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    紫雨(shigure)

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    紫雨(shigure)

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    2021年7月22日の、薛洋の誕生日に寄せて書いた単話です。
    🍬🍬🍬薛洋生日快乐!!🍬🍬🍬

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #薛洋
    xueYang
    #暁星塵
    venussDust
    #阿箐
    turnip

    甘露 「「夢見の飴?」」
     義荘の中で、薛洋と阿箐の怪訝そうな声が揃った。
    「はい、なんでもこの飴を舐めると、その人が望む夢を見られるそうですよ」
     買い物籠を抱えた暁星塵は、にこにこと微笑みながら二人の疑問に答える。その手のひらには、薄緑の油紙に包まれた飴玉らしきものが、四つ乗せられている。
    「あんたはまた、そんなもんに引っかかって……」
    「道長、それ一体いくらで買ったの?」
     暁星塵が一人で町へ買い物に出ると、たまにこうして押し売りにあって胡散臭いシロモノを持ち帰ってくるものだから、薛洋も阿箐も慣れた様子だ。薛洋は薄ら笑いを浮かべつつも呆れた風を装い、阿箐はこのお人よしの道長が、今度はいったいどんな詐欺にあったのかと、苛立った様子を見せた。
     買い物籠に詰められた野菜も、売れ残りを体良く押し付けられたようで、少し萎びたていたり、虫食いが目立つ。あまり長くは保たないだろう。
    「そんなに高かったわけではないんですよ。行商人の方が酔客に絡まれて困っていたので、少しだけ力を貸したところ、お礼にと安く譲っていただけたんです。普通の飴を買うのと同じくらいでした」
     ということは、大層な触れ込みで売りつけているだけの普通の飴だろうな、と市井で揉まれて育った二人は当たりをつけた。
    「それが本物かはわからないけど…………まあ、飴に罪はないもんね。道長、それ一つちょうだい」
     切り替えの早い阿箐が、暁星塵にねだる。要するに、ただの飴を買ってきたと思えばいいのだ。暁星塵とて、財布に余裕があるわけではないから、いくら騙されたとしてもあまり高い買い物はしないし、値段をごまかして伝えるようなこともしない。
    「はい、どうぞ」
     最初からそのつもりだった暁星塵は、飴を二つ阿箐に手渡し、今度は薛洋の方を向いた。
    「あなたもどうですか?」
     残った二つの飴を、薛洋に差し出そうとするが、疑り深い薛洋はすっと目を細めて腕を組み、拒絶する。
    「よくそんな怪しいものを、毒見もせずに人に差し出せるよな」
    「ちょっと! そんな言い方しなくてもいいでしょ!」
     暁星塵の人の良さに呆れることもある阿箐だったが、さすがに薛洋の暴言は見過ごせず、暁星塵に代わってぷりぷりと憤慨する。
     ところが当の暁星塵は、その嫌味が堪えたようでもなく、素直に感心した様子だった。
    「ああ、そういう考え方もあるんですね。言われてみれば、確かにその通りだ。では、私が先に食べてみましょう」
     そう言うと、包み紙をくるくると解いて、中にあった飴を取り出した。ころんと転がった琥珀色のそれは、やはりなんの変哲もない普通の飴玉に見える。
     暁星塵は、臭いを嗅いだり、舌先で変な味がしないか確かめることもせずに、そのまま口に含んだ。
    (あーあ、こんなにお人好しで、こいつはよくこれまで無事に旅を続けてこれたよな)
     人を騙したり疑ったりするのは当然のこととして世間を渡ってきた薛洋には、暁星塵の純真さが信じられなかった。しかし、結局こうして仇敵である自分なんかを拾って、面倒を見ることになっているのだから「無事」とも言えないかと、くつくつと笑う。
    「味は、普通の飴ですね。何か変なものが入っている様子もなくて、美味しいです」
     飴を口に含んだまま、懇切丁寧に感想を伝える暁星塵を見て、薛洋に悪戯心が芽生えた。
    「ふーん。それじゃあ、俺ももらおうかな」
     薛洋は、差し出された暁星塵の左手を取り、暁星塵の身体ごと自分に引き寄せて、口づけた。 
    「っ!」
     突然目の前で行われた不埒な行いに、阿箐は悲鳴を呑み込んで、割って入りたい気持ちを必死に抑えた。盲人であるふりをしないといけない以上、何も言えない。
     そんな阿箐の葛藤をよそに、薛洋は舌を暁星塵の口内に潜らせて、余裕たっぷりにぐるりと飴の在処を探した。溶けた飴が舌先に纏わりついて、どこを探っても甘い。
    「あんた、今なにか道長に変なことしてるでしょ! 道長から離れて!」
     これ以上は黙っていられないと、阿箐が苦し紛れに叫んだ。
     暁星塵の口の中で舌先を丸めた薛洋は、飴玉を掬いとると、もう用はないと暁星塵を突き放した。
    「変なことって、なんだよちび」
     小さくなった飴をがりっと噛んで、薛洋はせせら笑った。
    「変なことは変なこと!」
    「話にならないな」
    「道長も、なにかこいつに言ってやってよ!」
     何を見たとも指摘をできない阿箐は、被害者である暁星塵の弁を求めた。
     暁星塵は、唇に手を当ててぼうっとした様子だったが、阿箐に声をかけられてようやく口を開いた。
    「何も私の食べかけでなくとも、もう一つ飴は残っていますよ」
     そして、もう一度薛洋に残った飴を差し出した。
    「そういうことじゃない……」
     呆れた阿箐は肩を落とし、薛洋は鼻白みながらもその飴を受け取った。

     ――――――子供の泣き声が聞こえる。
     泣けば誰かが助けてくれるという、甘ったれた考えで特権を振りかざす行為が、薛洋はことの他大嫌いだった。
     泣き声の主を突き止めて、泣くことすらできないほどに殴りつけてやろう、と考えた薛洋だったが、その音が自分の体から出ているのだということに気付き、ぎょっとした。
     瞳からぼろぼろと溢れる涙を袖で拭う。手のひらは砂だらけになっており、両膝からじくじくとした熱を感じる。転んだのが痛くて泣いていたようだが、そんなことで自分が泣いただなんて、薛洋は自分が信じられなかった。
     呆然と手のひらを見つめたまま座り込んでいる薛洋の前に、誰かが立ったのか、幼い体を優しい影が覆った。
    「洋洋、おいで」
     そっと、手が差し出される。
     その声と、手の形で、相手が誰だかわかってしまった薛洋は、顔も上げられないままに固まった。言葉に含まれた愛情の甘やかさに後頭部がびりびりとして、その痺れが全身を支配して動けない。
     ふふっ、と吐息のような笑いが聞こえ、目の前のその人もしゃがみこんだ。
     そして、薛洋の両脇に手を差しこむと軽々と小さな体を持ち上げて、屈託のない笑みを見せる。
    「薛洋」
     晴れ渡った青空の下で、薄く品の良い唇が自分の名前を口ずさむのを薛洋は凝視した。
     二つの黒い瞳が、あどけない表情をした薛洋を鏡のように映している。
     その瞳に触れたくなって伸ばした左手には、五本の指が揃っていた。
    「あっ……」
     暁星塵の雪のような道服が眩しくて、薛洋は一瞬目をつぶる。転んで泣いた時に拭いきれなかった涙が、ぽたりと暁星塵の白皙の頬に落ちた。
    「痛むんですか? もう大丈夫ですよ」
     暁星塵は目をすがめると、小さな体を抱きしめる。
     固く縮こまっていた薛洋の体はやがて、優しく撫でさする暁星塵の手の温もりに溶かされていった。擦りむいたはずの膝は、いつの間にか痛くなくなっている。
     これまで感じたことのない安らぎにまどろんでいた薛洋の脳内に、昼間に聞いた暁星塵の声が響いた。
    『この飴を舐めると、その人が望む夢を見られるそうですよ』

    「誰が!」
     自分が上げた声の大きさに、薛洋は跳ね起きた。
    「誰が、こんなことを望んでいるって?」
     今度はあまり大きな声は出さなかったが、その声色には、抑えても抑えきれない激しい怒りが滲んでいた。
     とにかく腹が立ってしょうがなかった。
    「う……ん」
     寝所の隅で、筵にくるまった暁星塵が呑気に寝返りをうつ。
     この頭を蹴り飛ばしてしまいたい――――――。
     そんな衝動が沸き起こった時だった。
    「道長! わたしもうこれ以上は食べられないよー!」
     隣室から響いた阿箐の幸せそうな悲鳴に、毒気が霧散した。
    「くそちび」
     どうせ、寝床がわりの棺の中で、よだれでも垂らしながら眠りこけてるに違いない。あんな子供の寝顔なんかに興味はないが、代わりに暁星塵がどんな夢を見ているのか、寝顔を確かめてやろうと思った。
     窓から射す月の灯りが、暁星塵の姿をふわりと白く浮かび上がらせている。古びた義荘の中で、そこだけ異端の神々しさがあった。
     屈み込んで観察すると、泣いているのか、目を覆う包帯にじんわりと涙染みが浮かんでいた。
     暁星塵が小さく口を開く。
    「子琛…」
     哀しげに知己の名を呼ぶ声を、それ以上聞きたくない――――――。
     薛洋は、咄嗟にその口を己の唇で塞いだ。
     重ねた唇が、ひんやりと冷たい。
     薛洋の熱が、ゆるゆると暁星塵の唇に伝わった頃、暁星塵の口角が控えめに上がって、笑みを作った。
     暁星塵は、薛洋を軽く抱き寄せて、夢でしたように背を撫でた。
    「大丈夫ですよ。あなたの傷が癒えるまで、あなたが私の元を離れるまで、一緒にいます。だから、泣かないで」
    「泣いてない!」
     暁星塵を押しのけて反論するが、暁星塵は横になったまま何も反応しない。
     すぅすぅと、穏やかな寝息が聞こえる。
     寝言とわかれば、わざわざ起こして物申す気も失せて、薛洋は荒々しく寝床に腰を落とした。
     横になって目を閉じたが、今夜はもう、どうしても眠れそうになかった。
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