小さな賭け事(熱いのは君のせい) 次に曲がる道で、最初に会うのが男だったら俺の勝ち、女だったらギノの勝ち。勝ったらなんでも言うことを聞くこと。そんなくだらない約束事をして、俺たちは出島の街を歩いた。街は混雑していた。祭りが近いのもあって、買い物に出る家族が多いのだ。俺たちははぐれそうになりながらも手を繋がず歩く。俺が勝ったらまずは手を繋いでもらおうか、そう思った時、俺たちは角を曲がった。そしてまず目に入って来たのは、これこれはかわいらしく頭にリボンをつけた幼い少女だった。つまり、俺は賭けに負けたのである。
「あー、負けた。なんでも言ってくれ、ギノ」
「何にしようか。とりあえず今日の夕飯の買い出しを済ませよう。それから考えることにするよ」
俺たちは街が祭りの焦りにある中、のんびりと人混みの中を歩いていた。バゲットを買ったり、タバスコや黒胡椒なんかのちょうど切れている調味料を買ったり、メイン料理にすげる魚の切り身を買ったり。自然食材の、また自然農法の野菜を買ったら財布は寂しいことになっていて、俺はジャンキーなビールを一本買いながら、ギノが次々買ってゆく食材を持ってやった。
「まだ決まらないのか。このままじゃうちに帰っちまうぜ」
「せっかちだな。そんなに急ぐことでもないだろう」
ギノは穏やかに笑っていた。店の主人とやりとりをしておまけしてもらったアイスクリームを手に、少し汗をかいたビールを飲む俺の横で煉瓦造りのビルにもたれかかっている。
「ギノ、俺も」
「お前はビールがあるだろう」
「俺も食べたくなったんだよ」
そう言うと、これもお願い事に入るのだろうか、だったら悪いことをしたなと思ってしまった。ギノはまだ願い事を言っていない。俺はスプーンで運ばれるバニラの香りをしたアイスを口に入れて、ビールをかき消すそれでギノの手を引っ張ってキスをした。彼はすぐに何も言わなかったし、周囲の人々も俺たちを見なかった。でもギノは、小さな声でこう言った。
「手を繋ぎたい、って言おうとしたのに、お前は……」
ずいぶん可愛らしい願い事だ。賭けに勝ったにしては質素すぎる。でも俺は手を繋いでゆっくりと歩く。狡噛、おい、もっとゆっくり歩け、と言われながら、必死に赤くなった顔を隠しながら。