あの頃の僕ら(人事ファイル) 長く続く恋人になんて、なるとは思っていなかった。浅い恋人同士のまま終わると思っていた。狡噛に公安局の適性が出て、俺も同じく適性が出た時、もしかしたら、と思った。このまま不安定な友人のまま終わるんじゃなく、先があるんじゃないかって、俺は思ってしまった。しかし俺は不器用な人間だったから、例えば恋人たちがするようなことは分からなかったし、友人より先に進んでも面白くない人間だったと思う。けれど狡噛と長く一緒にいたら変われて、彼に相応しい人間になるんじゃないか、そう思ったりもしたのだった。
だから最終考査が終わったあの頃の俺たちはとても不安定で(主に俺がそうで)、公安局の訓練に体力を使い尽くしていた時なんてほとんどやり取りをしなかった。俺たちの時代は数人に監視官の適性が出た珍しい時代だったらしい。だから訓練教官は喜んで俺たちをしごいてくれた。そのおかげで、俺は狡噛を思う時間すら失ってしまったのだけれど。
「何を考えてる?」
「え……あぁ、昨日あまり眠れなくてな」
俺たちはとあるファイルを読みながら、向かい合ってコーヒーを飲んでいた。行動課のサポートに入れる、若い男女をどう選ぶか頭を悩ませていたのだ。基本的に人事は花城のものだが、俺たちの意見も聞きたいとのことだったので。外務省はあまりシビュラシステムの適性を重要視しないのか、潜在犯の俺たちのところまでこんな人事ファイルが来る。しかし海外調整局を希望するなんて珍しい奴らだ。どちらかというと、外様だというのに。
「良さそうな奴はいたか?」
咳払いをしながら尋ねる。すると狡噛は数人のファイルを束にして「これは駄目だな」と呟いた。人の良さそうな顔をした彼らは、辛い仕事には耐えられないと考えたらしい。けれど常森も垢抜けない、少女のような顔をしていた。それが今はああだ。人はどう変わるか分からないぞ。
「俺たちも公安局の先輩方に、こんなふうに見られていたのかね……」
ふと呟くと、狡噛が笑って肯定した。
「それどころか、恋人同士ってこともバレてたみたいだぜ?」
俺はむせてしまう。気づかれていたって、あの人たちに?
「俺が思うにこのDとFも恋人同士だね」
狡噛が笑う。俺はもうどうしていいのかわからなくなって、思い出したあの頃の少しでも純粋だった頃の自分に全部ばれているぞと言いたくなった。結局、見る人間が見たら、長く付き合うかどうかなんてすぐに分かってしまうのだろう。でも自分たちは何も分からずもがくのだ。どうにかして明日もずっと一緒にいたいと、そんな切実なことを考えて。