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    nochimma

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    nochimma

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    おチェズとスープと去年の誕生日のお話 まだ付き合ってないけどモクチェズです ニンドリとファンブネタがいっぱい

     茸や魚、蛙は、目の覚めるような色をまとって、自らに毒があることを示すという。
    「ささ、召し上がれ♪ちと苦いかもだが、それもまた風味、っちゅうことで」
    「……」
     年輪が複雑な波模様を描く無垢の一枚板の机の上、自分の前にのみ敷かれた生成りのクロスに仰々しい動きで深皿が乗せられた。本日のシェフ、手ずからのサービングだ。
     目の前に佇むのは、皿の八分目までなみなみと注がれた、具沢山のスープ。それだけなら別に問題はない。むしろ、スープはかれの好物だ。
     ではなにがチェズレイを無言にさせているかといえば、その色だった。まさに毒をもっていることを全身でアピールするような警告色、目を引きすぎる、鮮やかなイエロー。さらには同じ色をした、というかおそらくこの黄色の源泉であろうちぎれ雲のようにふわふわとした『何か』が、具材を覆い隠すようにして表面に浮かびまくっている。
    「…………」
     ……これは、なんだろうか。
     少しだけ頭を傾けて、すん、と息を吸うけれど、鼻を抜けた香りの主体はムール貝のエキスをふくよかに含んだコンソメ、そこにディルとフェンネルといった香草が爽やかに絡み合って……そこで終わり。怪しすぎる黄色の正体は残念ながら掴めなった。食用の黄色と言えば一般的にはサフランだが、『苦い』という但し書きと結びつかない。そもそもあの浮いているものはなんだ。サフランは花から色が出るはずだし……。
    「……、」
     嘆息。考えても仕方ない。スプーンを握って、黄色の海に漕ぎ出して、手前から奥へとそっと掬う。具材のサイズはまちまちで乱雑で、これが斜め前で手を後ろに組んで緊張の面持ちでこちらを眺めるエプロン姿が作ったものであることを否応にも意識させられる。
    (――彼女の切る食材は、いつだって定規で測ったかのように、寸分の狂いもなく揃っていた)
     まるで、毒のような色をしたスープ。
     わたしが求めたスープ。
     あの日、飲めなかったスープ。
     震えそうになる指を叱咤して、強張りそうになる身体を意識して緩めて、そう、と口を開く。ごく近くまで来ても、『隠し味』の正体はいまだわからない。
     でも、飲むと決めたのだ。わたしが願ったのだ。今度こそは、と。
     ……なぜチェズレイがこんな奇怪なスープを飲む羽目になっているかと言えば、それは、相棒に誕生日プレゼントとして強請ったからにほかならなかった。


     今日のような単独行動での仕事は、そう多くはないが皆無ではなかった。いつもいちどは渋られるものの、必要性を説けば、モクマはいつも最後はこちらの意見に従った。だからとすっかり油断していたところに、ひとつの相談もないまま勝手に動いてオークション会場に集った虫たちを哀れ一網打尽にし、結果として、今日まで綿密に立ててきたチェズレイの計画もズタズタに崩された。しかも、野蛮な怪盗はともかく、心優しいボスの好意まで利用して。そのくせちゃっかり、必要な情報は取ってくる抜け目のなさ。
     だが、髪が逆立つような怒りは、彼が勝手をはたらいた理由を聞いた途端にあえなく鎮火してしまった。
    ――曰く、待合室の画像をタブレットで見たチェズレイの表情が消えたから、と。
    (……くだらない)
     と、思った。
     『消えた気がした』、たったそれだけ。それだけで、それ以上を問いただすこともなしに、一人で勝手に計画を立て、気取られることなく先回りして、仲間まで使って全てをつぶす。勝手な男だとは知っていたが、本当に勝手だった。下衆の名に恥じぬ狼藉。
     ……確かによく、似てはいた。日付まで同じかと偶然の悪戯に笑いたくはなったが、でも、べつに、それだけだったのに。
     そんなフラッシュバックもトラウマも、いくらだって持ち合わせはあったし、そのすべてを踏み越えてきた。今日までそうやって、生きてきたというのに。
     それなのに、彼には一瞬の動揺を気取られて、気遣われてしまった。動揺をしていなかった、と強がることはできない。まったく、詐欺師の名折れだ。相棒の前とはいえ油断していた。
     ルークからのプレゼントとして贈られた野花といい、意外と見ていることによく驚かされる。ずぼらな部分は本当にずぼらな癖して。もう出会ってからは一年ちかく、旅を始めてからは半年。未だ捲っても捲っても底が見えない男で、飽きさせられないが腹が立つこともある。確かにひとまわり歳の差はあれど、子どもではないのに。そんな心配は無用なのに。
     だからむかついて、意趣返しにプレゼントを別個に強請った。そんな返しは予想外だったのか、あまり高価なものは無理だとばかり焦る顔はすこしばかり胸をすっとさせて、
     それで……。


     遅くまでやっているストアで買い出しを済ませ、セーフハウスまで帰る車内はとても静かだった。モクマもさすがに独断での行動が過ぎたと思っているのかもしれない。反省……するようなタマじゃないから、こちらが怒っていると思っている? ちょうどいい、勝手がクセになっては困るので、チェズレイもフォローなどしない。彼は見張っていないとすぐにその身を危険に晒すのだから。
     頬杖をついて助手席から窓の外を眺める。夜遅くのハイウェイの道の左右に等間隔で並ぶ電灯の光が前から後ろに猛スピードで流れていく。こんな時間だ、周りに車もそうおらず、高級車はエンジン音も静かで、室内に響くのはエアコンのしずかな温風の音だけだ。
    (……スープ、か)
     ふう、と溜息を吐くと窓が白くけぶって視界をにじませた。
     幼い日、同じように湯気で曇ったガラスの蓋に重なって、チェズレイはふたつ瞬きをする。
     つま先立ちしてシンクに手をかけて乗り出すような勢いで、出来上がりは今か今かと熱心に見つめるとなりの息子に『熱いから気を付けてね』と苦笑しながら母がミトンをかぶせた手で取っ手を持ち上げる。瞬間熱気と共に周囲を埋める貝と香草の匂いが、この身体のなかに今でも確かに残っている。
     皿に盛られたあたたかなスープ。付け合わせはいつもライ麦のパン。ほとんど軟禁状態の邸の中に、いつもストックされていたなじみ深いルタバガ、庭で育てていたフェンネルとディル。チェズレイの好物であるムール貝は、特別な日だけ出入りの業者から買い付けてくれていた。
     たしかに、思い出の味といって差し支えない。誕生日にいつも振る舞われていた味。チェズレイにとって誕生日とはそのスープを飲める日であって、だから、困らせるためにプレゼントと言ったはいいが、咄嗟に浮かぶのがそれくらいしかなかった。
     スープ。誕生日のスープ。何年も飲んでいない、思い出の味。幸せの象徴。
    「…………」
     ツキ、と頭が痛んで、遠くの光が滲んでゆらゆらとゆらめいた。
     天気が崩れてきたようだ。外傷でできた視差は身体に強く負担をかけるらしく、よくこうやって頭が痛む。疲労が溜まったとき、体調が悪いとき、精神のバランスを崩したとき、そして今のように、気圧の変化などでも。
     目を使うのはよそう。瞼を閉じて、頭だけを動かす。
     ……あの透き通った濁りのないスープの中に浮いているのは、あたたかな記憶だけではなかった。最後のあの日、目の前に置かれた深皿。スプーンを手前から奥へと滑らして、指の震えを押さえ込んで口に含もうとした瞬間、母は大声を上げ、調味料を間違えたと言って、皿もスプーンもすべてひっくり返してしまった。
     呆然と床を見下ろすと、ムール貝の二枚の黒くつややかなアーモンド形のうつわが、その内に仕舞われたオレンジの中身が、かなしげにこちらを見つめていた。
     でも、きっと、チェズレイのほうが、もっと悲しかった。
     結局そのスープは誰も口にすることなく、流しに捨てられてしまった。片づけを手伝うことすら許されず、母はいつにも増して、シンクも皿もスプーンも、狂ったようにぴかぴかに洗っていた。
     それだけですべてを察するにはじゅうぶんだった。いいや、実を言えば、出された瞬間から『それ』には気づいていたのだけれど。
     ……思い出は、これでおしまい。そう、なるはずだったのに。
     瞼の裏に、なつかしきダイニングの風景を映し出す。クラシカルなマホガニーの天板、子どもにはすこし高い椅子。ぶら下がった電球から落ちる黄色の光。
     向かいに座っていたはずなのに、テーブルをつよく叩いた手が、ピアニストらしい白くて細く長い指が、がたがたと震えていたことばかりが脳裏にこびりついて、どうしてもその時の母の顔を思い出すことはできなかった。
    「…………」
     モクマの運転はいつもながら危なげなくなめらかで、夜を滑るように走っていく。
     記憶だけが置いてけぼりで、時間は止まらずに進んでいく。
     夜更けもいいところの時間だが、きっと相棒は帰ったらリクエスト通り、スープを作ってくれるのだろう。
     その方が良かった。変に時間が空いたほうが、余計なことを考えてしまうから。


    「さきほどのスープですが……隠し味を入れてください」
    「隠し味?」
     深夜のキッチンで腕まくりをするモクマに、チェズレイは重ねて要求を告げた。鸚鵡返しにうなずく。大丈夫だ、強請るからには、理由も理屈もちゃんと考えてある。
    「以前、私に下剤を盛られたでしょう? 出会ってすぐと……あァ、ひと月前にもありましたか」
    「……あ~、あったねえ……」
     モクマにとっては苦い記憶だろう。眉を下げて頭を掻いてから、はっとおおげさに目を剥いて「えっ、もしかして下剤入れてってこと!?」というのはあからさまなボケだったのでツッコミの代わりにぎろりと睨みつけるとあっさり「すいません……」と謝られる。ため息。
    「……そうではなく、あなた、やられっぱなしではないですか。その意趣返しと思えばいい」
    「ええ?」
    「この世は因果応報、したことは返ってくるものですよ、モクマさん。私は確かにあなたに黙って下剤を盛った。その報いを受けるのは道理で、そして、あなたにはその権利がある」
    「や、そんな、報いだなんて――、」
     何か言いたげな目。探るような視線。だが、ここで折れるようでは詐欺師ではない。自分の胸に手を置いて、あわれっぽく瞳を潤ます。
    「モクマさん、私だって罪の意識で苦しんでいるんですよ。悪いことをしてしまったなァ……って。大事な相棒にこのままストレスをかけっぱなしで良いのですか……?」
    「あ~も~……その顔ズルいって言ってるでしょうに……」
     よし、もう一押し。
    「……フフ。なんでもいいのですよ、モクマさん。あなたの下衆の本性をむき出しにしたスリリングな隠し味……期待していますよ」
    「またそういうコト言う……危険な隠し味って何さ……」
    「フ……、本当に、何だって、いいんです。何が入っていようが飲み干しましょう」
     あの日の代わりに。
     ……ああ。
     さいごに付け足されたひとり言めいた呟きが、結局のところ本心だった。勝手なことだ、人を利用しているのはどちらだ、と、内心で自嘲する。
     毒の溶け込んだ透明のスープ。
     もしも、あのときあれを飲んでいたら、
     洗い物のあと、部屋に篭ってしまった母をむりにでも引き摺り出せていたら、
     サンルームのベランダへ駆ける母に気づいて、もう少し早く止められていたら、
     自分が子どもではなく、空に身を投げたお姫様を助け出せる力があれば、
     何か、変わっていたのだろうか。
    (……なんて、)
     考えても詮無いことだ。あの日たしかに母は終わりを迎え、その愛を嘲った父を殺した、その過去はどうしたって覆されることはない。
     もしもあの日毒を呷っていたら、今度はチェズレイの方が死んでいた。それで母が救われたならよいが、結局あの父親に懸想していた時点で結末はそう変わらなかったろう。
     同じく、この行為に何の意味もないことだってわかっている。
     彼に隠し味の入ったスープを作らせても。仮に毒や下剤が入ってようと、それを飲んだところで、過去が変わるわけでもない。罪が清算されることもない。母が救われるはずもない。彼と母の因果の糸は繋がっていない。
     それでも、今はどうしようもなく、そうしたかった。きっと、ひとつき前に目の前の相棒が、異変に気付きながら下剤入りの酒を呷ったことも影響しているだろう。
     母には、できなかった。でも、せめて、相棒には。
     生きている、たいせつな彼には、その信頼を返したい。
    「……なんです?」
     ぐるぐる渦巻く感情を押し込めるようにぎゅっと手のひらを握り締めると、モクマがじいとこっちを見ていた。
     なんだ。迎え撃って見つめ返すと、その顔が急ににやりと、下衆のひかりを帯びてきらめいた。
    「……ホントになんでも飲むんだね? 言ったね? あとからごめんなさいはナシだよ?」
     よし、乗ってきた。ほっとする。
     望むところだ。
    「――ええ」


     ……で、まあ、出てきたのがこれのわけだけれど。
    (……思っていたのと違う)
     彼はきっと、またいつもの気まぐれだろう、と、そんなふうに思っているだろう。
     実際それくらいで受け止めてもらいたいところだから、いいのだけれど。
     でもなんか、こんな、警告色全開の見た目のものが出てくるとは……。
    (……まるで、毒のような色だ)
     わたしが求めたスープ。
     あの日、飲めなかったスープ。
     今度こそ、飲み干したいスープ。
     スプーンを口元に近づける。震えそうになる指を叱咤して、強張りそうになる身体を意識して緩めて、そう、と口を開く。ごく近くまで来ても、『隠し味』の正体はいまだわからない。
     でも、飲むと決めたのだ。わたしが願ったのだ。今度こそは、と。
     意を決して、一口飲んで、
    「!! げほっ! ごほっ!」
     味蕾を強烈に刺し貫いた刺激に、チェズレイは盛大に噎せた。
     ……にがい、なんてもんじゃなかった。最初のタッチはなんというかシンプルに『土』で、間髪入れずにその内側からとんでもない渋みとエグみが飛び出して、舌から垂直に脳を貫いて、吐き出そうとしたのはもはや生物としての反射反応に近かった。
    「わ~!? ごめんごめん、そんな苦かった!?」
     降ってくるのは慌てた声。……いや、たしかに言われたが。ちょいと苦いかもだが、とか。
     でも、今のはどう見てもそんなレベルじゃ……、
    (まさか……)
    「あなた……味見をされなかった……!?」
     なんとか飲み込めはしたが、食道に細かい針でも刺さったようなイガイガした感覚がある。喉を押さえながら荒い息を零して睨みつけると、モクマは水を差しだしつつ「や~、だってお前さんの誕生日だし、一番に食べてもらいたくって……」とかかわい子ぶってウィンクを飛ばした後、すぐに真顔になって、相棒がぐびぐびコップを傾けるのを眺めつつとはいえそんなに苦いはずはないんだが、とか呟きながら身を乗り出して、放り出されたスプーンで黄色を掬って口を開けて、
    「――って、苦ぁっ!?」
    「もてなす気があるのなら味見はするものでしょう……」
     大声と共に、あえなく悶絶する姿を見下ろして、はあ。今日の中で一番の、深い溜息が出る。
     何を入れたかは知らないが、信じがたい……。
     ……とはいえ。
    「今日は私のリクエストですからね。詐欺師に二言はありませんよ」
    「――いやいや、無理しなさんなって!」
     取られたスプーンを奪い返して、覚悟を決め手ふたたび深皿に沈み込ませると、すかさず手首を掴まれた。
     素早い動きだった。手袋からはみ出た素肌に太い指が回って、痛みはないのにびくともしない。「離してください」睨みつけるも力は緩まらない。見返してくるのは心底心配といった顔。
    「いくらお前さんが律義者といえども、こりゃあさすがにキツかろう。……多分、どっかで調味料を間違えちまったんだなあ……」
    「……」
     ぴく。脳裏の記憶と重なることばに、スプーンを握る指が跳ねる。しかし今の彼は焦りが先走っているようで、こちらの異変には気づかない。
    「おじさん辛党だしさ、こっちは俺が飲むから……、幸い具材はまだあるし、時間はかかっちまうが、スープは作り直して、約束の隠し味は別のに――」
    「だめ」
    「な――」
     ぎょ、とモクマの目が丸まった。
     らしからぬ端的な否定のことばに驚いたのではない。さきほどまでがっしり掴んでいたはずの手に、今度はモクマの手首が掴まれていたからだ。
     一瞬、気が逸れた瞬間を見逃さなかった。チェズレイだって必死だった。
    「ダメです、モクマさん」重ねて言う。「それがいい。……それでないと」
     意味がないのだ。その皿を、下げさせるわけにも、ひっくり返させるわけにもいかない。
     理由も説明しないのは不誠実であるとはわかっている。けれどじっと見つめてそれだけ告げると、モクマもこっちを見返して、しばし無言のまま、ふたりで見つめ合う。
    「……、……そっか」
     数秒ののち、折れたのはモクマだった。いつだってそうだ。モクマはチェズレイが本気で望めば、最後は根負けしてくれる。深くを追求しないままで。
     そうやって無理に踏み込んでこない姿勢は、チェズレイにとってはとても楽なものだった。
    「あ、」気づけば指は虚空を握り締めていた。掴んでいたはずの手は何処に。目を上げると斜め前のモクマがぱ、と手品師のように両手を広げて見せて微笑んで見せて、それからくるりと踵を返して、キッチンからなにかを取って戻ってきた。
     お玉だ。深皿を傾けて、黄色のどろどろを掬い上げると、もう一枚持ってきた皿に移していく。見下ろす表情も、続いた声も穏やかで優しい。
    「どうしてもこれがいいっちゅうんなら、まあ、いいけどもさ。代わりにと言っちゃなんだが、おじさんも小腹空いてきちゃったし、ちと分けてくんない?」
    「……」
     ……けれど、楽なだけで済ましてくれない曲者なのもこのひとであって。
     その『落としどころ』の提案は、語尾は疑問の形を成しているが、たぶん嫌だといえばじゃあやっぱり作り直そうと、そう返してきそうな気配を感じた。気配というか、確信にちかい。チェズレイがこれでないとだめなのを知りながら。つまり、実質断るという選択肢はないということ。
    (……下衆め)
     反論がないのをいいことに手早く作業は進められ、はい、と取り分けられたスープは、どう見てもこちらが少なかった。じっと見つめていると、モクマは眉をさげて笑って、「それとも、ひとりで飲み干さないとダメかな?」と、今更に確認してきた。
     それがあんまり、主人にお叱りを受けた犬のような、頼りない顔をしていたから。
    「……いえ、」
    (ずるい)
     狡い人だ。ただ自分の主張を通そうとするならば、それが自らの利益のためであるなら、無下にもできように。
     ちがうのだ。チェズレイの譲れない部分を理解した上で、それを否定しないかたちで、気を遣ってくれている。さすがにこれを全て飲むのは厳しかろう、と。それが自分がこれを生んでしまった責任を感じてなのか、他の理由なのかはわからないけれど……、
    「……いいえ」
     下衆で、ずるくて、そのくせお人好しな相棒を見つめて。
     チェズレイは、しずかに首を振った。


    「それにしてもこれは……なんですか? 黄色くてドロドロで……」
    「ウコンだよ! すりおろして入れたんだ。ミカグラでは結構有名な生薬なんだけど。二日酔いに効くんだって」
     二枚になったクロスをはさんで、正面に向かい合って座る。モクマは要求を飲まれたことにおおげさに喜んで、たちまち元の調子に戻っていた。都合のいいおとこだ。
     そうしてついに明かされた隠し味の正体に、チェズレイは目の前の男の腹の真ん中に鎮座するへたくそな縦結びを眺めつつ記憶を辿る。「ウコン……二日酔い……turmeric?」
    「ああ、それそれ」
    「……なるほど」
     まじまじと眺めて、もう一口だけ口に含む。やっぱり舌で転がすことすら身体が忌避するひどい味だが、今は批判をしたいのではない。目を閉じて、記憶の引き出しを開けていく。見つけた目当てのものと比較して、……うん。
    「……ちがいますね」
    「へっ」
    「こちらはおそらくWild turmeric……turmericとは確かに植物の分類上はほとんど同じですが、こちらの方が苦みがずっと強く、食用としてはほとんど使用されません。ただ身体によい成分は入っていますね。一説によると動脈硬化予防、コレステロールの低下、ガン予防……、しかし、二日酔いに良いとされるクルクミンの含有量が多いのは残念ながらturmericの方です」
     すらすらと告げると、理解するのにしばらくかかったらしい、モクマはぱちぱち瞬きして、「……つまり、これはおじさんがお前さんに食べさせたかったウコンじゃなかったってこと?」と辛うじて返してきた。
    「そうですね。残念ですが」にべもなく返せば、「ガーン」と漫画の効果音のような音を口にしながら、がっくりと肩が落ちた。
    「そりゃあ……効能を聞くに、尚更おじさん向きだったねえ……」
    「……先日ストアで何か買っているとは思っていましたが、こちらでしたか」
    「あ、気づかれてた? そ、そ。やー、にしてもウコンにそんな種類があったなんて……おじさん、勉強不足でした」
     やっぱやめとく? 握りこぶしをふたつ顔の下にならべてかわい子ぶって聞かれるけど、当然頷くはずもない。むしろスプーンを往復させるスピードを上げると、黙って肩をすくめられた。
     ……けっして多くない量を、飲み干すのにたっぷり十五分はかかった。警告色の残滓をのこすスープ皿を見下ろしながら、ナプキンで口の周りを拭く。
    「……それにしても、誕生日を勝手に調べ、まんまと私の仕事を取り上げた挙句……夜は祝いとでも称して酒盛りにまで付き合わせるおつもりだったんですねェ……本当、勝手な男だことで……」
    「え、なしてそれを」
     厭味ったらしく告げてやると、ぱちぱち、と目が瞬いて、返された声は本気で驚いている様子だった。……なにを言っているんだか。簡単すぎる推理だ。
    「ウコンは二日酔いに効く、のでしょう? 事前に買っていたことからしても計画的犯行だ」
    「あはは……めでたい日にはやっぱりお酒ってね……?」
     見透かした口調でつきつけてやると、図星だったのかばつが悪そうな顔になって誤魔化すように髪を掻く。ふわふわ揺れる白髪を眺めながら、チェズレイの目が剣呑に光った。
    「あなたの誕生日には下剤しか飲めませんでしたしねェ……?」
    「……うん。ま、嬉しかったけどね」
    「下剤が? 悪食ですねェ」
    「……でへへ」と笑う顔は、複雑でちょっと意味がうまくとれなかった。詳しく読み解く前に、立ち上がってキッチンへと消えてしまう。
     帰ってきたモクマはどぶろくと豆乳のボトルを抱えてきた。差し出されたものを受け取ってラベルを眺めると、どぶろくはかなり度数が低く、豆乳はチェズレイの好きなオーガニックブランドのものだった。
    「……この度数ではあなたは酔えないのでは?」
    「いつも言ってるでしょ。酔うのが目的じゃないよ。それに今日はお前さんが主役だ。……ちゅーワケで」
     口調を弾ませながら、再び立ち上がる。忙しないことだ。無言で促されて従うと、今度向かうのはキッチンではなくて……、
    「?」
    「あ、チェズレイはそのままでね」
     ダイニングから地続きのリビングへ、さらにその最奥の掃き出し窓の傍へ。迷いなく歩いて行くモクマに、ベランダに何かあるのだろうかと座らされたソファから腰を浮かせると、察知されて止められた。仕方ないので座面に戻って観客に徹することにする。
     見つめる先で、モクマがくるりと振り返る。その背景に広がるのはゆったりと波打つ緑のカーテン。この地での拠点をここに決めたとき、ふたりで選んだクラシカルなダマスク柄。もともと母の好きな柄だったが、最初に目を止めたのはモクマの方だった。似ても似つかぬふたりの趣味の意外な共通点がおかしくて、これでと決めたのだっけ。
     その、中央。二枚の布の合わせ目に、太い指がかかる。なんだ、その、オークションの目玉商品の紹介みたいな動きは。チェズレイの困惑を受けて、相棒の目が、いたずらっ子のようにきらりと輝く。
    「それでは、ご覧ください! こんなことしかできんが……、どん!」
     また漫画みたいな擬音を口にしながら、勢いよくカーテンが左右に引かれた。
    「!!」
     それで、緑の海の中から現れたものに。
     チェズレイは警告色のスープを出されたよりも、おおきく目を見開いて言葉をうしなった。
     ……すっかり降り出した雨のせいでにじむ夜景をバックに大きく映し出されたのは、ヴィンウェイ語で『Happy Birthday Chesley』という文字だった。
     ……映し出された、といっても映像ではない。そのお祝いの言葉は、A4サイズくらいの紙いっぱいに、達筆すぎる黒の筆文字でもって、一枚に一文字ずつ、つまりかなり大胆なサイズで書かれて……、窓を全面背景にして、所狭しと貼られていた。さらには窓のサッシからは細く切られた色紙が丸く鎖状に繋がって、半円を描きながら達筆を飾っている。
    「な……」
    「……って、紙めちゃくちゃ濡れてない!? 文字滲んどる! 待って待って!」
     めずらしい相棒の本気の驚愕の様子を満足げに眺めていたモクマが、一拍おいて窓を見て、惨状に気づいて慌てて駆けだす。
     ……いや、確かに。驚いた。もし、なにがなくとも自分は同じ反応をしていたと思う。こんな子供じみたメッセージも、輪飾りも、それが墨で書かれた達筆なのも、その周囲にはセーフハウスの豪奢な調度品がいつも通り鎮座していることも、全てが芸術的なまでにチグハグだ。
     でも、今一番にチェズレイの目を引いたのは、なによりモクマの字だった。
     だけど残念ながら、彼の字がとても美しい……ことが理由ではない。それはよく知っているし、好ましいことだけれど……、
     ちょうど家に着いた頃に降り出した雨。ぐっと冷えた外気温とあたためられた室温の差。それらが窓に結露を生んで、結果貼り付けられた紙は結構派手に湿って……結果文字もものすごく滲んで……、
    「あ、あれ、チェズレイ?」
    「……ぐ、……フフ……」
     もういい加減、観客ではいられなかった。立ち上がって窓際まで歩いて、残った紙を剥がすのを手伝ってやりながら、手の中の滲み文字を見つめて、こみ上げる笑いが止まらない。
    「文字……ほんとに、滲んで……ぐ、これじゃホラーじゃないですか……」
    「こ、これ以上傷に塩塗り込まんどいて……、」
     ウコンは失敗したからこっちで挽回って思ってたのに……と、しくしく泣き真似をする顔はいかにも哀れっぽいけれど……、
    「……でも、ま、お前さんにはウケたみたいだから結果オーライかな……?」
     と、上目遣いにこちらを伺いながらすぐ続けるものだから、まったく懲りていない。まあ、しめっぽくなられても面倒だからいいけれど……。
    「……これは、あなたが?」尋ねれば「うん」と頷く。いごこちの悪そうな表情に声。……こちらは多分、本心からのもの。
    「……俺だってさ、お前さんにプレゼント、贈りたかったんだよ。先月はあんないいもんもらったからさ。でも、お前は自分でなんでも買えちゃうし……とっときの野花はもうあげちゃったし……、で、前にナデシコちゃんの代筆してた時、字を褒めてくれたじゃない」
    「……それで、これを……?」まじまじと見れば、モクマは照れくさそうに「他に喜んでもらえるものがわかんなかったの」と笑った。まあ、確かに、
    「贈り物に書というのは雅ではありますが……」
     手の中を覗き見る。やっぱり紙はびちゃびちゃで、文字は悲惨なまでに滲んでいる。残念ながら彼の思惑通りにはまたもいかなかったようだ。
    (でも、そのせいで……、部屋の湿気も相俟って……)
     ……墨の香りが、よくわかる。
     もうずいぶん前の記憶。あの時は異臭だと思った。かび臭い、湿気た木造家屋の匂い。だけど今、チェズレイの中に沸き起こった感想は……、
    (……というか、)
     いつから準備していた? 全然気づかなかった。帰った頃には雨が降り出していたから、その時点で窓に貼るならば結露にも気づいて然るべきだ。書を認めていたことにも気づかなかったし、まったく気が緩んでいる。
     これまでなにかとかこつけて、薔薇だの宝石だの土地だの城だの、贈りつけられてきたけれど。
     野に咲いた花を渡されたのも初めてなら、立てた計画をズタズタにされたのも初めてで、その上こんな子供じみた飾り付けをして、なのに振り向けば机の上には酒瓶と豆乳が並んで、ダイニングには警告色の気配を色濃く残し続けるスープ皿の残骸。
     ……こんな誕生日、誇張なく人生初だった。
     眩暈がする。頭を抱えてソファに座れば、モクマも隣に腰かける。覗き込んでくる気配を感じながら、膝を見つめて問う。
    「……この私が、サプライズなど好きだとお思いで?」
    「思わんよ」即答だった。続く言葉も矢継ぎ早で、「でも、したかったの。だからしちゃった。ごめんね」
    「……」
     ゆるゆると頭を上げる。今相棒がどんな顔をしているか、確信があったが予想は裏切られなかった。片頬を持ち上げた、あの、ふてぶてしい笑みを浮かべて、モクマはこちらを見つめていた。
    「……嬉しくないと分かっているのにしたかったからする? 受け手のことを考えぬ下衆らしい発言ですねェ」
    「うん、そーなの。下衆だからさ、お前の誕生日なのに、お前を酒に付き合わせちゃう」
    「……それは、嫌だったらきちんとお断りしていますよ」
     そんな顔をしながら、自信満々の声を出しながら、でも、心中がその通りでないことなんてわかりきっている。割り込んで否定してやると、モクマはすこし目を瞠って、それから心底嬉しそうに笑って、「……そりゃあ、光栄だ」とつぶやいた。


     結局酒はソファで飲むことにした。
     大きめのぐい飲みに、豆乳とどぶろくが一対二。
     太い指が掴んで、中の濁りを揺らしながら顔の前でかかげられる。
    「……乾杯。おめでと、チェズレイ」
    「乾杯。……ええ、ありがとうございます」
     どぶろくはどこにでもある酒ではないから、豆乳割も飲むのは久しぶりだった。いろいろと試して、一番飲みやすいのがこの割り方だった。チェズレイの苦手なアルコール臭が豆乳の風味でだいぶ中和されて飲みやすい。オフィスナデシコのバルコニーで飲んだ時と比すればおそらくかなり度数は低いだろうが、それでも喉の奥からじわりと熱が這いあがって、二口三口と飲み進めるたびに、頭にやわらかな霞がかかっていくのがわかる。
     モクマがじっと、心配そうにこちらを見ているのを感じる。
    「加減しなね。おじさんのスープは役立たずスープだったので」視線通りの声がした。
     ……役立たず、だって?
    「……いいえ。じゅうぶん、役割は果たしてくれましたよ」
    「ん?」
    「……もとより、前よりは二日酔いも減ってきましたから。クルクミンもゼロではないのです」
    「……そっか」
     言い訳めいた付け足しに、モクマはやはり何も言わない。代わりに「それならよかった」と、そう続いた声がひどく優しくて、酔っぱらって弛緩した脳に、じわりと染み込んで心が震える。黙って傾けた豆乳割は、酔いのせいかあまり味がしなくなっていた。さきほどのスープの味が刺激的すぎたせいかもしれない。
     それから飲んで飲んで、同じだけの水を飲まされた、しまいにモクマが冷蔵庫から取り出したのは小さな細長いケーキだった。アーモンドパウダーをたっぷり入れた記事にコーヒーシロップをひたひたになるまで含ませて、コーヒーのバタークリームとビターチョコのガナッシュを塗り込んで層にした、オペラというこの地方で有名なケーキ。タブレットのメモを見ながら一生懸命語ってくれたパティシエからの受け売りは当然チェズレイの知識にあったものだが、なるほど悪くないチョイスではあった。この見た目、著名なペストリーブティックのものだし……、
     ……問題があるとすれば、今日のコースの組み立てだけだ。
    「苦いスープを飲み干して、つまみもない酒盛りの締めにケーキですか? ……めちゃくちゃですねェ」
     気を抜くとすぐ芯をなくす声をなんとか嫌味っぽく固めて、ケーキを頬張りながら言ってやると、隣のモクマは憎らしいことにまだちっとも酔っていない様子で、豆乳割を傾けながら「へへ……、ま、俺たちらしいでしょ?」と笑われた。
     そのまま視線が上がる。ソファに深く腰掛けて身体が沈みこむ。黒いちいさな瞳は、どこか遠くを見ているようだった。目もとに刻まれた皺に、ライトの光がおちて影をつくる。
    「一生の約束をしてさ、来世の約束までしちゃったのに、誕生日すら知らないし」
    「……」
     チグハグだ。そう言う声の中の真意が知りたくって、じっと見つめていると、「出会ってから短すぎるもんね。知らないことが多すぎるんだ」と、こちらに向き直って、フォローのように言葉が付け足された。
     酔いで揺れる視界の中いっぱいを締める、間近の笑顔は優しかった。へこんだ頬、くぼんだ目、彼の人生は顔かたちに出ている。苦労と苦悩にあふれた生涯がすこしずつ彼をすり減らしたとでもいうような、分厚い身体と反対の皮膚の薄い、肉のない顔。
     それなのに、彼の笑みはそんな印象をすべて打ち消すだけのあたたかな柔らかさがあった。温度があり、熱があり、光があって、いつもチェズレイを照らしてくれる。
     かわいた唇がことばを紡ぐ。声もまた、肥沃な大地のような、あたたかな強さに満ちていた。いつも、チェズレイをいろんな形で揺らして、今までの価値観をばらばらに壊した上で赦しをくれる、勝手で、ずるくて、やさしい声。
     そっと、フォークを中空に浮かしたまま止まるシルクの手袋の上に、モクマのごつごつした手のひらが乗せられる。
    「チェズレイ。俺たち、これからもずーっと一緒なんだからさ。足りない分は、これから埋めてきたいと思うよ。お前といろんなことをして、いろんな時間を過ごして……、もっと、お前を知りたい……」
    「……そう、ですか」
    「……うん……」
     もう、正直、このケーキがどれだけ素晴らしい苦みと甘みのバランスで構成されているのか、相棒がいやにまじめな様子でなにを言っているのか、霞がかったチェズレイの頭のなかにはいまいち浸透していなかった。だって、ウコンには二日酔い防止の効果はあれど、酒に強くなるわけでもない。
     だけど、ただ、笑顔が優しくて。
     声が優しくて。
     手袋越しの手が、温かくて。
    (……気が、抜けてしまう……)
    「わっと」
     フォークが指から零れ落ちたのを、モクマがキャッチするのを見たのが最後だった。瞼の欲求に任せて目を閉じて、無遠慮にとなりの肩に頭を乗せると、驚いた声は聞こえたが、それだけだった。頭だけではなく容赦なく体重をかけているのに文句の一つも言わないで、かわりにもう片手に残った空のケーキ皿だけを取り上げられてしまった。机に陶器がぶつかるコト、という音が小さく響いて、それきり部屋はしんと静まる。
     正直、ぜんぜん楽な体勢ではなかった。座ると身長差は縮まるといえ(ふかく考えてはならない)それでも向こうの肩の位置はこちらの頭を置くにはだいぶ低い。肩枕は背の高い相手にやるべきだ。
     それでも、今、チェズレイはそうしたかった。酒に溺れて、いつもの明晰な思考が雲にかかって、理屈とか理由とか美学とかをこねくりまわす余裕も無くなって、ただダイレクトに欲求が身体を突き動かす。
     だって、彼は許してくれる。それだけは確かだから。
     暗闇のなかから、ひかりの声がする。
    「……おやすみ、チェズレイ。来年もいい誕生日にしようね」
     ほら。ほらね。
     とびきり優しい声とともに、またかたい指が優しく手を撫でて、それからそっと身体が浮き上がるのを感じる。明日の朝、起きたら隣のベッドで「おはよう」とあなたは笑ってくれる。
     ゆらゆらと揺れる身体。あたま。来年だって。来年の約束が一年ずつ積み重なって、そうでなくとも彼はわたしが約束を守る限りそばにいてくれて、なんと来世まで約束してくれた。
    (なんて)
     なんて幸せなことなのだろう。取りこぼさないように、抱かれた腕に丸まってぎゅっとしがみつく。ふ、と、笑う吐息がふりそそいで、わたしの身体を埋めていく。
     十二歳の誕生日は、スープを飲み干せなかった日。
     今日、あの日の代わりにスープを飲めた。
     成人を迎えた誕生日は、復讐の炎がともった日。
     よく似たあの場所に行くことを、過保護なニンジャさんが止めてくれた。
     誕生日をこれほどに幸福なものだと思ったのは、本当に、十何年ぶりかのことだった。

    (ウコンスープ……効果があるといいのだが……)
     だってそうしたら、相棒の二日酔いを気にする守り手が、もっと気兼ねなく晩酌に誘ってくれるだろうから。
     二十八歳の誕生日は、世界征服をねらう詐欺師らしくもない、そんなささやかな願いと共にはじまった。

    おしまい
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    Replies from the creator

    nochimma

    DONEあのモクチェズJD/JK長編"spring time"(地球未発売)の待望のアフターストーリー!わかりやすいあらすじ付きだから前作をお持ちでなくてもOK!
    幻想ハイスクール無配★これまでのあらすじ
     歴史ある『聖ラモー・エ学園』高等部に潜入したモクマとチェズレイ。その目的は『裏』と繋がっていた学園長が山奥の全寮制の学園であることを利用してあやしげな洗脳装置の開発の片棒を担いでいるらしい……という証拠を掴み、場合によっては破壊するためであった。僻地にあるから移動が大変だねえ、足掛かりになりそうな拠点も辺りになさそうだし、短期決戦狙わないとかなあなどとぼやいたモクマに、チェズレイはこともなげに言い放った。
    『何をおっしゃっているんですか、モクマさん。私とあなた、学生として編入するんですよ。手続きはもう済んでいます。あなたの分の制服はこちら、そしてこれが――、』
     ……というわけで、モクマは写真のように精巧な出来のマスクと黒髪のウィッグを被って、チェズレイは背だけをひくくして――そちらの方がはるかに難易度が高いと思うのだが、できているのは事実だから仕方ない――、実年齢から大幅にサバを読んだハイスクール三年生の二人が誕生したのだった。
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