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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    物理的にめちゃ近距離感のオズとホワイトの話
    精神的にはオズが一方的に少し遠さを感じているような。
    これ(https://poipiku.com/3138344/6044179.html)の続きというか分岐という感じです。先に読んでおかないとちょっとわからないところがあるかも。
    キスをするけど親愛のそれです。でも、見るひとの感覚によってはわからないです。

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##北師弟

    雪解けのキス 秘密はいつでも夜にあって、守られていた。朝になればそっとしまいこんで、スノウとフィガロの前では知らん顔をしてみせる。それでも同じ場所で暮らしていて気づかないわけがないから、見え透いた茶番のようだっただろう。
     しかし、それも昔のことだ。あのころよりもずっと大きく広い『家』のようなこの魔法舎で、多くの魔法使いと暮らし始めてからはあのころのようなことはなかった。互いに厄災の傷を負っている身であったし、それ以前に必要がなかったのだ。一人寝のできない子どもではないし、眠れなければその場でやり過ごせるだけの娯楽的要素が自室にはある。それゆえに、必要だけでなく機会も失われていた。
     けれども、何事も不意に起こり突然動き出す。オズは、膝のうえに乗ってきたホワイトを見やり、思った。遠すぎる過去を振り返ってみたが、やはりあのころのホワイトはこんなことはしなかった。彼もスノウも年長者の顔をして保護者気分で接してきていながらも、確かに君臨していた。たまに何ともいえない若作りしたようなことを口走ることはあっても、こんな幼子のような真似などしなかった。少なくとも、自分の記憶のなかには同じ光景はない。そんな気がした。忘れているだけであるという可能性も残っているので、断定するにはもう一手欠けるといったところなのである。
     
     ほんの少しの昔話をしたその後すっかりおとなしくなり、膝のうえで二度寝を決め込んでしまったホワイトを、オズはしばらくなんともなしにみていた。思えば、寝顔を見たこともろくになかったかもしれない。まだこの体が然程大きくないころには概ね戯れにスノウとフィガロと共に四人一緒に同じベッドに入ったこともあったけれども、そういうときばかり不思議と自分の方が先に意識を沈めてしまっていたから、こんな風に眠っている姿を至近距離で見つめるというのは実質初めてといってもいい。
     どの程度の年月を遡れば当時の記憶に辿り着けるのか、数えようとすれば気が遠くなるほど昔からの付き合いになるのに、未だ知らないことが簡単に出てくる。そうして、自分は彼らの一部を知っているだけにすぎないことを思い知らされるのだ。
     同様に彼らもこちらのことをすべて知っているというわけではないので、そういった意味では対等ではある。とはいえ、植えつけられたものというのはそう容易に消えないもので、実のところは上下関係に至らぬまでも立ち位置はなんとなく決まっているのだった。
     
     しかし、おはようのキスでもしてやろうなどと言っていた本人が寝てしまうとは。勝手なものである。しかし、勝手で自分たちの気分や都合で動くのはいまに始まったことではないから、相変わらずなのかもしれない。
     ただ、言い方に引っ掛かる点があり、オズはそこで居心地の悪さについて考えていた。
     
     ―教えてくれないと拗ねるぞ。泣くぞ。不貞腐れるぞ。あっ、そうじゃ! おはようのキスでもしてやろう!
     
     どうせ大したことは考えていなかったのだろうが、『でも』とはなんだ。ずいぶんと適当なことを言ってくれる。それに、振り返ってみてもそんなことをしてもらった覚えはない。おそらく、ない。忘れているだけかもしれないが、もし日常的にそういったことをされていたら記憶にあってもよさそうなものだ。それにも関わらず覚えがないということは、そういうことなのだろう。
     ホワイトはわずかばかり微笑んだように唇をゆるく結び、瞼をおろしている。よくみると胸が小さく上下しているけれども、彼はもうずっと昔に死んでいる。
     この世に在ってこの世のものではないその存在に向き合っていると、気持ちが空虚に放り出されるような感覚になることがあるが、それが一体どういった感情によるものなのか、ずっと名付けられずにいる。おそらくこれからも持て余し続けるのであろう、そう思いながらオズはホワイトの上半身を抱えて起こした。すると、不満を訴えるように瞼をもたげたホワイトが腕を伸ばして顔を寄せてきた。吐息も届くような距離だ、と思ったが早いか、そっと盗むようなキスをされて刹那、その冷たさに眠ってもいない目が覚める。
     ―冷たい。
     しかし、とける程度にはあたたかい。北の国の春のようなくちづけだ。そっと離れていくのを追って、オズは冬の名残りのようなホワイトの唇にキスを返す。
     
    「……ちょっとー、さすがの我もときめいちゃうんじゃけど」
    「何を……。初心でもないだろう」
    「さすがのって言ったじゃろ。キスなぞ数えきれんほどしてきたわ。なめるでない!」
    「なめたつもりはないが……」
     
     なめたつもりもなければ、他意もないのだが。オズは困惑した目を向けるホワイトの薄紅色に染まった頬に触れてみた。そうしたところで、ホワイト自身からうまれるぬくもりがあるのかないのかはよくわからない。暖炉の火であたたまっているだけかもしれないし、ホワイトが自称する『幽霊』という概念には謎も不思議も多い。けれども、そんなことを挙げだすときりがない。
     
    「ないが、何じゃ」
    「……」
     
     衝動的な行動に理由などない。オズはややあって「隙が増えたな」と返した。問いに対してそぐわないことを言った自覚はあるが、ありもしない理由を適当に組み上げたところでホワイトにはお見通しだろう。見え透いた手を使っても、ろくなことにならないのが見えている。それゆえ、主観による感想を述べたのだが、ホワイトは意外なことにもごもごと口ごもり目を泳がせ始めた。
     
    「そこは、そなたへの……んん……あれ、あれじゃ」
    「あれ、とは」
    「口に出すと羽より軽くなってしまうから、嫌じゃ。察してくれぬか」
    「……」
    「駄目か」
    「まだ何も言っていない」
    「言われなくても分かるもんね。くだらんと言うつもりなのじゃろう」
    「……」
     
     決してそのようなつもりはないのだが、ホワイトはほら見ろといった顔をしている。それにはなんとなく反発したい。なんとなくである。そうするには言葉にも感情にも瞬発力が足りない。ただ、言いたいことがないわけでもないから厄介なのだ。
     
    「……なんじゃ、その顔は」
    「口に出すと、嘘に聞こえる」
    「ほう。意趣返しとは、生意気じゃの」
     
     察してくれと言ったその口でそんなことを言うけれども、ホワイトからすればきっとこんなのは言葉遊びのうちだ。付き合わされるのも慣れたし受け流し方を知らないわけでもない。しかし、今日は逆らいたいようなねじ伏せてしまいたいような、なんとも言い難い気分だった。
     どうせ朝に呼ばれて魔法舎じゅうが目を覚まし、すぐ終いになるのなら曖昧にやり過ごそうと切り返そうと同じことだろう。オズはかすかなプレッシャーを放つホワイトに視線を結び直した。
     
    「そのような意図はない。ただ、」
    「ただ?」
    「記憶する限り、おまえと寝覚めにくちづけをかわしたことなどない」
    「……えっ、もしかして、そのことずっと考えてたの?」
    「……」
    「我も憶えてないけど、待って待って、そなた可愛すぎない?」
    「黙れ」
     
     ぬくもりがあろうとなかろうと、ホワイトはホワイトなのだ。本当にみえなくなるまで、触れられなくなるまで、『いる』と言えなくなるまで。
     幽霊でも幻影でもそこに姿があって触れられるのなら、それだけが真実、確かにホワイトだ。条件も定義もいらない。
     たとえ触れられることが届くことではないにせよ。




    <おわり>











    (というか幻覚の前提として)





    タイトルの回収というかなんというかなんですけど、ホワイトの唇が『冷たいけれども、とけるほどにはあたたかい』ということを知ってるのは北師弟間だけじゃね!?っていうかそうあってくれ!!!!!!
    ……という強めの幻をみて願ったことを回りくどくそして加速力だけでどうにか書いた形の話です。そしてこのキスは親愛。親愛です。
    そして『あれじゃ…』の『あれ』は『愛』です。昔はきっとオズに隙をいまほど見せてなかった気がするんです双子どちらも
    時間がうーーーーーんと経って、ホワイトの死によって彼らの関係も思いもどこか何かが変わってしまったけど、それによってうまれたものもあるような気がして。その曖昧な感情のことをうっかり『愛』と言いそうになって踏みとどまるホワイト……
    とりあえず強すぎる幻覚でした。北師弟尊い。
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    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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