ありがとう(おしゃべりはベッドの中で)「あなたたちって、本当に何も喋らないのね。あ、私とじゃなくて、あなたたち二人きりの時の話」
花城はそう言うと、出島のカフェテリアの中でレモンティーを傾けた。もう底に甘ったるい砂糖が残っているだけで、後はほとんどが水だ。俺はそんな上司の言葉を受けて、彼女の買い物に付き合ったことにやや後悔した。狡噛も同じだっただろう。仕事があるからと来なかった須郷だけが、このややこしい状況から逃れられたのだから羨ましい。
「女の買い物に言葉は必要か?」
「違うわよ、あなたたちが二人きりで何も喋らないのが問題ってこと! 良いカップルカウンセラーを紹介しましょうか? 解決するかも」
狡噛はそんなやりとりを花城として、苦い顔になってコーヒーを飲み干した。ここでは大分時間を潰した。そろそろ官舎に戻る時間だ。まぁ、そんなわけで、俺たちは部屋に戻った、のだが。
(……確かに、こう長いこと付き合っていると話すこともない)
今日も夕食を共にとって、そこでもあまり喋らなくて、風呂に入ってセックスをして、そこではあれーー驚くほど喋っている。そこがいいとか、駄目だとか、今日はこれをしようだとか、痛い、気持ちいい、それから愛しているとか。だがそれらは全部夜の帳に消えて、花城には見えないのだ。残念ながら。
そんなことを考えて、俺は無言で狡噛を見た。彼はやはり無言でテイクアウトしたエビのチリソース炒めを食べていて、この夜初めて「辛いな」と言葉を発した。これは珍しい言葉だ。花城と共にいたカフェテリア以来だ。俺はそんないつもとは違う彼の言葉が嬉しくて、狡噛もきっと二人の間に言葉がないと言われたことを気にしているのだと思って、笑ってしまった。狡噛も彼女の気まぐれな助言を気にすることもあるのかと、あの女傑が怖いこともあるのかと。
「確かに。今日お前のを咥えたら痛いかもしれないな」
俺はそんなことを言って、「喋ることがないからってそれはないだろう……」と頭を抱える狡噛を見た。そして視線が合ってキスをして、確かに唇がぴりぴりすると考え、それから紙パックや箸も狡噛の分もゴミ箱に入れ礼を言われた。
花城の言葉は少しも気にしていない。こうやって言葉以上のことはしているから。けれどセラピーを受けるのもいいかもしれない。彼女の言葉一つでいつもよりキスが一つ増えたんだから、専門家の力を得れば、もっと彼に触れられるかもしれないから。俺はそんなことを思って、もう一度ダイニングに戻り狡噛にキスをした。