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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    POIPOI 192

    夏の思い出で征陸さんを思い出す宜野座さんと朱ちゃんのお話です。
    800文字チャレンジ29日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    ひまわりの笑顔(迷路) ひまわりの迷路に行った時、母の手は汗ばんでいた。母は笑っていた。彼女の背丈以上に大きなひまわりを背景に、お父さんはどこかしらねぇとにこにこと。俺はこのまま迷路から出られないような気がして泣いてしまって母を困らせた。ねぇ、お母さん、大丈夫なの、僕たちちゃんとここから出られるの、お父さんと会えるの。俺は泣いて泣いて泣きながら母にしがみついた。母は困った顔もせず、大丈夫よ、絶対にお父さんに会えるからね、のぶちかは心配性ね、と笑った。結局俺たちは仕事場から遅れてやって来た父と迷路の近所のラムネ売りの店で再会して、でも俺は迷路の中に助けて来てくれなかった父を恨んだ。父さんのこと、ヒーローだと思ってたのに違ったんだ。それは初めての彼が全能でないと知った時のことだった。
     これを思い出す時、俺は父が普通の男だったことを知る。普通に妻を娶って、子供を作った、仕事は出来たが平凡な男。あのまま父と暮らしていたらどうだっただろうと思う。癇癪を起こして喧嘩をすることもあっただろうか? 子どもらしく人間関係の相談をすることもあっただろうか? でもそれは全部空想で、どうなっていたかは分からない。父は突然俺の前から消えてしまって、戻ることはなかったから。
     
     
    「これ、全部処分しちゃうんですか?」
     父の執行官宿舎の一室を引き継いだ時、俺は部屋を片付けるために父が手慰みに書いていた油絵や本を捨てることにした。これはその時一緒にいた上司の言葉なのだが、彼女は、常守朱は、未練がましく油絵の表面を愛おしげになぞっていた。彼女と父の間に何があったのかは知らない。父は女には甘いところがあったから、いい思い出として残っているのかもしれない。
    「一枚、もらえませんか、記念に」
     そう言って彼女が指さしたのは、ひまわりの絵だった。俺はそれにあの夏を思い出して動揺した。でも明日が知れない俺よりも監視官が持っている方がいいと思って、俺は言葉を飲み込んだ。
    「いい絵ですね。夏の匂いがしそう……」
     夏の風の香り、ラムネの匂い。そんなものを閉じ込めたことをこの人は知らない。でもそれでいいのだと思う。父が覚えていてくれたことが嬉しかったから、俺はそれでよかった。
    「夏の匂いか……」
     夏の匂い、砂利道を歩く足の感触、父親はいつ来るかと泣いて聞いた思い出。そんな夏は、誰かのものにもならずずっと俺の中にある。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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