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    短い話を放り込んでおくところ。
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    人事ファイルを読みながら昔のことを思い出す宜野座さん。
    800文字チャレンジ67日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    あの頃の僕ら(人事ファイル) 長く続く恋人になんて、なるとは思っていなかった。浅い恋人同士のまま終わると思っていた。狡噛に公安局の適性が出て、俺も同じく適性が出た時、もしかしたら、と思った。このまま不安定な友人のまま終わるんじゃなく、先があるんじゃないかって、俺は思ってしまった。しかし俺は不器用な人間だったから、例えば恋人たちがするようなことは分からなかったし、友人より先に進んでも面白くない人間だったと思う。けれど狡噛と長く一緒にいたら変われて、彼に相応しい人間になるんじゃないか、そう思ったりもしたのだった。
     だから最終考査が終わったあの頃の俺たちはとても不安定で(主に俺がそうで)、公安局の訓練に体力を使い尽くしていた時なんてほとんどやり取りをしなかった。俺たちの時代は数人に監視官の適性が出た珍しい時代だったらしい。だから訓練教官は喜んで俺たちをしごいてくれた。そのおかげで、俺は狡噛を思う時間すら失ってしまったのだけれど。
     
    「何を考えてる?」
    「え……あぁ、昨日あまり眠れなくてな」
     俺たちはとあるファイルを読みながら、向かい合ってコーヒーを飲んでいた。行動課のサポートに入れる、若い男女をどう選ぶか頭を悩ませていたのだ。基本的に人事は花城のものだが、俺たちの意見も聞きたいとのことだったので。外務省はあまりシビュラシステムの適性を重要視しないのか、潜在犯の俺たちのところまでこんな人事ファイルが来る。しかし海外調整局を希望するなんて珍しい奴らだ。どちらかというと、外様だというのに。
    「良さそうな奴はいたか?」
     咳払いをしながら尋ねる。すると狡噛は数人のファイルを束にして「これは駄目だな」と呟いた。人の良さそうな顔をした彼らは、辛い仕事には耐えられないと考えたらしい。けれど常森も垢抜けない、少女のような顔をしていた。それが今はああだ。人はどう変わるか分からないぞ。
    「俺たちも公安局の先輩方に、こんなふうに見られていたのかね……」
     ふと呟くと、狡噛が笑って肯定した。
    「それどころか、恋人同士ってこともバレてたみたいだぜ?」
     俺はむせてしまう。気づかれていたって、あの人たちに?
    「俺が思うにこのDとFも恋人同士だね」
     狡噛が笑う。俺はもうどうしていいのかわからなくなって、思い出したあの頃の少しでも純粋だった頃の自分に全部ばれているぞと言いたくなった。結局、見る人間が見たら、長く付き合うかどうかなんてすぐに分かってしまうのだろう。でも自分たちは何も分からずもがくのだ。どうにかして明日もずっと一緒にいたいと、そんな切実なことを考えて。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING喧嘩した二人の話。仲直りしようとする狡噛さんだったが…?!編。
    狡宜800文字チャレンジ2日目。
    いじわる(意地の悪い恋人について) ギノは意地が悪い。たとえばどちらも悪いような喧嘩をした後、彼は数日に渡って視線をそらし、あからさまに俺を避け、そしてデバイスのメッセージすら無視する。そしてその数日間俺は彼に触れることすら出来なくて、ようやく拝み倒してベッドに沈む頃には、もう一週間が過ぎていたりする。俺はこれでも彼を尊ぶようにしているつもりなのだが、どうやら、小さな一言が彼を傷つけてしまったりするようだ。二十年付き合ってそれが分からないというのだから笑ってしまうが、法律家にでも相談すればこれは内縁の夫に対する離婚事案らしいのだから恐ろしくて聞けはしないし詮索もしないのだが。
     そして今日も喧嘩をしてしまった俺は途方に暮れてギノの部屋のドアを叩く。通常市民は犯罪者を恐れず鍵を開けっぱなしにするが、移民の多い出島ではかつて東南アジアで見たような、何十にも錠前をつけるのが主流だった。ギノは移民ではないけれど、どうも俺は敵対勢力と見られている気がする。彼を傷つけるもの、彼の辛い記憶を呼び覚ますもの、なぁ、それでも愛していてくれよ。俺はそう願って、「ギノ」とインターフォンに呼びかける。音声は返ってこない。しかし鍵は開いて、俺はあぁ良かったと思い、そして何も手土産のない自分を思い出しこれは説得に時間がかかるぞ、と頭を抱えた。せめて酒くらい持ってくればよかった。
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    TRAINING狡噛さんが宜野座さんを見つけて色々考える話。
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    ただ一つだけの真実(君がそこにいること) たった一人の誰かを愛しているってこと、それが俺にとってのただ一つだけの真実だ。ずっと孤独だった、と言っては彼を侮辱することになるが、俺は一人で孤独だと感じていた。確かに本が俺の孤独を救ってくれた。多くの知識を与えてくれ、多くの人々の生き死にを教えてくれ、歴史とはいかなるものかを教えてくれた。だが、俺はやはり一人だったのだ。彼に出会うまでは。彼は嫌がるかもしれないが、彼が、ギノが大勢に囲まれて殴られて、それでも立ち向かってゆく美しさを見た時、本で読んだ美しい人々の生き死にを、ようやく現実でも見たと、そう思ったのだった。
     ギノにはこんなことは言ってない。ただ愛していると言っている。でも俺はギノのためなら強盗だって出来るし(金を稼ぐ方が簡単だからしないが)、知らない誰かの別荘を渡り歩いて寝泊まりをするカップルみたいな生き方もできる(これも別荘を買う方が簡単だからしないが)。ギノは俺にとっての神様みたいなものだった。本の中にしかいなかった、みんなに信仰されていたのに捨てられた神様みたいだった。ギノはとても美しくて、だからやっぱり神様なんだ。嫌がるから絶対に言わないけれど、俺はそれくらい参ってしまっているのだ。
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