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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    美佳ちゃんの独白。
    FI後の朱ちゃんとのお話。
    800文字チャレンジ38日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    灰色の時間(あなたがいるということ) 恋をすれば世界がばら色になるなんて嘘だ。だって私は長いこと恋をしているというのに、今も灰色の時間の中にいるし、それがいつか花が開くように美しいものになるという保証はない。きっと私の世界は灰色のままだ。もし色がついたとして、王陵璃華子が描いた極彩色の絵がいいところだ。
     私はまだあの犯罪者に囚われていて、もういい大人なのに怖くて泣きながら目覚める時がある。そんな時誰かがそばにいてくれたらと思うのだけれど、恋をした人は近くにいてくれない。想いを伝えてもいないのだから当たり前なのだけれど、それでも私はあの人に、常守朱に側にいて欲しかった。言葉にしないでも、心細い時はそばにいて欲しかった。私は幼馴染すら見捨てた女だから、あの人は相手をしてくれないかもしれない。でも犯罪者を対等な人間として扱うあの人なら、私のこの灰色の世界を、ばら色にしてくれるかもしれないと思った。
     常守朱が事件を起こし収監された時、両親は私の仕事を悪く言った。早く家の都合した相手と一緒になれとも言った。そちらが本当に言いたいことだったのかもしれないけれど、あんな犯罪者と共に働いていたなんて外聞が悪いと喚き立てたのだ。私はデバイスで連絡を受けながら、ただ「はい」を繰り返していた。そしてそれにも飽きると消してしまって、朝が来るのを待った。デバイスは鳴り続けた。けれど、そのどれもが私が欲しかったものではなかった。
     
     先輩が帰ってきたのは春のことだった。ホロではない桜が美しい季節のことだ。私の時間はまだ灰色で、けれど先輩の配属先が私の元と聞いて胸が苦しかった。また気持ちを隠して生きていかなきゃいけないって思うと、とても苦しかった。
    「美佳ちゃん、ただいま」
     先輩の一言目の言葉に、私は何も言えなかった。世界はばら色じゃなかった。それでもほのかに色づいた。薄化粧をした世界は、まるで死化粧のようで、私は最期に見るならこの人の笑顔がいいと、そんなふうに思ったのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING学生時代の狡噛さんと宜野座さんのラブレターにまつわるお話。
    800文字チャレンジ9日目。
    手紙(ラブレター) 狡噛は変にアナクロなところがある男だった。授業はほとんど重ならなかったが、教師の講釈をタブレットにまとめるでなくノートに書き写したり、そして今ではほとんど見ない小説を読んでいたり。だからからなのか、狡噛にかぶれた少女たちは、彼と同じ本を読みたがった。そしてその本に感化された少女たちは、狡噛に手紙を書くのだった。愛しています、好きです、そんな簡単な、けれど想いを込めたラブレターを書くのだった。狡噛の靴箱には、いつだってラブレターが詰まっていた。俺はそれに胸を痛めながら、彼が学生鞄にそれを入れるのをじっと見た。そしてその手紙はどこに行くのだろうかと、俺は思うのだった。
     彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。
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    TRAINING眠れない宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ53日目。
    歌を聞かせて(眠り歌) なかなか眠れない日が続いて、花城にまで心配されて、俺は一日の休暇を与えられた。原因はとても簡単な話で、父の命日が近づいてきていたからだった。俺と似ているらしい目元は力を失い閉じられて、鍛えられたたくましい体は血に塗れて冷たくなっていった。腕をなくして出血が酷かった俺も頭がくらくらして、それほど悲壮感はなかった。現実味がなかったと言ってもいい。悪い夢を見ているとはこれだな、と思ったのも覚えている。でもあれは夢ではなかった。悪い夢でもなければいい夢でもなかった。父は俺を愛していると言外に言って、俺の目元を眺めた。幸せだった頃もそうだった。父は俺を愛してくれたけれど言葉が少ない人で、古い人だったのもあるだろうけれど、背中で語る人だった。そんな人に愛されたいと思ったのが間違いだったのかもしれない。人はそう変わらない。今だって俺は言葉少なな男を愛している。彼は滅多に愛していると言わず、セックスの最中も言葉は少ない。けれど彼は時折どうしようもなくなった時、俺に歌を歌ってくれる。眠れない俺が眠れるように、静かに歌を歌ってくれる。放浪の旅で覚えた各地の歌を、俺に歌ってくれる。
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