冷静と情熱の間「松井、すまねえ!」
部屋に来た和泉守兼定が両手を合わせていきなり謝るものだから、僕はつい首を傾げてしまった。
聞けば、昨日は新選組、三名槍、太郎次郎のメンバーで酒盛りをしていたらしい。そこへ遠征を終えた豊前と桑名が加わってすごいことになったらしい。騒ぎすぎて、へし切長谷部が怒っていたのはそのせいか。
実はその中に媚薬成分が入ったお酒が混じっていようで。万屋でジョークグッズと思い買ったのだが、遅効性のガチのものらしく……それを豊前が飲んでしまったと言うのが顛末だ。
「道理で、今朝は起きてこないわけだ」
「面白がって買ってしまった私たちも悪いのです。松井江、申し訳ありません」
太郎太刀が深々と頭を下げてきた。お酒の席なのだし、ハメを外したくなる気持ちは分からないでもない。
「そんなに謝らないで。飲んだのは豊前なんでしょう?それは飲んだ方にも責任はあるから。また、豊前と飲んでやってください」
「松井江、ありがとうございます。弟によく言って聞かせますので」
「ちょっと兄貴!?アタシの所為だって言うのかい!?」
「貴方があれこれと買いこんだからですよ」
「松井、今度からは一言声かけるわ。その方が安心するでしょ?」
「うん、ありがとう。加州清光」
これから出陣と遠征だと言う面々を見送り、僕は豊前の部屋へと向かうことにした。幸いにも月末月初の忙しい時期は過ぎたから、事務処理はゆっくりできる。
厨に寄って水分と軽食、冷たいタオルを持っていくことにした。
「豊前、入るよ?」
「まつ、い……?」
豊前の息は荒い。風邪と言われればそうとも見えるが、瞳はぎらぎらと燃えているし、頬から耳まで朱に染まっている。これは完全に行為のときのカオだ。
「聞いたよ。調子が悪いんだってね。水は飲めそうかい?」
「飲みてえ、けど……まつに手ェだしそうで怖え。まつ、悪いことは言わねえから早く出ていった方が……っ」
「ムリに決まってるでしょ。そんなに具合悪そうなのに」
「これは、具合じゃなくて……っ!」
僕は豊前の額に自分のを重ねてみた。熱は思ったよりも籠っている印象だ。これは早く放出しないと豊前が辛いだろう。
「おれは。おれは、こんなふうにまつを、だきたく、ねえんだよっ」
腕を掴まれたと思うと、僕はベッドに押し倒されていた、豊前の腕が震えている。
豊前はいま、必死に耐えていた。自分の腕を噛んで、欲情に耐えているくらいに僕を優しく扱おうと言うのが伝わってきた。ほんと、君は僕に優しいんだから。
膝で豊前の硬い場所を突くと、豊前の口から「う、っ……」と声が漏れた。豊前はわかっていないなあ。僕にだって君に欲情するのに。そんな姿を見せられたら、僕だってむりなんだよ?
「ま、つっ!」
「そこに溜まってるもの出さないとキツイでしょ」
「だからっ、それは俺ひとりで……っ。まつ、早く離れてくれっ。俺の気が変になる前に…!まつ!」
豊前の息がさっきより上がっている。それすらも、僕は愛しく感じるんだ。
「いいんだよ、豊前。大切にされるのも嬉しいけど、僕はそれ以上が欲しい」
豊前の首に腕を回して抱き寄せる。長い口づけを交わしたあと、豊前の瞳が好きな色に変わった。
***
「まつのナカ、ぴんくだな」
「ひ、あ……っ!?」
豊前の舌が粘膜を拓いていく感触に、背中が粟立つ。やめてほしいのと、続けてほしい気持ちが入り混じって足に力が入らなくなる。
豊前とこういう関係になるまで相手のものを口に含むなんてことは想像もしていなかったけれど、好きな人のは違う。ずっと含んでいたいと思うんだ。上顎を刺激されるのも、喉の奥を突かれるのも全部快感に変わるから不思議だ。飲むことすら抵抗がなくなっていた。
「……ったく、飲むなって言ってンだろ」
「豊前のは別……。僕の中で混じったら、身体の一部になるだろう?」
「まったく、どこでそんな言葉覚えてきたんだか。……まつ、挿入たいから、こっち来てくんね?」
「ん……」
豊前と向き合って、僕はゆっくりと腰を下ろす。侵食されていく感触に身体中が悦んでいる。豊前を離したくないし、離れたくない。
「ぶぜ……っ!まって、そこはっ」
「気持ちいいか?」
「ん、気持ち、いい……ぶぜん、まって、イッちゃう、イっちゃうから……っっ」
首を激しく噛まれたと思えば、豊前の熱が最奥に放たれた。その瞬間、目の前がちかちかと明滅する。身体中が泡立つ。僕の全身で、豊前を好きと言っている。
(もっと、もっと君が欲しいよ。豊前。激しくていい。僕なしじゃ生きていけないって思ってほしい)