最後の言い訳(愛してる) ギノに手紙は書かなかった。彼に迷惑はかけられないと思った。これ以上、彼を俺の人生に巻き込んではならないと思った。常守に手紙を書いたのは、彼女が俺に夢を見ているところがあったからだ。俺は刑事ごっこが最後までしたかった。佐々山のようになりたかった。その遊びをするにはギノじゃなく、常守が適任だった。それだけだ。彼女は俺を恨むだろう。秘密を握らされて、それを皆に告白する時俺を恨むに違いない。俺とギノの仲を彼女は察しているから、ギノに伝える時も苦しいだろう。けれど彼女なら耐えられる。俺はそう思って、あのセンチメンタルな手紙を書いた。
バイクに乗りセーフハウスを出ると、妙に凪いだ気分だった。風は頬を撫でてゆくし、それは冷たいのだけれど、槙島との決着が迫っていることに、俺は終わりを感じていた。この事件が終わったら、きっと俺は処分されてしまうだろう。自分の色相が濁っていることも分かっている。人を殺そうと決めてしまったら、もう元には戻れないことくらい、一般市民でも知っている。でも、俺は槙島を、自分の双子のようなあの男を殺さねばならなかった。
バイクでハイパーオーツ畑に近づく、狭い道を走る。林の中は薄暗く、少し寒かった。告白してしまうと、ギノには別れの手紙が、全てが終わった数日後に届くようになっている。システムがちゃんと作動するかは分からないが、彼が監視官である限りは、あのメッセージはちゃんと伝わるだろう。ギノには監視官でい続けてもらわなくてはならない。俺に汚されてはならない。厚生省を目指して、学生時代のように野心を持っていて欲しい。そしてこの国で幸せに暮らしてほしい。潜在犯の息子というラベルを剥がして、宜野座伸元として。
なぁ、ギノ、愛しているよ。俺はお前を愛しているよ。ギノは俺をどう思っているのかはもう分からないけれど、心の通じないセックスばかりしてきたけれど、今ではそれすら愛おしい。なぁギノ、言い訳になるかもしれないけれど言わせてくれ。愛していると、誰よりも、誰よりも愛していると。