ヤキモチ(恋人の立場では) 狡噛は無愛想だが女性人気は高い。あんなヤニくさい男の何がいいのか俺には分からないが、外務省に来てからというもの、告白されたりデートの誘いを受けているのを散々目にしたから、きっとここ出島では彼はモテる体質なのだろう。かくいう俺はさっぱりだった。元々モテた試しがないが、誰かから誘いを受けることもない。別に嫉妬はしていない。狡噛はああ見えて繊細で忠実な性格だから、俺以外にその身を許すことはない。心ももちろん許さない。でも俺はやはり彼が告白されているのを見つけてしまうとイライラするし、それは学生時代の青臭い自分のようで嫌だった。告白されるのは狡噛が悪いんじゃない。彼がその、かっこいいからいけないのだ、多分。
「今日も熱烈な誘いを受けてたみたいじゃないか。一人くらい情けをかけてやればいいのに」
隣の席に座りながら、コンピュータをいじりながら狡噛に話しかける。彼だっていい迷惑だろうに、今日はどうも癇癪を起こしそうというか、虫のいどころが悪かった。一人くらい情けをかけてデートをして、そしてどうなる? 大人の関係に進むのか? 俺って長年のパートナーがいるのに不誠実じゃないか?
「あれは賭けだぜ、ギノ。誰が珍しい行動課の男を引っ掛けられるかの賭け。お前は標的にされなくて良かったな。多分花城の差金だろうが……」
俺はその言葉に驚いてしまって、というかここの職員は何でも賭けにつなげるなと笑ってしまって、危うくタイプミスをするところだった。でもなぜそれに狡噛が選ばれたのだろう。一番引っかかりにくそうだったからだろうか? それとも単純に女性人気が高かったからか?
「そう、か……。お前も災難だな。俺もお前の好物を聞かれて災難だが」
「煙草って答えといてくれよ。女はすぐに甘いものをプレゼントしたがるから……」
俺たちはそんなふうに笑って一日を過ごした。過ごそうとしたのだが、狡噛はそこで終わらせなかった。
「パートナーがいるって言ったら一発で終わるんだろうが興醒めだろう? それに隠れてこういうふうに喋るのも楽しいしな」
狡噛が俺の腕をさする。熱が上がる。俺はもう何も言えなくなって、やり手の恋人の台詞に愛しさを感じて、もう挑発するのはやめようと思ったのだった。