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    アンリ

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    アンリ

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    兄上お買い物からかえってきました!

    #曦澄

    人間曦×人魚澄⑦ 馴染みの店へと向かうと店主に迎え入れられ、店内の品を見始めた。ところが何にするか決めたのはそれから一時辰経っていた頃だった。手に小包を持ちほくほく顔の店主に見送られ店を出た藍曦臣はそのまま碧霊湖に戻った。
    「江澄!戻りました!」
    ぷかぷかと顔だけ出して浮かんでいた江澄を覗き込めば杏型の瞳が一瞬大きく開かれる。それから不満を示すようにキュッ!!と一声鳴く。
    「遅かったな。待ちくたびれたぞ」
    「すみません。どれも貴方に似合いそうだったものですから、つい…」
     ハァ、とため息をついた彼はで?と切り出す。
    「何を買ってきたんだ?」
    「簪です。これなら水中でも動きの妨げにならないかと」
    「簪…。藍曦臣が頭に刺してるやつか?」
     そう言って藍曦臣の束髪冠を留める簪を指さす。
    「ええ。そうですよ」
    「こんな細っこいので髪なんて纏まるのか?」
     買ってきた簪を取り出すと興味深そうな顔で手元を覗き込んでくる。すると、キュ!と小さく声を上げた。
    「なぁ藍曦臣、これ。ここについてるのって蓮の花か!?」
    「正解です。貴方にはどれも似合うだろうと思っていたのですが、やはり蓮が一番ですね。一目見てこれだ!と思いました」
     簪に掘られた銀の蓮をキラキラした眼差しで見ていた江澄はクルリと後ろを向いた。どうしたのだろうと思っていると、早くしろと声をかけられる。なるほど。早くつけてみたくなったらしい。ただ、それには一度藍曦臣も腰を落ち着けてしたい。なんせ先程から御剣しながら会話していたのだ。別にこのままでも支障はないがどうせなら色々結い方を試してみたいのだ。そのために何かに座りたい。
    「江澄、あそこでやりましょう」
    クゥと短く返事をし、彼はそこへ泳ぎ始めてしまった。思ったより速く泳ぐ江澄に慌てて藍曦臣も剣を飛ばした。
     岸に腰を下ろした江澄の後ろへ回り、髪を触る濡れているはずなのに指通りは滑らかでちっとも引っかからない。水中での動きやすさを考えると一つに纏めた方がいいだろう。だがそれだと物足りなさを感じる。手が熱くなりすぎないよう時々手を冷やしながら髪を編んでいるとくすくすと肩が揺れる。
    「江澄、ちょっと動かないで」
    「…ふ、ふふっ。くすぐったいんだ」
     何がくすぐったいのだろうかと思えば、自身の指がその項に触れていることに気付く。確かにこれはくすぐったいだろうし、人には触られたくない場所だ。
    「すみません。嫌でしょうが少し我慢してください」
    「別に嫌と言うわけじゃないし、あと口調。さっきみたいに崩してくれて構わん」
    「そういうことなら遠慮なくするよ。……よし、できた」
    鏡を渡すと江澄は後ろを見ようとしていた。さすがにもうひとつ持っている訳では無いのでどうしようかと思っていると、江澄が指を軽く振った。すると水が江澄の後ろに板状の形で浮かび水鏡となった。ひとしきり確認したあと満足そうにしていた。
    「これは…凄いな。こことかどうなってるんだ?」
    「ここは髪を編んでいるんだよこの紐をみててごらん。ここを、こうやって…」
    「ほぉ…」
    見本に手元の紐で編んでいるところを見せると興味深そうに覗き込んでいる。キョロキョロと辺りを見回した後江澄は湖に潜り、戻ってきた時に手に水生植物の茎を三本持っていた。
    「藍曦臣、もう一度教えてくれ」
    「わかった。じゃあ、もう一度今度はゆっくりするから一緒にしてみよう」
    二人きりの三つ編み教室。木々よって隠されたそれは周りから見えることなく開催された。
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     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
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     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
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    「ど、どうした」
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    「よかった、あなたをお守りできて」
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