無題 重湯を持って病室を訪ねると、善逸は寝台に座ってぼんやりと前を見ていた。
「おはよう」
返事はない。重湯を寝台のそばにある物入れの上に置いて窓を開けると、静かに吹く風がカーテンを揺らす。彼の隣に腰を下ろすと、寝台といっしょに彼の体もわずかに揺れた。とん。肩が触れあい、善逸はゆっくりと首を巡らせ、俺を見た。昨日はなかった反応だ。
「善逸?」
期待を込めて彼の名を呼ぶが、彼は時折ぱちんと瞬く他には何の動きも見せてくれない。そのまま少し待っていたけれど、風が金の髪を揺らしただけだった。
ため息をこらえ、俺は重湯をかき混ぜた。うっすらと色のついたそれを匙ですくい、唇に軽く当てて温度を確かめる。重湯はぬるいくらいだった。火傷の心配はいらないだろう。
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