Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    バラで宜野座さんと仲直りしようとする狡噛さんのお話。
    800文字チャレンジ4日目。
    狡噛さんはかっこ良すぎるからかっこ悪いくらいがちょうどいいなぁと思いました。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    花束(花束を君に) バラの花束を抱えて帰って来た恋人に、俺は声が止まりそうになった。というか実際止まった。俺の目は一瞬で品種を見分け(オクラホマだった)、その赤い色から花言葉を探った。あなたを愛します。つぼみがあるから純粋な愛に染まるって意味もある? 狡噛は言葉をなくして突っ立っている俺に、「花売りに押し付けられて」と言った。顔色は変わらない。ならばそうなのだろう。基本的に俺に言い訳はしないし嘘もつかない男だし、だったら哀れな花売りに頼まれて買ったのだろう。時刻はそろそろ十二時過ぎで客も途切れる頃合いだ。
     俺はバラを受け取って、とりあえず花をまとめるリボンを解いて包んであった紙を畳んで捨てて、棘がそげ落とされて縛られた茎をハサミで切るべくキッチンに向かった。狡噛は俺についてきて冷蔵庫でビールをあさっている。今日は青島ビール、軽いものがお好みらしい。
    「出島で花売りか。前は園芸店の肥料に麻薬を隠して密輸した犯人を挙げたんだったか……」
     夢も希望もない話を始めようとすると、狡噛は瓶ビールを口にしてそれを飲み続けた。どうやら、そういう話はしたくないらしい。俺はそんな狡噛のそばで花の茎の根元を園芸バサミで切り続ける。こういうのには慣れている。どちらかというと土付きの植物の方が得意だが、唐之杜に頼まれて、彼女の恋人のために花を剪定したこともあった。あの時も彼女はバラを選んだ。色も今回と同じ赤で、本数は十一本だった。花言葉はその本数なら『最も愛おしい人』となる。俺は急いで佼噛が渡した花の本数を数える。一、二、三……ほら、やっぱり十一本ある。
    「花売りが困ってたから買っただけだ。ホロじゃないのは高くて誰も買わないから」
     狡噛が青島ビールを飲み干す。俺はそれを笑いながら見て、狡噛が隠そうとしているものを探した。たとえば、赤くなった指先だとか、さまよう視線だとか。
    「へえ、赤いバラを十一本、十二時過ぎにか」
     俺が笑うと、疫噛は「悪かったよ」と言った。俺たちは昨日小さな言い争いをして、喧嘩までいかなくてもぎくしゃくしていたのだった。俺はキッチンに置いたバラを一本取って、それを狡噛に渡す。彼なら一本の花言葉も知っているだろう。
     そう、あなたしかいないっていう、とびっきりに甘いやつを。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works