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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    出島で買い物をしながら賭け事をする狡宜。
    800文字チャレンジ46日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    小さな賭け事(熱いのは君のせい) 次に曲がる道で、最初に会うのが男だったら俺の勝ち、女だったらギノの勝ち。勝ったらなんでも言うことを聞くこと。そんなくだらない約束事をして、俺たちは出島の街を歩いた。街は混雑していた。祭りが近いのもあって、買い物に出る家族が多いのだ。俺たちははぐれそうになりながらも手を繋がず歩く。俺が勝ったらまずは手を繋いでもらおうか、そう思った時、俺たちは角を曲がった。そしてまず目に入って来たのは、これこれはかわいらしく頭にリボンをつけた幼い少女だった。つまり、俺は賭けに負けたのである。
    「あー、負けた。なんでも言ってくれ、ギノ」
    「何にしようか。とりあえず今日の夕飯の買い出しを済ませよう。それから考えることにするよ」
     俺たちは街が祭りの焦りにある中、のんびりと人混みの中を歩いていた。バゲットを買ったり、タバスコや黒胡椒なんかのちょうど切れている調味料を買ったり、メイン料理にすげる魚の切り身を買ったり。自然食材の、また自然農法の野菜を買ったら財布は寂しいことになっていて、俺はジャンキーなビールを一本買いながら、ギノが次々買ってゆく食材を持ってやった。
    「まだ決まらないのか。このままじゃうちに帰っちまうぜ」
    「せっかちだな。そんなに急ぐことでもないだろう」
     ギノは穏やかに笑っていた。店の主人とやりとりをしておまけしてもらったアイスクリームを手に、少し汗をかいたビールを飲む俺の横で煉瓦造りのビルにもたれかかっている。
    「ギノ、俺も」
    「お前はビールがあるだろう」
    「俺も食べたくなったんだよ」
     そう言うと、これもお願い事に入るのだろうか、だったら悪いことをしたなと思ってしまった。ギノはまだ願い事を言っていない。俺はスプーンで運ばれるバニラの香りをしたアイスを口に入れて、ビールをかき消すそれでギノの手を引っ張ってキスをした。彼はすぐに何も言わなかったし、周囲の人々も俺たちを見なかった。でもギノは、小さな声でこう言った。
    「手を繋ぎたい、って言おうとしたのに、お前は……」
     ずいぶん可愛らしい願い事だ。賭けに勝ったにしては質素すぎる。でも俺は手を繋いでゆっくりと歩く。狡噛、おい、もっとゆっくり歩け、と言われながら、必死に赤くなった顔を隠しながら。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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