いて魏嬰が身体を縮めて震えた。
「うー寒いなぁ」
「今夜は特に冷えるそうだ」
駅の方まで歩いて行く、俺は地元だが藍湛は隣の駅だから送っていく形だ。
駅の改札前で俺は藍湛に今日の件でまたお礼を言おうとしたがスタスタを駅にあるコインロッカーの方に歩き出したと思ったら一つのロッカーを開けると少し大き目な鞄を取り出した。
「藍湛、その荷物は・・あれもしかして今から家族旅行に行くの・・いやお父さん達に会いに・・」
首を横に振ると藍湛が魏嬰の前に立つと
「年末を君と過ごしたい、両親と叔父さんと兄さんには許可は貰っている」
魏嬰の小さい頃は長い休みがある時は江家と過ごしていたらしいが高校に入学してからバイトを入れ家族旅行に参加しなくなったそうだ。
「えっ・・え・っと、でも年越しはやっぱ家族と・・」
こういう時はしどろもどろになってしまう魏嬰を護りたい傍にいたいと思ってしまう。
「後は君の許可だけだ」
そう言って魏嬰の風で冷たくなった頬を撫でた。
年末だから人が少ないとはいえ駅前で焦りと嬉しさで頭の中がぐるぐる回しながらもたどだどしく答えた。
「も・・もちろん許可する。俺、すっごく嬉しいよ藍湛」
嬉しそうな魏嬰の笑顔を見て藍湛が手を頬から背中に回そうとした時、
「あっ、年越しそばとか買ってない、一人だと思ってカップ麺しかないや、あとおせちなんかもちろんないしお餅もないな・・うんうん」
あははとから笑いする魏嬰を見てため息をついた後腕を掴んでスーパーへと向かう。
「藍湛?なんで怒ってるの・・」
「買う」
「何を買うの?あっ、久しぶりの泊まりだから予備が少ないから足しておくのかな」
魏嬰が肘でツンツン突きながら
「なぁなぁ、藍湛どうする?あっ年始も出来るってことは、姫はじ・・・っていきなり立ち止まるなよ」
ピタリと足を止めて真顔で魏嬰の顔を見た。
「えっ、違うの」
「それも・・・買う」
耳を真っ赤にしながらぷいと顔を背けて答える恋人を見て可愛いと思いくすくす笑ってしまった。
年越し蕎麦やお餅小さなおせちセットとかお菓子とか飲み物が買い物かごに詰め込まれていった。
会計を済ませて魏嬰の住む家に向かう。
「誰かと一緒に年越しするなんて本当久しぶりだよ」
「去年は?」
「んっ?去年は一人だよ」
他人事の様に答える横顔を静かに見つめる。
彼の両親は小さい頃事故に巻き込まれて亡くなったそうだ、彼を守るように抱きしめられ生き残った。
「言ってくれたら・・」
「お母さんの体調良くなってきてるのか?」
「うん、来年の春休みに兄さんと叔父さんと会いに行く」
身体の弱い母の為幼い頃から両親とは離れて暮らしていた、会えるのは年に数回、今年は兄の大学受験もひかえているという事で春休みになった。
「そっか、良かったな。早くみんなで暮らせると良いね」
「ありがとう、今年は君と・・・」
藍湛の目の前に立つと嬉しそうな顔と声で
「今年は、俺といてくれるんだろ」
「うん」
ごそごそと家の鍵を出してカチャリと開けた。
家族と暮らしていた一軒家、一人で住むには大きいが両親が残してくれた大事な家だと言ってくれた事があった。
「おじゃましま・・」
「おかえり藍湛」
言葉をさえぎって魏嬰が静かに言った、言った後に真っ赤な顔をして玄関にへたり込んだ。
「どうした魏嬰」
「あっ、いやその言ってみたくなったんだよ・・自分の家で誰かに・・おかえりって言葉を、悪い藍湛」
自分の荷物と買い物袋を玄関前の廊下に静かに置いてしゃがみこんでる魏嬰を抱きしめる。
「ただいま魏嬰」
抱きしめ返してくれる腕を感じて呟く昨日の電話の続きを聞かせてと。
二人だけの年越し、しかも好きな人との隣にいてくれるのが嬉しくて幸せだ。
久しぶりに抱きしめ合ってキスもした、それ以上の行為は卒業してからとか言っていたのに一線を俺の誕生日の日に越えてしまって月一でと約束した。
「今夜はお前の好きに抱いて良いよ」
「うん」
すうすうと眠っている藍湛の寝顔を見ながら良い夢が見れそうだと思いながら魏嬰も静かに目を閉じた。