お菓子をくれなきゃ血を吸うよ?【お菓子くれなきゃ血を吸うよ?】
「ハッピーハロウィーン!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃいますよ!」
「おかしくださーい!」
「おかしもらいにきたばい!」
経理処理をしていると、部屋の前に仮装をした短刀の子らがいた。今日はなんかの祭日かい?と聞いたところ、ハロウィンという答えが返ってきた。はろうぃん?初めて聞く言葉だ。博多によると、古代ケルト人が起源と考えられている祭りらしい。カボチャをくりぬいて「ジャック・オー・ランタン」を作って飾ったり、子どもたちが魔女やお化けに仮装して近くの家々を訪れてお菓子をもらったりする風習などがあるようだ。ああ、だから玄関にカボチャが飾ってあったのか。理解した。
「お菓子、お菓子……あったあった。この前特売だからって買ってきたものがあったんだ。はい、どうぞ」
お菓子を渡すと、短刀の皆々は「ありがとう!」と言って手を振って廊下を歩いていく。おや、なにやら乱が部屋の前に残っている。忘れ物でもしたんだろうか。
「乱藤四郎、どうしたんだい?」
「あのね、松井さんにも衣装用意したから着てほしいんだけど」
「僕にかい?ありがとう、嬉しいよ」
乱が僕にくれた衣装は吸血鬼の衣装だった。けっこうしっかり作られている。これはけっこう値段が張るんじゃないだろうか。来月の処理がちょっと大変そうだな。
乱が帰るときに言っていたのは、その衣装を着て好きな人に会うといいよだった。ちょっと意味がよくわからないんだが。まあ、でも……さいきん豊前とは出陣と遠征ですれ違いだったからたまにはこういう趣向も良いのかもしれない。
豊前は確か先ほど遠征から帰還したのを見た。今なら部屋にいる可能性もあるな……。ちょっと行って驚かせてみようか。
今の時間はみなお昼の時間だから遭遇することはまずないはずだ。事務の部屋をそそくさと出て、僕は自分たちの部屋へと急いだ。
「豊前、いるかい?」
扉を開けると、豊前はベッドの上ですうすうと寝息を立てていた。2か月の長期遠征だったのだ、疲れない方がおかしい。僕は足音を立てずに近づいて、豊前の髪に触れた。硬いけど、少し柔らかい感触が僕は好きだったりする。鴉の濡れ羽色のような黒い色も豊前らしくて愛しい。
「……豊前、お菓子をくれなきゃ血を吸っちゃうよ?」
耳元で囁いてみたけれど、豊前の反応はない。それはそうだ。ぐっすり眠っているのだから僕の声は聞こえていなかった。ちょっと寂しかったけれど、事務処理に戻ろう。月末は忙しいから困る。ベッドから降りようと足を床につけた次の瞬間――僕は腕を掴まれていた。気が付けば、眼前には豊前の顔。整理ができていなくて口を震わせていると、豊前が舌なめずりしたのをばっちりと見てしまった。
「へえ、血を吸うのか」
「ぶ、ぶぜん……っ!寝ていたのでは……!」
「寝てたぜ?でも、あんな可愛いこと言われたら起きるに決まってンだろ?で、まつはなにが欲しいんだ?」
「それを僕に言わせるのかい?」
「まつの口から聞きてえからだよ」
耳たぶを食まれて身体が震えた。豊前はずるい。僕が豊前を好きなことを知っていて、わざとこういうことを聞いてくるのだ。
「……ぶぜんのが、ほしい、よ。お菓子じゃなくて、君のを注ぎ込んでほしい……ッ」
「よくできました」
今日の行為は珍しくゆっくりだ。身体を味わうように、豊前は僕の胸や腿の付け根を舐めて、噛んでは痕を残す。そう、まるで僕は豊前のモノだと言わんばかりに。まだ触れられていない奥が疼く。豊前が欲しくて欲しくてたまらないと主張をしている。
「ぶぜ、はやッく……ッ」
「わーってるよ、挿れてほしいんだろ?」
布越しに豊前の熱いものを押し当てられて、そこが締まった。かわいい、と豊前が呟く。同時に快楽を与えられて、もう頭がぐちゃぐちゃだ。僕が限界だった。はやくきて……と手で豊前の背中をなぞる。これが合図。刹那――指とは比べものにならない熱に貫かれた。
そうだ、これだ。この熱が欲しかった。お菓子より、僕は豊前がほしい。久しぶりに肌を重ねたこともあって、僕たちは時間を忘れて体温を分け合った。