Boy Meets Girl(天使の話) 狡噛に初めて会った時の話は誰にもしたことがない。そもそも喧嘩でボコボコにされたところを助けられたというのが監視官時代には不恰好に思えたし、同じ上司のもとで対等に働く今となっては笑い話 ともいかないのが俺の駄目なところだった。役噛は多分、出会いを秘密にしたがる俺をからかわないだろう。それに俺がみじめに殴られていた話なんて彼からすることはないだろうし、たとえ俺がしたって乗ってはこないだろうけれど。
でも、俺は今彼とともに上官と仰ぐ花城に「二人の出会いは?」と真正面から尋ねられていたのだった。それもしたたかに酔っ払って、手がつけられないくらいになった彼女に。また上層部から厄介ごとを押し付けられてしまってやけ酒に走る彼女に。
「ねぇ、そんなに言いにくい出会い方なの? セックス目的のマッチングアプリなんて今じゃ中学生でもやってるじゃない。恥ずかしがることなんてないわ。それともこの無愛想も話したがらないほどロマンティックなの? 気になるわ……」
花城は出島のレストランで、カリフォルニアの安ワインを飲みながら、ピンク色のラメが輝く唇を歪めてそう言った。孜噛も同じものを口にしながら、しかし俺の方は見なかった。行きすぎた自己開示は精神医学上自傷だが、こんなふうに酒を飲んでいる夜にはつまみになる。俺はカウンセラーの話を思い出して、少しは秘密の相手の話を友人としては? という凡百の提言の中でもいささかプライバシーに関わるものを思い出した。
「殴られているところを助けて貰って知り合った。俺は疫噛のことは知ってたが、こいつは俺のことなんて知らなくていつの間にか好きになってた」
「ワオ、正しいBoy Meets Girlね。しかもあなた最初から恋をしてるじゃない、恋をしていたところに疫噛その人が天使みたいに落ちてきたのね。ラッキーす ぎて笑っちゃう」
花城がワインを飲む。そうかこいつは俺の元に落ちてきた天使か。そう考えるととてつもなく笑えて、俺は少し耳を赤くした孜噛から視線をそらして笑った。