あなたがここにいる『魏嬰、なぜ君が死ななければいけなかったのだ…』
背中の痛みよりも、胸の痛みがこたえた。冷泉でどれだけつかろうとも、癒える事はない。
兄が「時がたてば忘れ行くだろう」と言いに来てくれた事がある。
されど、その日は来なかった。
師弟が大きくなっていく様を感じ取るたび、時間の経過を感じる。
かつて子供だった彼がはしゃいでいた姑蘇の山道を歩いては魏無羨の笑い声を思い出す。なぜ一緒に遊びに出かけなかったのだろうと後悔しても、もう遅い。
彼はあんなにも自分を気にかけてくれていたのに。愛しさは増すばかりだった。会いたくて、愛しくて、つらかった。
「――――――ッ」
藍忘機は息を少しみだしつつ目を開けた。
体にずしりとした重みを感じる。魏無羨だ。むにゃむにゃと自分の髪の毛を口に入れて何か言っている。力加減を忘れてつい、強く抱きしめてしまった。
「ぐえっ」
「!」
すぐに力を緩ませる。魏無羨は一度うすく目を開くが、すぐに眠る態勢に入る。
目を閉じたまま藍忘機の頭に腕を伸ばし、いつものようにぐしゃりと撫でた。
「ウン、起きるよ…もうちょい寝てから…ぐー」
魏無羨の口に入っている髪の毛をはらってやり、彼を自分の首筋の方までくるように持ち上げる。彼は藍忘機の首元あたりで鼻をスンとさせ、魏無羨はニヘ、と笑った。
「藍湛」と甘えるように頬にすり寄ってくる。
彼は私を選んでくれたのだと実感した。
幸せを感じ、魏無羨の頭を撫でる。
「君を、好いている」
数えきれないほど口にした言葉を彼に伝え、藍忘機は心地よい眠りについた。今度こそ、彼を幸せにしてみせると誓いながら。
fin.