人曦×人魚澄③「人間が術を使うなんて初めて聞いた」
「?人魚も術をつかうのですか?」
「あぁ。俺たち人魚が使うのは水に関する術だ。水流を操ったりとかな。一応、例外に近いが変化もできるぞ?今は怪我のせいか、簡単なものしか使えないがな」
ほら、と言って江澄が人差し指をくいっと曲げると湖から水が球体になって出てきた。それは江澄の掌の上で魚の形をとったと思ったら彼の手から離れて藍曦臣の周りを泳ぎ出す。やがて魚は鳥となり、羽ばたき始める。鳥は二頭の馬となり宙を駆ける。二頭の馬はひとつに纏まり虎となった。水でできた虎は湖の方へ駆けて行くと魚に戻り、湖へと還っていった。
「凄い…。」
「気に入ったのか?これはな、ほとんどの人魚が修行を始めた頃に習うものだ。こうやって水と自己の協調を行うことで、水をよく知るんだ。」
藍曦臣達修士も仙術を扱うが、江澄がみせたみたいに自然に直接干渉する術はほぼ存在しておらず、仮にあったとしても莫大な霊力を必要とするため実質的に誰も使えないのだ。もしかしたら、伝説の抱山散人ならばできるのかもしれないが、少なくとも修真界にいる修士は誰もできない。
それくらい自然に直接干渉するというのは凄いことなのだ。
「ところで藍曦臣。」
「はい!」
江澄に初めて名前を呼ばれたことに思わず声が大きくなる。驚いたのか目を丸くすると同時に、人間なら耳にあたる場所にある鰭がピルッと震える。
その鰭は動くのか…。と内心思いながらも驚かせてしまったことを謝る。
江澄は気にしていないと言うと、
「碧霊湖に着いた時、どうやって待ち合わせるんだ?」
と、尋ねる。
「それなら私が御剣して湖の旋回をするので、何か合図をくれませんか?」
これなら江澄も見つけやすい筈だ。
江澄は暫く考え込んだあと目を合わせる。
その瞳の美しさに心の臓が跳ねる。先程と同じような跳ね方をする心の臓に不思議に思いながらも彼の言葉を待った。
「俺が人魚の言葉で藍曦臣のことを呼ぶ。人魚の言葉なら人の言葉に比べて遠くまで届くから、貴方が空にいても聞こえるだろう」
「確かにそれなら聞こえるかもしれませんね」
「じゃあ聞こえたら岸に上がっても見つからないとこに誘導してくれ」
そんな会話をし、残りの時間はゆっくり話をした。