君の頬を染めるのは「あーっ、任務も終わったし飯でも行こうぜ」
ひと仕事終えて私の少し前を背伸びをしながら歩く悟が振り返る
「そうだね、何にしようか？」
「ん、傑は何食べたい？」
なんかいまいち決められないんだよなと言って私に決定権を委ねてきた
「んー、じゃあ蕎麦かな」
「げぇ…こんなさみぃ日に蕎麦かよ」
「悟が決めろって言ったんだろ、それに温かい蕎麦もあるだろ」
「ん、まぁそうだけどさ」
「ほら、お店閉まらないうちに行こう」
「おう」
不満があるなら自分で決めたらいいのに
心の中でそう思ったが今それを言ったら間違いなく喧嘩になる
お腹が空いているときの喧嘩は避けたいのでグッと心の中でとどめた

”キンッ”

その時金属のような何かが地面に落ちるような音がした
「悟、なんか落としたんじゃないか？」
「え、ああ」
私は上半身を屈めてその何かを拾った
陽が落ち始めていたせいで辺りは暗く良く見えないがチェーンの付いたペンダントか？写真を入れられるタイプのようで落ちた拍子に閉じていた部分が開いてしまっていた
悟も好きな人の写真でも入れているのだろうか、案外女々しいところがあるんだなと拾い上げるとそこには
「えっ、私？」
その瞬間に手から強引にひったくられる
「っ、ありがと、早く行こうぜ」
そう言った悟の耳はほんのり赤く染まっていた

ズズッ…ズズッ…

蕎麦を啜る音だけが脳内に響く
口に運び咀嚼し飲み込む
それを繰り返し段々と腹は満たされていくのにも関わらず食べている蕎麦の味がしない
目の前の悟は熱そうにハフハフとしながら温かい蕎麦を幸せそうに口に運んでいた
「傑、食べねえの？」
麺伸びるよ？と暢気に聞いてくるこの男は一体何故私の写真入りのペンダントを持っていたのか
こっちはそれが気になってしまって落ち着かないというのに


「ご馳走様でした。」
「まいどー」
ガラガラと店の引き戸を開けると外には白い華が舞っていた
「さっぶー」
そう言った悟は私にグイグイと身体を寄せてきた
「悟、歩きづらいからやめてよ」
「えー、寒いんだからいいじゃん」
そう言う悟の口からは白い息が吐かれた
こうなってくるとなんだか全部白いな
「すぐる？」
そんなことをぼうっと考えていると下から顔を覗き込まれた
さっき食べていた蕎麦の油せいだろうか唇がやけにつやつやしていて妙に色っぽい
さらに寒さのせいか鼻と耳がほんのり赤くて可愛い
悟って可愛いな？ん？
自分の中にモヤっとした感情が一瞬湧いたが直ぐに蓋をした
「っ、なんでもない早く帰ろう」
「変な傑ーついでに前髪も」
「おい、悟？」
「なんでもありませーん」
「そうだ悟、ペンダントの写真何で私なの？」

悟の頬が寒さで赤くなったのとは少し違う赤に染まった気がした

「べ、別に何だっていいだろ！」

素直じゃない悟も可愛い
寒さと宙に舞う白い華のせいだろうか
ギュッと喉奥が詰まる感覚、心拍数が上がった
私は、これに覚えがある

「ゆっくり行こうか」
「なんか言った？」
「言ってないよ」

私の心に芽生えたばかりのこの気持ちはまだ伝えるほどのものではない
時間は沢山ある
ゆっくり、ゆっくりいこう


【悟side】

見られた、見られた、見られた
このペンダントに好きな人の写真を入れて身につければ恋が叶うなんて言い出したの誰だよ
いや、つーかポケットに入れてたのすっかり忘れてたし
何で落とすかな俺！
アイツ絶対ドン引きしてたじゃん。
どうすんだよこれ！
責任取れよ【恋が叶う♡おまじない100(仮)】書いたやつ！！
帰って鏡見たら唇油でテッカテカだしよ！
まじカッコつかねえ、明日からどうすんだよこれ。
「あっつ…」
外には雪がちらつく
帰宅したばかりの部屋の中もぶるりと身体を震わす程には冷えていた
それなのにも関わらず俺の身体は熱を持ち額には薄っすらと汗をかいている
「だっせぇ…」