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    fukuske5050

    たまに文章書きます
    その時その時でだーーーーって書きたい部分だけ書いているので突然始まって、突然終わります…
    ▪️書いてるもの
    ・どらまいどら(のつもり)

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    fukuske5050

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    まとまりませんでした…挫折…😫😫😫
    いろいろ適当…😭
    梵マとさくらの話
    ドラマイ マイドラ …まで行き着かない…

    #ドラマイ
    drabai
    #マイドラ
    mydra

     いったいどうしてこんなことになったのか、未だにもって腑に落ちない。追い立てられるように最低限の身支度をして最低限のメンバーで足を踏み入れたのは、情報もヒトの目も届かない山奥の崩れかけた旧館だ。
     壊れ傾く鉄の門をくぐればその先には蔦の這う古ぼけた館が見える。門の先へと促す石畳は乱れ所々に穴が空き、砂利と雑草にまみれている。車を降りて踏みしめた古い敷石がぱしりとなる。まるで行く先を拒むように思え、歩みを止めれば咎めるようにぱしりと鳴って、意を決して先を進めばやはりぱしりぱしりと鳴って足元を急かす。
     動きを見張る気配にぞわり背筋が震えた九井の歩みが止まる。それに気が付いたのは、ひとつ前を歩く鶴蝶だ。「どうした」と九井を窺ってくる。鶴蝶の低い声にはっとして、窄めた肩の強張りが解けて九井に冷静が帰ってくる。
    「いや…大丈夫だ」
    そう答える九井に「そうか」とだけ返した鶴蝶は、それ以上は踏み込んでは来なかった。
     時を飛び越えた古めかしい風情のその場所は、久方ぶりの来訪者を待ち構えていた。

     この寂れた旧館は、長い間誰も足を踏み入れることがなかったのだろう。どことなく埃の舞う部屋の窓を開けようとすれば錆びた蝶番のこすれる音が酷く耳障りだ。古びた窓は歪んで硬くなってそうそう簡単には開かない。力任せに開けようとすればギギギと鳴って神経を逆なでる。長い間誰にも相手にされていなかったのだと訴えるような手強い感触に九井はため息をつく。 
     くそっと短く悪態を吐いて開け放った窓からは焼けた草木の甘辛い匂いが舞い込んで鼻につく。匂いを追ってのぞいた先には中庭が見えた。中庭の奥へと行く小さな後ろ姿は佐野に違いない。
     視線の先で佐野の後ろ姿は薄暮れる空に飲み込まれていく。目の前で佐野が紫紺に飲まれていく光景が九井にはなぜだか薄気味が悪い。気味が悪いと感じたのは沈む色か、果たしてその下を浮遊する佐野なのかはわからない。
     沈み暮れる壊れた景色の中を佐野の後ろ姿が遠のいていく。ゆらゆらと揺れるそれは、見えるはずもない鬼火のように九井には見えた。

     昏れた奥庭を歩く佐野は、ふいに呼び止められたような気がして目についたひと際大きな桜の樹に触れる。
     触れた幹は内側から乾き、ささくれだった皮の端はくるくるとめくれ上がる。乾いた皮の先端は棘となって佐野の指の腹をぷつりと刺す。痛みは無い。皮膚を破る違和感にじっと目を向ける。指には茶色の小さな破片が埋まり突き刺さっていた。指に刺さる棘を摘まもうと触れ、けれどそれは逆にぷすりと飲み込まれていく。薄い皮膚の下、皮一枚の下に透けて見える枝の破片がじくりと佐野を責める。
    「痛みを、あげる」
    突然届いた囁きに佐野は頭をあげる。声の主を探して辺りを見回し、行き着いたのは目の前の桜。見上げた空には蜘蛛の巣のように伸びた無数の枝が這い、薄い桃色の花を咲かす。幾重にも絡む枝に咲く薄い色の花たちが佐野を見下ろしている。空を覆い絡まる細い枝には白と桃色を溶かした希薄な彩りで身を寄せ合って咲く。見上げる佐野をはらり花びらが舞う。
     乾いて空洞になった軽いからだからひょろひょろと細い手足を伸ばして藻掻き、逝く先を見失い絡み合う。媚びるように白く抜けた色の花は憐れなものだ。
    「あなたは似ているから」そう佐野の耳にだけ届く。降りてくる花びらを手のひらに受け、佐野は薄く笑う。佐野は胸の内に巣食う、あの男を桜に思う。

     食が細くなったことは自覚している。なにを口にしようと同じ、べしゃりと潰れた屍骸の欠片。どうせ味覚はとうに手放している。何を口の中に放り込んでも歯をぐにゃりと押し返し、少しも砕けずに口腔の水分を奪うだけ。閉じ込めるように唇を閉じて歯を咬み合わせて出口を塞ぐ。放り込み閉じ込めた咥内で舌でつついて転がして、どうにか飲み込もうとしても、乾くばかりで喉を通ることはない。口の中を占領する塊に耐え切れず口の中いっぱいに指を這わして抉り、えずいたところで僅かな液体を喉の奥から掻きだすだけだ。競り上がる圧迫感に、たまらずうずくまれば口の端から透明な液体がこぼれ出す。口から細く長くしたたる液体すらも薄く希薄な色をして、からだの中の空洞を見せつける。
     空っぽになったからだの中に、記憶に甘く胸に重たい餡を落とし込めば喉にも胃にもずっしりと重たくて、荒れた粘膜を焼く。弱まったからだに甘い記憶が酷く重く痛みを生んで、佐野は好んでこの味ばかりを口にする。
     窪んだ眼は視界が狭まり、望むものはこの目には映らない。枯れて薄皮がむけた唇はかさついて硬くなっているけれど、あの男が触れることもないならば興味はない。
     色の抜けた髪は短く切った。青白い皮膚は病的で、頭とからだを繋ぐ首は皺が浮いてとぐろのように巻き付いて、取ってつけたようにひょろりと細い。首に指を這わせると触れたうなじにはあの男を遠ざけた理由がある。
     鏡に映る覇気の薄れた顔から目をそらす。もうあの男が佐野を目にしても、それが佐野ではないかと想像すらしないだろう。あの男の記憶とは似ても似つかないほどに変わり果ててしまえばいい。あの男が今も自分を忘れずにいることを願った分だけ、醜悪な姿になればいいと願う。鏡に映る自分の姿に、佐野はそれでいいのだと思う。
     ひとめ会ってしまえばきっと心は崩れてしまうから。出逢うことを拒む理由なら幾らでも、ひとつでも多く、ひとつでも強くあればいい。
     洗面所を出たところで佐野と九井は出くわした。九井は無表情の佐野には何も言わず、佐野の乱れた髪を直す。スと髪に触れると髪に隠れていた小さな花びらがひらりと舞う。それはひらひらと九井の視線を逃れて佐野の肩口を伝って足元へと落ちた。
     佐野は足元の花びらには無言のまま背を向け離れて行く。佐野の背から花びらに視線を移せば、とたんに九井にはぞわりとする感触が込み上げる。九井はもういちど佐野の姿がないことを確かめて、眉をしかめてそれをゴミ箱へと捨てた。



     佐野の姿が見えない。ふらりとひとりで中庭を出歩いている。昨日も、今日も。それに気がついていたのは九井だけではなかった。
    「散歩だろ。1時間もしないで帰ってきてる。そんなこと、今に始まったことじゃねぇ」
    「こんな人の目もないところでなにかがあるとは思えないが」
     佐野の言動には三途も鶴蝶も細心の注意を配っている。そもそも身を隠すようにしてこの地を訪れたのも辺りを窺う邪魔な輩から佐野の身を眩ますためだ。小うるさい邪魔ものは粛清を進めるほんの少しの間だけ、佐野の気休めになればいい。この地を訪れたのはその程度のことだった。
     渋谷から遠く遠く遠く離れ、人の目を逃れ身を潜めるために訪れた場所。あたりには民家も人の目もなく、切り離された場所。土と草と木々。時間から投げ捨てられた場所を守る壁のように桜が咲く。ここは人の目を遠く逃れたささやかな要塞だった。
     頻繁な散歩も佐野の気まぐれであればいい。そんな気を起こすほど佐野に感情が残っていればいい。誰かの目の届くところにいる佐野はいたって変わりのない様子で、それが一層、九井の違和感を強くする。
     かたんと窓の外を叩く風の音に振り向くと窓の遠くには桜の木が並ぶ。少し離れた場所にぽつんと立つ1本に人影が近づいていく。黒い服に白い髪。広がる桜の笠の下にふらふらと歩いて行く。気になって窓際に近づくと、人影はがくんと前のめりに膝を折って倒れこんだ。
    「ボス!」
    叫び九井は部屋を出て、階段を駆け下りる。人の手の入らない忘れさられた旧家の屋敷だ。部屋と部屋を繋ぐ廊下も無駄に長い。階を繋ぎ緩くうねる長い階段以外に下へ降りる手段がない。駆け降りる歩幅と階段の幅が微妙に合わない。急ぐ気持ちばかりが先を行き、足は絡まり進まない。
     長い階段を駆け降りて広間を通り中庭へと飛び出した。荒れた芝生の中庭を突っ切って蔦の絡まるアーチを抜ける。アーチには野生に尖った葉がひしめいて見知らぬ来訪者にざわついている。邪魔をするものもなく悠々と日差しを浴びて、てらてらと緑を深くするこの小道は苦手だった。
     舗装の砂利が、見知らぬ顔の九井の靴を滑らし先を急ぐ足先の邪魔をする。中庭を通り抜けてアーチの先、短い階段を抜けると小さな奥庭に出る。そこは朽ちた花壇をぐるりと囲む桜の壁。数えきれないほどの桜が九井に向けて一斉に揺れて騒ぎ出す。ざらざらざらと花びらが散り、九井の視界を妨げる。 きょろきょろと辺りを見渡しても誰の姿もない。あれは見間違いだったのか。引き返そうと、振り向いた矢先に不自然なほどに散り積もった花びらの山が目に入る。あんなにも大量にいったいどこからやってきた?そう思うと急に不安が沸き上がる。どくんと心臓が鳴り、駆け寄ったそこには積る花びらの山と仰向けになった佐野が横たわる。
    「ボス!」
    叫ぶと同時に力任せに花びらを払う。佐野を覆いびっしりと張り付いた花びらは抵抗するように簡単には払えない。掻きむしるようにして取り払った中から現れたのは、まっ白い顔をして瞼を閉じた佐野だった。
     小さな顔は仄かにてらる真珠の肌をして、伏せた睫毛には濃い影が落ち、薄紫の唇は緩く結ばれている。ぴく、と僅かに唇の端が動く。九井はそれを見逃さず佐野の頭を掬いあげて抱きかかえ、パンパンと頬を叩く。抱き上げたからだの薄さに、その無機質な顔に緊張が走る。
    「ボス!ボス…!」
    パンパンと叩いた頬が揺れて、九井の腕の中で小さな頭がごろんと落ちる。揺れた頭の振動で伏せた睫毛が壊れた仕掛けのように震え、薄く開いた瞼の奥から黒曜色の瞳が現れる。瞳は九井を映していても、見えてはいない。底無しの無心に九井は凍り付く。憑りついた震えを渾身の思いで振り切って佐野の名を叫ぶ。
    「マイキー!」「マイキー!マイキー!」
    頬も手のひらも赤くなるほどパンパンと音をたてて繰り返し、やっと佐野の目には意識の欠片が戻ってきた。開きかけた瞼は緩やかに降りて、押し返されるようにふたたび開く。九井を見返す瞳には微かなくぐもりを残しながらも正気が宿る。
    「ボス…」
    赤く染まった佐野の頬にバツの悪さを感じながら、九井は丁寧に佐野を抱き起こす。
    「心配した」
    「…寝ていたんだ」
    「こんなところでか」
    「…眠れる気がしたんだ」
    「こんなところでか」
    九井の強まる語気に佐野は返事を飲みこみ視線を逸らす。
    「部屋へ」
    言って九井は立ち上がり、佐野の手を取った。ぎゅ、と握る強さは抗うことは許さないという意味だ。腕を奪われ尚も座ったままの佐野に、九井はまっすぐに、さぁ立って、と促してくる。片手を奪われ繋がれたまま引き上げられて、佐野はぐいと手引かれる。
     背中を追う気配に首をねじって振り向けば、佐野を包んでいた桜いろはさらさらと風に散りだしていた。九井はけして後ろを振り向かず、つないだ手を一層強く握る。離してはいけない。離してしまえば囚われる。そんな気さえして、九井は足早になった。

     春の嵐が近づいていた。過ぎる冬を追いやるように、春を告げる花が咲く。けれど訪れる季節は春だけには留まらない。春の訪れを告げる空気は常に変わりゆく季節をも知らす。空は北の空からやってくる冷たげな空気と南から訪れる暖かな空気がぶつかり合って、ぐるりと気圧を巻き上げごうごうと鳴らして地上へと強い風を吹き付ける。嵐がやってきていた。
     その夜、佐野はその夜も眠るための薬を口にはしなかった。この場所へやってきてから薬が必要だとは思わなかった。横になって瞼を閉じることが恐ろしいとは思えなかったからだ。
    「おやすみ」
    誰にともなく口にして、寝具に身を沈める。瞼を閉じて重たい頭を枕に預け、深呼吸をして、ぬるり温水へもぐるようにして目を閉じる。膝を抱えて丸くなって目を閉じて、閉じた意識はぷかりと浮かんで漂い心地よい。

    あなたはその痛みを手放してはいけないの。
    あなたがその痛みを手放した時、あなたは彼を失うの。
    あなたがその痛みを手放してしまったら、その痛みは彼のところへ向かってしまう。
    あなたにはその意味がわかるでしょう?
    痛みを手放してはだめ。
    痛む心を手放して、ヒトであることを手放しては駄目。


    「ここを出よう」
    メンバーの揃う前で九井は眉を潜めて言った。
    「どうした急に」
    「…いやな感じがする」
    それ以外に理由などなかった。けれど桜に埋もれて眠る佐野の姿を思い出せばここにいる正解はない。
    「なんだよ、それ」
    「だいたいこんな田舎になにが目的で引っ込んでんだ。隠れるたってなにもないこんなところじゃ意味がねぇどころか危ねぇだけだ」
    「ボスには静養が必要だって言ったのは誰だ」
    「誰でもねーよ。みんな思ってる」
    「じゃぁなんで突然こんなとこ、」
    「――ボスだ」
     佐野が行きたいのだとここを名指しした。今の今まで忘れていた。いつの間にかいちど渋谷を離れる流れになって制止するのを無理やりに打ち切って、九井と三途、そして鶴蝶が護衛することでこの地へ向かうことになった。制止したのは鶴蝶だった。佐野を探る昔馴染みの名前が出た途端に話は無理やりに打ち切られ、渋谷を後にした。呼ばれたように山奥のこんな場所にたどり着いた。
     呼ばれるように。あの、桜にーー?
    ふと浮かんだそれが奇妙なことだと九井は重々わかっていた。けれど桜に埋もれた青白いあの顔はなんだ?血の気は引いて頬は冷たく体温の欠片もないあのからだは、なんだ?あれではまるで。まるで死人のようじゃないかーー?記憶に残る抜け殻たちのそれと佐野の顔つきが被る。
     ガラス窓を叩く風の音に混じる雨足が強くなる。湿り淀んだ空気が窓の隙間から忍び込む。ばし、ばし、と小石が窓に当たって跳ね返る。ガタガタと揺れる窓の外は深く濃く、混じりけのない夜の色だ。高層から見下ろした眩む煌びやかさに慣れた目には見慣れない。ガタガタと音を立てて揺れる壁の居心地の悪さに息が詰まる。
     古びた場所にありがちな不可解さには今さら気後れはないものの、間近に感じる荒れて吹き付ける風と雨の不気味さにはどうにも抗えない無力感に襲われる。どうせこの耳障りな風の音も明日には通り過ぎているだろう。眠れない夜を無理に眠るより、いっそこのまま朝を迎え、朝になったらすぐにこの場を出ればいい。九井は持ち込んだPCと身の回りを片付けようと立ち上がる。その時だ。
    「ボスがいねぇ!」
    ノックどころか叫ぶ声より前に扉は開き、こめかみに皺を寄せた三途が現れる。三途の粗野は今さらだ。けれど”これ”を危惧してわざわざ忠告をしたはずがこのざまだ。
    「見張れって言っただろうっ」
    「眠ったまでは確認した。それがいつの間にか部屋を抜け出してた。どこにもいねぇ」
    思わずチ、と九井から舌打ちが漏れる。
    「…外だ」
    「ぁあ?」
    「中庭の先の、桜の…!」
    言い切るよりも早く九井は立ち上がる。おい、と声をかける三途に説明する暇はない。
     外は風が雨が吹いている。まさかそんなものに吹き飛ばされることはないだろうと思いながら、風の強さよりも雨風に舞い上がる桜のほうに得体のしれない不気味さが勝る。
     気持ちばかりが先を行き、階段を駆け下りる足がもたつきよろけ、苛立ちと焦りに拍車がかかる。がたんと揺れる壁の音に不安が煽られる。
     階段を降り広間を抜け、やっとたどり着いた勝手口の扉に手をかけると拒むように風圧に押さえつけられて扉が開かない。がちゃがちゃと取っ手を回すと不自然なほどに硬く頑丈だ。くそっ、と短く漏らし、九井は覚悟を決めて体当たりする。バーンと力任せに半身を打ち付けると観念したかのように扉は開かれ、待っていたかのように九井の全身にバババと音をたてて雨が打ち付ける。思わず怯んで顔をかばうようにして身構える。不自然に身構えた態勢を狙うように足元を雨が吹き付ける。雨と砂と埃に混じる花びらに九井は息を飲む。
     佐野はきっと、あの桜の元に違いない。吹き付ける雨が九井の視界を狙う。打ち付ける雨が責めたてる。
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    🌸❤❤❤❤❤🍼
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    fukuske5050

    MOURNING本誌済み
    真とワカとマ
    ※マは本誌の病状です さすったりしてます こういうことをしてよいのか悪いのか、調べていません
     顔色が悪いのは真一郎の方だ。僅かに自由になる時間さえも、病室でひとり横たわり、管に繋がれたまま意識のない弟の傍らから離れない。ただ生き永らえているだけのそれから離れない。医療も奇跡もまやかしも、真の最愛にできることはそれだけしかないからだ。
     万次郎のため。そのために真一郎の生活は費やされ自分のための時間は皆無に等しい。食べることも、眠ることも惜しいのだ。怖いのだ。少しでも目を離した隙に呼吸を漏らした隙に、必死に抱えた腕の中からサラサラと流れ落ち、万次郎が失われていく。
     蝕まれているのは真一郎の方だ。若狭にはそう思えてならなかった。

     職務の休憩時間に万次郎を見舞う真一郎に合わせて万次郎の病室を訪れる。それは万次郎のためではない。真一郎のためだ。若狭にできるのはその程度でしかない。訪れた若狭の呼び掛けに答えた真の声は枯れて夜明けのカラスのようだった。ギャアと鳴いてみせるのは威嚇なのか懇願なのかはわからない。せめて水を、そう思って席を外し、帰ってきた病室で見たものは。
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    fukuske5050

    MAIKING着地点を失ったムサン…😖あきらめたから途中からメモだよ🎵
     扉を開けると正面には板張りの台所。隅に寄せた古い冷蔵庫の中には缶ビールと水とヨーグルト。ヨーグルトは昨日買ったばかりの3連パック。ひとつずつ分けて残ったひとつは半分個にしようと言ったばかりなのに。そんなことは忘れ去られ言葉少なく押し黙ったまま水の一滴も通らず渇いている。
     縦長の間取りの狭いこの部屋の隅から隅まで隊長の匂いがして居心地が良くて。居着いたオレに一言二言咎めたのは最初の内だけで、今じゃオレの着替えもドライヤーまで定位置と決めた場所で当たり前の顔をしているのに。今日に限って家主の心持ちに従うように急に居心地の悪さが這い上がる。
     ぞんざいに手渡されたのは茜色の特攻服。オマエの分だ。隊長はそう短く告げてベランダの外へと視線を向ける。どうせ外に興味があるわけじゃない。オレの顔色を確かめる気もないってことだ。オレが隊長に従わないなんてこと、きっと考えてもいないんだろう。それとも興味すらないのかもしれない。隊長にとって、オレは外の曇り空と同じぐらい興味がない。隊長の頭の中なんて、どうせ1から10まで「イザナ」のことばっかりだ。
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