花束(花束を君に) バラの花束を抱えて帰って来た恋人に、俺は声が止まりそうになった。というか実際止まった。俺の目は一瞬で品種を見分け(オクラホマだった)、その赤い色から花言葉を探った。あなたを愛します。つぼみがあるから純粋な愛に染まるって意味もある? 狡噛は言葉をなくして突っ立っている俺に、「花売りに押し付けられて」と言った。顔色は変わらない。ならばそうなのだろう。基本的に俺に言い訳はしないし嘘もつかない男だし、だったら哀れな花売りに頼まれて買ったのだろう。時刻はそろそろ十二時過ぎで客も途切れる頃合いだ。
俺はバラを受け取って、とりあえず花をまとめるリボンを解いて包んであった紙を畳んで捨てて、棘がそげ落とされて縛られた茎をハサミで切るべくキッチンに向かった。狡噛は俺についてきて冷蔵庫でビールをあさっている。今日は青島ビール、軽いものがお好みらしい。
「出島で花売りか。前は園芸店の肥料に麻薬を隠して密輸した犯人を挙げたんだったか……」
夢も希望もない話を始めようとすると、狡噛は瓶ビールを口にしてそれを飲み続けた。どうやら、そういう話はしたくないらしい。俺はそんな狡噛のそばで花の茎の根元を園芸バサミで切り続ける。こういうのには慣れている。どちらかというと土付きの植物の方が得意だが、唐之杜に頼まれて、彼女の恋人のために花を剪定したこともあった。あの時も彼女はバラを選んだ。色も今回と同じ赤で、本数は十一本だった。花言葉はその本数なら『最も愛おしい人』となる。俺は急いで佼噛が渡した花の本数を数える。一、二、三……ほら、やっぱり十一本ある。
「花売りが困ってたから買っただけだ。ホロじゃないのは高くて誰も買わないから」
狡噛が青島ビールを飲み干す。俺はそれを笑いながら見て、狡噛が隠そうとしているものを探した。たとえば、赤くなった指先だとか、さまよう視線だとか。
「へえ、赤いバラを十一本、十二時過ぎにか」
俺が笑うと、疫噛は「悪かったよ」と言った。俺たちは昨日小さな言い争いをして、喧嘩までいかなくてもぎくしゃくしていたのだった。俺はキッチンに置いたバラを一本取って、それを狡噛に渡す。彼なら一本の花言葉も知っているだろう。
そう、あなたしかいないっていう、とびっきりに甘いやつを。