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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    宜野座さんが好きと気づいた時の狡噛さんは混乱したのか、たくさん読んだ本の言葉をようやく理解したのかというお話。
    800文字チャレンジ8日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    一目惚れ(あなたに気づいた日) 狡噛は俺の名前すら知らなかった。顔も何も知らなかった。ずっと学力考査で彼の二番手についていたというのに、この男は俺が殴られているところを見るまで宜野座伸元を認識しなかった。最初のうちはムカついたし、彼の他人への無関心さには驚いたが、付き合うちに狡噛の欠けた部分に気づいた。そしてそれを補おうとして、興味を持った他人に傾倒していく様とか。
     佐々山を追いかけて、今のようになってしまった友人は、誰に習ったのかも分からない言葉で俺に愛をささやく。
    「ギノ、お前が欲しがってた食パン」
     ある日狡噛は紙袋に入ったそれを一斤俺に渡した。聞けば情報屋を使い走りに使ったのだという。駄賃を持たせたから大丈夫だと彼は言うが、そんな問題ではない。
     その日から始まって、彼は様々なものをくれた。日本では珍しい植物、ダイムの写真を飾るフォトフレーム、飲み干しつつあった父が気に入っていたものと同じ銘柄の酒、それから新しい手袋。最後に渡された新しい手袋は、狡噛が俺に通してくれた。正直彼が何を考えているのかは分からなかった。俺の機嫌をとっているのかとか色々考えたけれど、それでもよくは分からなかった。
    「なぁ、狡噛。これって何なんだ? 俺に隠れて浮気でもしたのか? 別に他に女がいるくらい……」
     手袋はしなって、義手を隠して手を美しく見せた。大昔、ギノはどこもかしこも綺麗だとこの男は言ったのだった。どこもかしこも。
    「違う、俺の記念日なんだ。俺がお前に一目惚れした記念日」
    「は?」
     狡噛はそんなことを言って、俺にこう語り始めた。友人と呼べる間柄になって、親友と呼べる間柄になって、そこから先はどうなるのか自分でも分からなかったが、気づいてしまった、これは一目惚れなんだって。それが今日なのだそうだ。一目惚れの用法が違うじゃないかと顔を赤くして言うと、狡噛はギノに会うまで本でしか恋愛なんて知らなかったからと、そんな熱心な言葉をくれた。
    「なぁ、ギノ、愛してる……」
     左手に手袋をはめられるなんて、まるで指輪の代わりみたいだなんて俺は思って、そうしていつの間にかひざまづいていた彼の額にキスをして、俺もだよと返事をしたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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